第十章 新しい仲間
バンメン?変な奴ら!-1
「ちーっす!」
軽いノリで手を上げたのは、絵に描いたようなチャラ男。尖った顎のイケメンで、外ハネさせた金髪に黒いわっかのピアスが映える。Vネックの胸元にブラックチェーンのネックレスがセクシーアピールのようだ。はっきり言っていけ好かない。これが、陽汰の第一印象だった。
「初めまして。」
対照的に45度の傾斜でお辞儀をしたのは、サイドとバックを潔く刈上げ、てっぺんの長髪を丁髷のように結い、微かにウェーブ掛かった前髪をたらした男。眼光鋭い侍のような風格は近寄りがたくて苦手だった。
チャラ男がギターで、侍がベース。
嫌、この人選悪意あるだろ。
陽汰はコブラに睨まれた蛙のごとく身体を強ばらせた。のえるも横で顔を引きつらせている。
おもむろに、侍、もとい
「髪型が、被ってる。」
ぼそりと呟く。陽汰はハッとして自分の側頭部を撫でた。昨日バリカンでツーブロック部分をそり上げたばかりだ。長い髪を結んでいるのは確かに同じかも知れないが、自分の髪はそんなに奇抜ではない。心外だな、と陽汰はムッとした。
おもむろにドンドンチンチンとけたたましい音がした。チャラ男、ではなく
「これ、陽汰の?スタジオの備え付け?どっち?どっち?」
ニコニコ笑いながら聞いてくる。かと思いきや、壁に取り付けられたスピーカーをバシバシ叩き始めた。
「落ち着くのだ、翔。」
野太い声で世史朗が窘めると翔は叱られた子供のように肩をすぼめた。
イケメンで、落ち着き無い行動。これ、どこかで見たことがある。陽汰の脳裏に、慌てふためいたときの正人の姿が浮んだ。思わずのえるを見上げると、同じ事を思っていたようで視線がぶつかる。
「すまん。こいつは悪気はないが落ち着きも無い。突拍子もないことをするのがデフォルトだと思っていてくれ。」
世史朗はまた、45度の礼をした。
「……まず、これ。」
陽汰は一週間掛けて作った自分とのえるの取扱説明書を差し出した。表紙にはそのまま、「野々村陽汰とのえるの取扱説明書」と書いてある。
陽汰については、緘黙症で言語表出が苦手であり、長文や込み入ったコミュニケーションはLINEを使う可能性がある。キャパオーバーになったら前髪を下ろすのでその時はそっとしておいて欲しい。という事が書いてある。
意見交換するときに攻撃的になるが、自己防衛の表れであるので気にしないで欲しい。言い合いになると引くに引けなくなるので怒りだしたら落ち着くまで耳を塞いで欲しい。実は繊細な方で後々深く反省し、落ち込んでいたりする。
のえるについては、本人監修の元、おおむねこのようなことを書いた。
「緘黙症って何?無口病って事?へー、のえるは怒りんぼなんだ。うわ、怒ったら怖そー。」
捲し立てる翔の襟首を世史朗がつまみ上げる。
「二人のことは了解した。気にするな、俺らも似たようなもんだ。」
「そーそー、俺落ち着き無い病で世史朗は空気読めない病。そこに無口病と怒りん坊が加わるんだー、ウケルー!」
翔は身体を折り曲げて笑い出した。ちょっと不愉快だ。こいつらと本当に上手くやっていけるのだろうかと不安になる。
「あー、陽汰怒った。嫌、心配なの分かるわー。俺も自分の事が自分で心配だもんなー。」
翔は陽汰を指さして更に笑った。
「やめろ。陽汰がめっちゃ怒っている。表情認知が悪い自分でも認識できる。」
「……?」
さっきから、心を読まれているような気がする。陽汰は首を傾げた。翔が視線を上げたので反射的にそちらを見ると、のえるが唇に人差し指を立てて渋い顔をしている。どういう事だ?陽汰は反対方向に首を傾げた。
「なになに、秘密にするの?何を?」
翔の言葉を受け、のえるは額に手を当てて瞑目した。
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