第十二章 真実を知っても
僕のお父さん
陶芸粘土をよくこねて、半分を猛に渡した。
校庭の隅で猛は、泥をこねていた。何をしているのか問いかけると、スズを作るのだという。土仏の事だとすぐに分かった。
アキがなくした土仏は、正人が作った物だった。
校庭の土では、どうやっても土仏を作ることは出来ない。正人は猛を連れて陶芸粘土を買いにホームセンターへ向かった。
その途中で、美葉と涼真を見付けてしまった。
鼓動はいつまで経っても収まらず、胸はずっしりと重い。だが、無邪気な猛といると少しだけ救われる気がした。
「こうやってね、玉子の形を作ってごらん。」
正人は粘土を丸めて見せた。正人の手の中で、粘土はみるみるうちに精巧な卵形になる。猛は頷いて、手を動かして粘土を丸めた。まだ幼児のものと変わらぬ柔らかい手は、粘土を持て余しているように見えた。その手は正人のものよりもまん丸に近い、凹凸のある球体を作り上げた。
「そしたらね、お顔と身体を分けるんだよ。」
正人は木片を使い、真ん中よりも少し上に横向きの切り込みを入れた。猛に渡すと、猛は調度真ん中に切り込みを入れる。正人は笑顔でそれを見ていた。
「じゃあね、ほっぺたを丸くして。」
正人は指先を使い、まろやかな頬を作っていく。猛は苦戦を強いられたが、ぽっちゃりとした愛嬌ある顔が出来た。
「かわいいね。」
正人は頷いた。
「これであっていますか。」
猛の問いかけに、正人はもう一度大きく頷いた。
「猛君の心を込めて作れば良いんだよ。どの形にも、正解も不正解もないんだ。」
猛は少し唇を尖らせて、二つの人形を見比べた。そしてふと顔を上げてまじまじと正人に視線を向ける。正人は少し首を傾けて応じた。猛は不安そうに眉を寄せて、頼りない声で問いかけてきた。
「おじさんは、ぼくのお父さんなの?」
正人の心臓は跳ねるように動いた。戸惑いながら、猛に視線を戻す。
「……どうして、そう思うの?」
猛の言葉にどう答えていいのか分からなかった。だから、一番無難な言葉を返した。
「おじさん、テレビにでる人?」
「え?」
思いがけない問いかけに正人は驚き、首を横に振る。
「僕は、家具屋さんだよ。」
正人の答えを聞いて、猛の顔がぱっと明るくなる。
「じゃあ、やっぱりお父さんだ!」
正人は困惑し、嬉しそうに顔を上気させて自分を見つめる猛を見つめ返した。猛はふと、不思議そうな顔をした。
「でも、どうしてテレビにでていたの?」
まさとはそっと、眉をしかめた。健太の招致したお見合い番組のお陰で自分は欲にまみれ、工房を危うくした。その記憶が蘇る。同時に不甲斐ない自分へ向かう苦い思いが喉元に込み上げてきた。思わず嘔吐きそうになるのを堪え、口角を上げて猛に伝える。
「テレビに出る仕事じゃ無い人でも、出ることはあるんだよ。おじさんは、あの一回だけしかテレビには出ていないんだよ。」
「そっか。」
慎重に言葉を選んだが、猛には腑に落ちたようだった。
「お母さんは、そのテレビを見たの?」
問いかけると、猛はうんと大きく頷いた。
「まいにち、まいにちみてたよ。この人だれってきいたらね、『たいせつな人』っていってたの。たいせつな人ってけっこんする人のことでしょ?でも、へんだなーっておもってたの。ぼくのお父さんは、かぐやさんだよってまえにお母さんがいってたから。」
「大切な、ひと……?」
猛の言葉が信じがたくて、正人は言葉を繰り返した。
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