第二十二章 心に嘘はつけない
日本の家具って小さいんだよね
李と、八幡にある大型店舗にやって来た。食料品や日用雑貨がアメリカンなサイズで売られている会員制の店舗だ。その中央付近に、家具が並んでいる。美葉はソファーセットの大きさに度肝を抜かれた。
「日本の家具は、小さいんだよ。中国人はこのサイズじゃ無いとくつろげない。日本人は靴を脱いで生活をするけれど、中国人は基本的に家の中でも靴を履いている。欧米と同じだ。靴を履いている分、家具の高さは高くなる。」
李は自分の家のように黒い革のソファーに腰を下ろして足を組んだ。美葉も周囲をキョロキョロと見回してから、遠慮がちに隣に腰を下ろす。背もたれに身体を預けたら足をおろして座れないのでは無いだろうか。そう思いながら改めてソファーを眺めた。
「日本の家は狭いから仕方が無いのかも知れないけど、日本人はコンパクトな家具を好むよね。中国に家具を買い付けに来るバイヤーもいるけどね、結局日本サイズに作り直さないと売れないって嘆いているよ。」
「中国の方と日本人は、体型には差が無いと思うんですけどね。このサイズの家具を日本で探すのは難しいです。いっそ、ここで買いそろえますか?」
李は肩をすくめた。
「それじゃあ、美葉に相談した意味が無い。」
「そうですよね。失礼しました。」
軽率な発言だった。美葉はばつが悪くなり、ぺこりと頭を下げた。
通常リフォームは建物本体だけを請け負う。家具は引き渡し後持ち主が買いそろえるものだが、李は家具も込みでデザインを考えて欲しいと言い出した。日本では李が理想とする家具がそろわないのだという。李の示したサイズが余りにも大きかったので何かの間違いではと確認すると、ここに連れてこられたのだった。
「出来るだけいい木を使って欲しいんだよ。こんな、張りぼての家具はいらない。」
李は背もたれを叩きながら言う。確かに、レザーは合皮だし内側は合板で出来ているようだ。隣のソファーは合板に木目を装ったシートを貼ってあり、申し訳ないがどう見ても安っぽい。
「不特定多数の方が使うとなると、傷を付けられる可能性もありますが?」
「それならなおのこと無垢材がいいよ。削れば傷なんて消えてしまう。合板を削るわけにはいかないでしょ?」
「確かに……。」
美葉が頷くと、李は真面目な顔で頷き返した。
「大きな損害は勿論壊した相手に弁償して貰うさ。でも万が一知らないって言われても、保険を掛けておけば損害を補える。それよりも、良質の木で作った家具は必ず価値が上がるんだよ。そっちの方が重要さ。」
「価値が上がる?」
使用年数が経つほど物の価値は下がるのではないか。そう思いながら美葉は首を傾げた。しかし、すぐに必ずしもそうではないと気付く。
「確かに、木材の価格は年々上昇していますもんね。黒檀みたいに、輸入できない木材も増えてくるでしょうし。」
「そういうこと。良い家具を使うのは投資目的でもあるし、リスクヘッジでもあるんだよ。もしホテル業が頓挫しても、古民家と家具を売却すれば損失は補填できる。」
「成る程……。」
家具は投資。そんな言葉を聞いたら、正人はどう思うだろう。
ふとそんな考えがよぎり、またかと苦笑する。今そんなことを考える必要は無いと考えを打ち消した。
「では、家具職人に特注で作らせましょう。腕の良い職人を探しますね。」
「頼むよ。美葉のデザインにマッチしたものをね。」
李は満足気に頷いた。
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