バーベキュー-2

 桃香はぴったりと身体を付けるように波子の隣に座り、波子が作った胡瓜の一夜漬けを囓っていた。保志はビールを片手に、健太と悠人に向かって武勇伝を語っている。


 焼けた肉を食べた猛は、美味しいと目を輝かせている。猛は桃香のそばに行き、自分の皿にのっている肉を一切れ渡そうとした。桃香は手で箸の行く手を塞いだ。


 「食べたくないからいいの。」

 「どうして?おいしいよ?」


 純朴に首を傾ける猛に、桃香は不愉快そうに眉をしかめた。


 「お肉食べたら、お腹が緩くなるの。だから、あまり食べたくない。」

 「……おにく、たべられないの!?」


 衝撃を受けたように、猛は後退る。桃香はムッと口を歪めた。


 「少しだけなら食べられるけど、日によってアレルギーが出ることもあるから食べたくないの。」

 「アレルギー?」

 「じんましんが出るの。かゆくなるのよ。下痢することもあるし。」


 面倒くさそうに桃香が言い、そっぽを向いた。もう関わるなと身体が示している。やれやれと波子が立ち上がり、バーベキューの網をずらして火ばさみで炭の中のアルミホイルを取り出した。その中にはジャガイモが入っている。波子はアルミホイルを外し、ジャガイモを半分に割ると、桃香の皿と猛の皿に取り分けた。


 「昼間、猛と掘ったんだよ。取れたてだから、すぐに火が通る。おいしいよ。」


 桃香は頷いて、ジャガイモを箸で突いた。猛は、はっと顔を上げてから、桃香を見た。そして、ジャガイモをタレに浸すとバーベキューコンロに近付き、ジャガイモをのせた。しばらくするとタレが焦げ、香ばしい香りが漂う。それをもう一度箸で掴むと、桃香の元に戻って皿の中に入れた。


 「こうすると、おにくのあじになるんだよ。じゃがいもは、かゆくならない?」

 「な、ならないけど……。」


 呆気にとられたように桃香はぽかんと口を開けた。


 「よかった。」

 猛はにっこりと笑う。桃香は、鼻の頭に皺を寄せてから、猛の作ったジャガイモを一口囓る。


 「……本当だ。お肉を食べてる感じがする。」

 「そうでしょう?おにくがたかいから、ジャガイモでがまんするんだよ。でも、おいしいんだよ。」

 「猛……。」

 アキの顔が見る見る赤くなる。


 「や、焼き肉はお金がかかるから、お肉は少しにして色々なものをタレに漬けて焼いていて……。ジャガイモが一番、タレが染みこむからお肉っぽいみたいで、猛の大好物なんです……。」


 恥ずかしそうに、身体を小さく丸めて俯いた。

 保志が、ガハハ、と笑う。


 「何でも工夫やな!お陰で、桃の楽しみが一つ増えたやないか!」

 保志がそう言うと、桃香は口を尖らせつつもタレのしみたジャガイモを頬張った。


 「猛、お前肉好きか?」

 「すきです!」


 強面の保志に物怖じせず、猛が答えると保志は破顔した。


 「健太、今度二人を新風じんふぁに連れてったれ。俺が奢ったる。なんたってオーナーやからな!」


 保志の言葉に、猛はきょとんとした顔をした。


 「……おんなの子なの?」


 今度は保志がぽかんと口を開ける。


 「女じゃなくて、オーナーだよ、猛。やっさんがスカートはいたら皆びっくりしちゃうよ。」


 波子が笑った。スカート姿の保志を想像し皆笑い出す。その笑い声が小屋の空気を満たしていった。

 

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