節子ばあちゃんの元で

 節子のロッキングチェアーを縁側に運び、錬と二人で両側に座る。夕日が二人を照らし、眩しくて目を細めた。


 ここは、節子のお気に入りの場所で、天に召された場所でもある。ロッキングチェアーに右の肩を預ける。こうしていると、節子と共にいるような気がして、佳音はそっと目を閉じた。


 「……健康管理が、大事なんだってさ。」


 錬が言う。


 「うん。食べるものは気をつけてるよ。」

 「おやつのドーナツは当面禁止だな。」

 「えー……。」


 目を閉じたまま、佳音は不満の声を上げた。


 「夜更かししないようにも、気をつけてるよ。」

 「テレビを見るのは、11時まで。その後のスマホも禁止。」

 「えー……。」


 佳音は薄目を開け手練を見上げる。錬は頬を朱に染めて、空を見上げていた。その顔を見て、佳音は迷いを捨てた。


 「傷病休暇を取って、実家で出産まで過ごそうかな。」


 錬は、佳音の方に顔を向けた。その顔に、安堵の色が滲む。小さな目を細めて口元を緩めた。


 「俺は、その意見に賛成。」

 「休みの日は必ず会いに来てね。」

 「勿論。」


 優しく細められたままの瞳を見つめる。


 「私がいないからって、夜更かししちゃ駄目だよ。」

 「分かってるよ。」


 錬は頷いた。


 「私がいないからって、ザンギばっかり食べてちゃ駄目だよ。」

 「えー……。」


 錬は情けないほどがっかりした顔をした。思わず、吹き出してしまう。


 錬は、ロッキングチェアに手を置いて、揺らした。


 「佳音と、俺と、波子さんと、直美さん。そして、節子ばあちゃんで、赤ちゃんを迎えような。絶対に、元気な赤ちゃんを。」

 「うん。」


 佳音は頷いて、夕焼けの空を見上げる。朱色に紫の帯が混じる、鮮やかな空だった。

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