親友の恋敵-1
実家に帰ってのんびりしようと思っていたら、団子作りを頼まれた。夫はパン屋の女将、母は団子職人。勝手に人の職業を変えないで欲しい。そう思いながら、団子を竹の皮で包んでいく。
団子は米を粉にするところから始めないといけないし、団子をくるむ竹の皮は水につけて柔らかくし、端を裂いて紐を作っておかなければならないし、本当に手間が掛かる。毎日五十食分を作るのに、一日がかりの仕事だ。
まあ、暇を持て余すよりは良いけれど。
慣れてしまえば大変な工程は何一つ無く、のんびりと自分のペースで出来るのが良い。毎日命を相手に張り詰めて仕事をするよりはよっぽど気が楽だ。
だから、いいんだけど。
佳音はムッと頬を膨らませた。
あの女は、何故こんなにこの地域に馴染んでいるのだ?実家に帰ってきた日に波子や悠人と楽しそうに話をしていたアキの顔を思い出し、胸の辺りにモヤモヤとした暗雲が立ちこめる。まるで古くからの知り合いのように振る舞うなんて、図々しい。
猛という子は桃花とすっかり仲良くなって、桃花の部屋で宿題をしたり遊んだりしている。あそこは、母親でさえ入れたがらない桃花の聖域だ。あの年から異性に取り入るのが上手いなんて、末恐ろしい。
トドメは健太だ。
笑った顔にエクボを見付けて、ピンときた。健太が好きなタイプの女性そのものだ。だからって、そのデレデレ具合は無いだろう。完全に魂を持って行かれているではないか。
皆、どうかしている。
あの女は、美葉と正人の幸せをぶち壊しに来た女なのに。
そう思うと、竹紐を結ぶ手に力がこもる。
柱時計が、ポーンポーンと時刻を知らせる。それで我に返り、バットに並んだ団子と積まれた竹皮を見て焦った。アキが団子を取りに来る時間だ。手元に集中し、作業スピードを上げる。
しかし、予想していた通りアキは時刻ぴったりに現われた。台所の戸口で足を止める。
「手伝います。」
小さな声でそう言い、正面の椅子に座って梱包作業を始めた。佳音は口を固く結び、作業を進める。向かいに座られるのも嫌なのだが、自分が遅れてしまったので仕方が無かった。アキは手慣れた様子で梱包作業を進めていく。アキが自分から話しかけてくることは、これまで一度も無かった。自分を見ると気まずそうに目を伏せて身体を小さくする。その姿が陰気くさくて嫌いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます