親友の恋敵-2
作業は二人でやるとアッという間に終わった。
「団子、いちいち取りに来なくても、私が納屋に届けるけど?」
団子を詰めた段ボールを持ち上げようとしたアキに佳音はそう言った。アキは意外そうな視線を佳音に向け、慌てたように首を横に振る。
「……いえ、佳音さん、妊婦さんだから……。荷物抱えると足元が見えにくいから、転んだら大変です。」
目を伏せながらそう言って、段ボールに手を掛ける。そしてふと、動きを止めた。
「人気、あるみたいです。お団子。」
小さな声でそう言う。聞き取りにくい声だ。
「最近、昼過ぎには無くなっちゃうって……。昨日、始めてリピーターさんに声を掛けられたって、悠人さんが喜んでいました。」
「……そう。」
団子は、アキが考案したレシピだと聞いた。自分の仕事を自慢したいのかと思い、ムッとした。厚かましい女だ。
バタバタ大きな足音が聞こえる。誰かと予想するよりも早く健太が顔を出した。
「今日、悠兄の代わりに納品に行くことになった。俺、持ってやるよ。佳音、いつもありがとうな!」
健太はにかーっと脳天気な笑顔を向けた。
「じゃあ私、草刈りに行きます。」
アキは小さく頭を下げ、台所を出て行く。パタパタ軽い足音が遠ざかる。それを見送る健太の目尻が下がっている。その顔を見ると無性に腹が立った。
「ねぇ!健太!分かってんの!?あの子は美葉と正人さんの幸せを壊した女よ!?デレデレ鼻の下伸ばしてんじゃ無いわよ!」
自分でも驚くほどきつい声でそう言うと、健太はぽかんと口を開けた。それから、はっと顔を赤らめる。
「べ、別に鼻の下なんて伸ばしてねぇベ!」
両手を振って否定する健太に佳音は白い視線を投げる。
「惚れたでしょ。」
う。健太は変なうなり声を上げた。ふーん。佳音は腕を組んで健太に向かって眉を上げる。
「正人さんの元嫁。この事実をよもや忘れたわけではあるまい?」
うう。健太は更に唸った。
「もし万が一あんた達が付き合うことになったらどうなると思うよ。正人さんはこっちの集まりに来れなくなるし、美葉だって里帰りしにくくなっちゃうわよ。」
ううう。健太は唸りながら顔をしかめた。佳音は腕を組んだまま、ふんと唇を尖らせる。
健太が、ふっと息を吐いた。
「関係なくねぇ?」
困ったように眉をハの字に下げている。佳音は意外な答えに驚いて健太を凝視した。健太は肩をすくめて見せた。
「美葉と正人が別れたのは、二人の問題。アキはきっかけになったに過ぎねぇよ。」
「何よそれ。あの女が来なければ、二人は今でもラブラブよ。」
「そうかな。」
健太は佳音の言葉に自分の言葉を被せるように否定した。
「アキの存在を伏せたままで良かったのかな。正人本人がそれで、納得できたのかな。後から判明したら、美葉はやっぱり傷付いて、怒るだろうな。……アキと正人が一時でも、どんな関係でも、結婚して共に暮らしていたって事実は、消えないんだ。」
「それは、そうだけど……。」
「美葉と正人は別れた。だったら、アキがここにいるのも俺がアキに惚れるのも自由だ。」
堂々と開き直ってそう言い、健太は不機嫌な顔をした。
「お前が美葉の事を想ってアキを否定するのは、仕方が無いことだと思う。だけど、あからさまに態度に出すのは大人気ないぜ。」
佳音は唇を結んだ。健太の言葉は正論で、言い返すことが出来ない。口をへの字にしたまま、視線を彷徨わせる。健太が大げさな息を吐く。
「仲良くしようぜ。そうしないと、楽しくないじゃん。」
そう言って健太は、よ、と声を上げて段ボールを持ち上げた。
「結構重いな。15㎏くらいあるな、これ。」
そう言い残して、台所を出て行く。そう言えばいつも、アキはふらつきながら段ボールを抱えていたかも知れない。
だからって……。
佳音の胸には、黒々とした塊が残る。
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