愛を貫く
『愛は、責任を持って貫くべきです。その結果がどうであっても、放棄してはいけないと思いますよ……。』
仁の言葉が耳について離れない。
仁は、何故綾の愛を受け取らなかったのだろう。
何故奪いに行かなかったのだろう。
何故会いに行かなかったのだろう。
あんなにも愛していたのに、自分はあの山小屋から一歩も動かず、綾を待ち続けたのは何故だろう。
お嬢様育ちの綾に貧しい思いをさせたくなかったからか?綾の家庭を壊したくなかったからか?
正人はカウンターに手をついて、グランドを見つめた。所々禿げた芝生の向こうに、美葉に求婚した神社が見える。
――いや、そうではない。
そう気付いて、苦い思いで首を横に振る。
仁は、意気地が無かったのだ。
山小屋暮らしに疲弊して自身の選択を後悔する姿を見たくなかったのかも知れない。家族を捨てた後悔と悲しみにくれる姿を見たくなかったのかも知れない。やはり自分の元に行くことをやめたのだと綾の口から聞くのが怖かったのかも知れない。
愛を貫くことよりも、自分の心を守る方を選び続けた。
その結果、綾は後悔を残して亡くなった。そして仁の心にも、大きな悔恨が残った。
仁と自分の姿が重なる。
自分は、愛を放棄した。
対話しようとした美葉に背中を向け、一方的に別れを告げてしまった。
――彼女を守る為だ。
この選択は、間違っていないはずだ。
なのに何故か、重く苦いものが胸に広がって息苦しい。
自分はいつも逃げてきたけれど、美葉との別れは逃げた上での選択ではない。自分の心を守る為でも無い。ただ一点の曇り無く、美葉の幸せを願っての選択だった。これだけは胸を張って言える。
なのに、仁の言葉が耳鳴りのように響いて、離れてくれない。
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