何のために結婚したの-1
親子喧嘩から3日後に迎えに行くのが恒例になっていた。千紗は山の家に籠もってしまうと、迎えに行かなければ戻ってこないのだ。
一度だけ放っておいたことがある。その時は連絡手段を絶った状態で一月帰ってこなかった。流石に心配になって迎えに行った。心配と苛立ちがお互いに募ってしまい、顔を合わせた途端大喧嘩になった。時間が経つと拗れてしまう事を学習しただけで、何も良いことは無かった。
家の前には千紗のジムニーの他にやたらと派手な車が止まっていた。どうやらのえるが来ているらしい。
のえると千紗は気が合って時々山の家で落ち合っている。のえるが、山の風景や自然を背景に自撮りをする拠点に使うらしいのだが、それは一つの口実で二人はとにかく気が合うのだ。
悠人はのえるに対しては複雑な感情を抱いている。
弟を日の当たる場所に引きずり出してくれたのはありがたい。妻の友人としてガス抜きをしてくれるのも助かっている。だが、素性が知れない人物であり、浮世離れした空気の中に危うさが潜んでいるような気がする。引きこもりのような状態から社会に適応すると決めた陽汰を支えてくれるほど、強い人間ではない。そしてその不安定さ故に、千紗と気が合うのだろう。
悠人は敷地に車を止めたが、降りるのを躊躇った。千紗とのえるの二人を相手にするのは、気が重い。一度家に戻り、夜に出直そうかと考えて溜息をつく。
正直なところ、こう何度もここに迎えに来るのは面倒だった。いっそのこと、このまま放っておいて自然消滅のように関係を希薄にしてしまいたいとどこかで願っている。その薄情な考えに我ながら怖気が走る。
その時、コツコツとフロントドアを叩く音がした。はっと顔を上げると、助手席のガラス越しにのえるの上半身が見えた。どう反応しようか迷う間もなくドアを開け、のえるが助手席に滑り込んできた。
「迎えに来たんだ。」
のえるの声には非難の色が滲んでいる。自分よりも少し高い位置にあるのえるの横顔を、見ることが出来ない。のえるは圧倒的な存在感を放っている。多分、自分がのえるを苦手だと感じる一番の理由がそれだ。陽汰はよく彼女と相対しているなと思う。
「流石にタイミングを掴むの上手いよね。千紗の頭が冷えた頃にやってくるもんね。これ以上遅かったら、また気持ちが拗れてややこしくなるもんね。」
「そうだね。」
のえるの皮肉に、悠人は苦笑いを返すしか無かった。視線を逸らし続ける悠人の顔を、千紗は身体ごとのぞき込んできた。視界に銀髪の女性が現われて思わず身体を引いてしまう。
のえるの顔には怒りが浮んでいた。
「悠人さん、千紗と何で結婚したの?」
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