納品-1

 保志は仏壇の納品に同行した。


 今回は正人の心配というより、好奇心の方が強かった。正人がどのような仏壇を作り、仁がそれをどのように受け止めるのか、あの話を聞いた者として見届けたいと思った。


 仁は、食堂の隣にある自室に正人と保志を招き入れた。他の客間と変わらない作りだが、プラスチックの収納用品や、小さな座卓に置かれたパソコンに生活の気配が漂う。窓の外には銀泥の林が広がっていた。


 その窓の正面に、仏壇を置く場所を指定した。正人は丁寧な梱包をほどいていく。


 指定の場所に置かれた仏壇を見て、仁は感嘆の息を漏らした。保志も思わず唸る。


 材は栓。木目が美しいこの木材は、銀泥と同様に北海道に広く自生している。等しく入る柾目が美しい、白色の木だ。仏壇の下部は観音扉になっている。扉を開けると引き出しが並んでいる。手紙を収納するための引き出しであろう。扉にも引き出しにも幾重にも重なる葉が彫り込まれていた。銀泥の葉を模したものだと一目で分かった。仏壇の上段は一つ棚があるだけのシンプルな作りだ。香炉や花、写真を飾るだけならばそれで充分だろう。内部にはLEDライトが仕込まれている。その光が、背面に彫り込んだ銀泥の葉に陰を作る。


 「ここは、仁さんと綾さんが毎日デートをする場所です。できるだけ明るい場所にしようと思い、白い木材を使いました。銀泥は家具に使うことの出来ない木材なので、仲の良い栓を使いました。代わりに銀泥の葉を掘らせて頂きました。」


 仁は震える手で引き出しに触れた。


 「ありがとうございます。ありがとうございます。」

 仏壇に額を付けて蹲る、その背中が震えている。


 「きっと綾は、ここで安心して過ごすことが出来ます……。」


 正人は、仁の隣に正座をした。そして、仏壇に手を合わせる。しばらく静かに手を合わせた後、顔を上げて仁を見た。


 「僕は、綾さんの魂がどのように過ごしているのか考えていました。きっと、毎日仁さんに寄り添って、一緒にお客さんを迎え、疲れを癒やして貰い、山に旅立つ姿を見送っているのでしょうね。」


 仁は熱く湿った吐息を吐いて頷いた。


 「綾がすぐ側にいると感じることがよくあります。正人さんの言うとおり、綾の魂は僕に寄り添ってくれていると、信じています。」

 「僕は、死んだことがありませんので、死者の魂がどうあるのかはわかりません。でも、もしもそうならば、仁さんが毎日同じ日常を繰り返していては、綾さんが退屈するのでは無いかと思いました。」


 「え?」 

 仁は唖然と口を開け、正人を見る。


 「仁さんが新しいことを発見したり、挑戦したり。そんな日常を共に過ごす方が、綾さんは楽しいと思うんです。だから、仁さんは思い出の中に生きるのでは無く、今を生きた方が綾さんの為になるのではないでしょうか。」


 「今を生きる……。」

 仁は口の中で正人の言葉を繰り返した。

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