この団子売れるかな

 醤油と砂糖の辛いタレを絡めた団子は、素朴で優しい味がした。蒸した上にコンロで炙ったらしく、香ばしさが食欲をそそる。


 「美味しいねー。」 

 波子が歓声を上げる。


 「上手いなぁ。これ、売れるんじゃ無いか?」


 悠人は既に食べ終えて感心したように大きな瞳を丸くしていた。健太は二つ目に手を伸ばしながら、うんうんと頷いている。アキは、恥ずかしそうに頬を赤く染めて俯いていた。


 そこへ、紫色のバスがやって来た。すぐに猛が飛び降りるようにドアから出てきて、その後から桃香がゆっくりと降りてきた。


 「どうもありがとうございました。」


 猛は運転手に丁寧に頭を下げる。運転手が手を振るのが見えた。顔を上げて猛は母の姿を探し、見付けるとはじけるような笑顔で駆け寄ってくる。


 「桃も、おいで。」


 悠人が娘を手招きした。桃香は、面倒臭いと言うように顔をしかめて、のろのろと歩み寄ってきた。


 「二人とも、これ上手いから食べてみな。」

 悠人はアキから団子の入ったタッパーを受け取り、二人に差し出した。


 「あ、団子だ!」


 猛にとっては馴染みのものであるらしく、嬉しそうに手を伸ばす。桃香は警戒して凝視し、すぐに手を伸ばさなかった。


 「有機米の米粉と、醤油と砂糖でできてるから、大丈夫だ。」


 悠人が声を掛けると、疑うような視線を投げてから手を伸ばす。そして、端の方を少しだけ囓った


 「あ、美味しい。」

 桃香が呟くように言う。


 「だべ?これは、最高のおやつだな。」

 「ぼくのお母さんがつくったんだよ!」


 猛が誇らしげに桃香を見上げた。桃香は鼻の頭に皺を作り、小さな笑みを猛に返した。


 「これ、本当に商品化出来ないかな。新風じんふぁの隣のアンテナショップ限定でさ。」

 悠人が真面目な顔をする。アキは驚いた顔を悠人に向けた。


 「有機米を使った安心で安全なみたらし団子。どうかな。」

 「こんな、ありきたりの物……、売れるでしょうか?」


 遠慮がちにアキが言う。


 「確かに、同じみたらし団子、別の製菓店も出してるからな。なんか差別化しないとな。」


 健太は首をひねる。有機米の米粉で作ったみたらし団子は、団子自体の味が格別いいが、プロの味と比べたら残念ながら見劣りがする。


 「……白砂糖って、身体に良くないですよね。黒糖で作ってみましょうか。」


 遠慮がちにアキが言うと、お、と悠人が目を見開いた。健太は黒糖のコクのある甘みを舌に思い出し、それからあることを思いだした。


 「黒糖もいいけど、甜菜糖の方が北海道らしいかもな。」

 「甜菜糖?」

 「ビートって言う大根みたいな野菜から作る砂糖さ。あっさりした甘みで、食材のうまみを引き立てるから、米粉の味に自信がある団子にはうってつけさ。GI値も低いから、糖尿持ちにもおすすめの砂糖さ。」


 アキが首を傾げたので、健太は得意げに解説する。健太の父の持病が糖尿病のため、家では甜菜糖を使っているのだ。


 「んじゃ、醤油も自家製醤油使おう。節子ばあちゃんが仕込んでたよね、波子さん。」


 波子が頷いた。


 「三年前にばあちゃんと一緒に作った諸味があるね。寝かせすぎかも知れないけどね。……猛、桃、一緒に醤油を絞ろうか。」


 「醤油を絞る?」

 猛が不思議そうに言う。


 「そうだよ。醤油はね、大豆と小麦と塩で諸味っていう物を作るのさ。そこから搾った汁が醤油だよ。流石の当別の小学校でもね、醤油を作ったことがある子はそうそういないと思うよ。」


 人差し指を立てた波子に、猛は踊るように「やってみたい!」と飛び跳ねる。仏頂面の桃香に波子は拝むように手を合わせる。


 「結構力仕事なんだよ。桃香も手伝って。」


 波子に拝まれた桃花は、仏頂面のまま頷いた。


 「原材料全てオーガニック。自家製醤油と甜菜糖のタレ。」

 健太が呟くと、悠人は目を輝かせた。

 「絶対売れるよ!」


 アキは驚いた表情でその場にいる全員の顔を代わる代わる見ていた。

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