バンメン?変な奴ら!-2

 「つまりはこういうことだな。陽汰は言葉をしゃべらないが感情は顔にダダ漏れだ。それを本人が気付いていないから指摘するのではない。と、のえるは言いたいのだ。」

 「あー、言っちゃってんじゃん、世史朗!ウケルー!」

 のえるは顔を仰け反らせた。


 思わず顔を両手でまさぐる。感情が表にダダ漏れ?どういう事だ。

 陽汰は逡巡し、はっと気付いた。


 今まで顔の半分を前髪で隠していたので、相手に自分の表情を知られることはなかった。それ故に無防備に思ったことを顔に出していたかも知れない。


 のえるに自分の心を見抜かれていると思うことがよくあった。それはのえるが繊細な心の持ち主で、千里眼のように人の感情を読み取る能力を持っているからだと思っていた。


 それがとんだ勘違いで、自らわかりやすく顔に貼り付けていたと知り、愕然とする。思わず皆に背を向けて額を壁に押しつけた。これから、どんな顔をして人に相対したら良いのだろう。もう一度、前髪の下に隠れる人生に戻りたくなる。


 「あんたら阿呆?陽汰がやりにくくなっちゃうじゃん。」

 「面目無い。俺はこういう失言が多い。承知の上で付き合って頂きたい。」

 のえるの呆れ声と冷静に言い訳をする世史朗の声が背中に聞こえる。もう嫌だ。家に帰りたい。陽汰は更に強く壁に額を押しつけた。


 その耳に、じゃーんと甲高いギターの音が響いた。


 「もう良いじゃん、そんな小せー事!折角スタジオにいるんだし、ジャムろうぜ!」


 言葉の後に続く旋律に、陽汰は思わず顔を上げた。


 それは、始めてku-onとして世に流した曲だった。


 「へぇ、練習してくれたの?」

 驚いたようにのえるが言う。


 「違うよー。俺ら二人、動画見付けて即完コピしたのさ。」

 「ああ、魂を持って行かれたからな。」


 翔の旋律に、世史朗の声が合わさり重低音がリズムを刻み始める。


 「陽汰っ!」


 のえるが陽汰の腕を引いた。強制的に振り返ると、ニコニコ笑う翔とくそ真面目な顔で頷く世史朗がいる。それをみて、衝動的に身体が動いた。気が付くとドラムセットの椅子に座り、スティックを構えていた。


 世史朗のリズムに合わせてドラムを叩く。昔に作った曲なので、細かい事は覚えていない。しかし、身体が勝手にリズムを刻み始める。ギターがリズムの上に旋律を加える。


 のえるの声が、ギターの旋律の間を遊ぶように伸びやかな言葉を乗せていく。


 うわ、なんだよ、これ。


 ドラムを叩きながら、体中の毛が逆立つような興奮を覚える。


 パソコンの中ではどんな楽器でも操ることが出来る。エフェクトを掛ければ変化を加えるのも自由自在だ。でもこんなに自由に豊かに組み合わさって広がっていく音を、その反響を、始めて聞く。


 「超気持ちいー!」


 間奏に入ってすぐに、翔が叫んだ。その声に合わせて、シンバルを打ち鳴らす。


 

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