小さな米-1
意外とアキは酒に強く、のんびりとビールを飲み続けながら悠人と健太の話を黙って聞いていた。
「倉庫の小米、どうしような。諦めて、飼料にするかい?」
悠人が眉をハの字にした。健太はそれを受け入れられず、うーん、と唸る。
「小米って言うのはね、規格外になった粒の小さな米なんだ。去年雨があまりにも少なくて、小米になる米が多かった。そういうのは食用に売り出せないから、家畜の飼料に回すんだ。勿論売値は安いけど、捨ててしまうよりは良い。倉庫に眠らせておいて、ネズミの餌になったら目も当てられないさ。」
悠人はアキが話題において行かれないように農業用語が出てくると、丁寧に解説した。アキが黙って聞いていることに変わりは無いが、頷いて会話の仲間に入れているのは悠人の配慮のお陰だろう。
「小米は小米でも、オーガニックだぜ。味は格段に良い。何か上手い使い方は出来ないのかなぁ。」
健太はなおも食い下がる。手を掛けて作った米を粗末に扱うのは抵抗があった。悠人がそこは割り切って、今期の米にその労力を注げというのも分かるのだが。
「粒の小さなお米……。」
アキが呟いた。健太はその声を聞き逃さず、アキに視線を向ける。アキは一瞬顔を赤くした。
「……ネットで、安いお米を見付けて買ってみたら、すごく粒の小さいお米が届いたことがあるんですけど、小米ってそういうものですか?」
「そうそう。」
悠人が頷いた。健太が首を傾げる。
「そんな粗悪米、食用に出回るかい?」
「個人がインターネットで販売するなら、言い方は悪いけど何でもありなのさ。俺らでも、倉庫の小米を売ることが出来るぜ。粒が小さいって書いておけば苦情も来ないだろう。オーガニックに違いないんだから、値段を安くすれば飛びつく人もいるだろうさ。」
「そんなものなのかぁ。」
悠人の解説に健太はむっとしながら応じた。小さな粒の米は、食味に劣る。それを曖昧にしてオーガニックという言葉で客を釣るような真似は気に入らない。だが、世の中にはそんな阿漕な商売をする者が山のようにいる。アキはその一つを掴まされたのだろう。
「やっぱ、美味くなかったろう、その米。」
眉間に皺を寄せたまま健太は言った。アキは意外とあっけらかんと首を傾けた。
「確かに、スーパーのお米よりは美味しくなかったです。だから100鈞のすり鉢ですって米粉にしました。団子を作って冷凍しておいたらおやつになるし、汁物に入れればお腹が膨れるし、意外と重宝したんです。」
へぇ、と健太と悠人は声を上げた。ジャガイモの焼き肉といい、アキは猛が喜ぶように色々な工夫をしながら生活していたのかと思うと胸がきゅっと締め付けられる。センチメンタルになる健太をよそに、悠人は目を輝かせて身を乗り出した。
「米粉で作った団子か!それ、いいんじゃないか?明日、それ作ってみてよ。」
「確かに美味そうだけど、何か思いついたのかい?」
悠人は健太に向かってにやりと笑った。
「オーガニックの米粉だぜ、美味いに決まってるさ。もしかしたら、新風の隣のアンテナショップで売れるかも!」
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