サウナ女子会-2
「がっつり心を満たしてくれるもんなんか、この世にあらへんよ。皆、いろんなもんを継ぎ接ぎして隙間を埋めるか、空いている所に目を瞑るかして生きてるんやわ。」
柔らかい餅のような佐緒里の肌に玉の汗が浮き、流れて行くのを見つめる。
「……そうなのかな。」
同じ年の見奈美にも、一つ年下の一恵にもまだピンとこないようだ。二人で顔を見合わせている。
心に空いた穴を涼真で埋めて、それでもまだ埋まらない隙間を何で埋めたらいいのだろう。美葉はそっと目を伏せた。
「……ついでに言うと。ちょっと仕事の話になって申し訳ないんやけどな。」
佐緒里は足を組んだ。
「美葉は仕事の仕方を変えんとあかんわ。」
「仕事の仕方?」
美葉は、顔を上げて汗にまみれた佐緒里の顔を見た。佐緒里は、我が子を見つめる母のような笑みを浮かべている。
「片倉さんの言うとおり、あんたの仕事の仕方は理想中の理想。顧客の気持ちをじっくり聞いて、想いに寄り添ってデザインを考える。でも、理想通りの仕事が出来る職場はあんたを振った家具屋さんのとこしかあらへん。本来うちでは成り立たへんやり方やねん。」
「効率が悪い、ということですか。」
身体の熱と裏腹に、心がすっと冷えていくように感じながら、言葉を返す。佐緒里は残酷なほど大きく頷いた。
「あんたと片倉さんの仕事の配分は、七三。あんたが何かに引っかかってるときは、片倉さんが八担うこともある。」
「……そんなに……。」
そんなに、違うのか。美葉は絶句した。
「これから育つ見奈美と一恵が、こぞってあんたの真似したら、うちの部署は崩壊する。あんたは先輩として、質と量をこなせるようになって貰わんと困る。」
唇を噛んで俯く美葉に、佐緒里は優しいため息をついた。
「今まではな、あんたはいつかよそに行く子で、そこの仕事の仕方を崩したらあかんと思って言わんかった。片倉さんも、同じ気持ちやったから文句一つ……いや、文句は多いな、あいつは。兎に角多くの仕事を担ってくれとった。でも、もう美葉はずっとうちにおると決めたんやろ?それやったら、木寿屋スタイルになって貰わんとな。それは、あんたの心を守るためでもある。」
「私の心……?」
美葉ははっと顔を上げた。佐緒里が微笑みながら頷いている。佐緒里は、いたわるような視線を向けた。
「あんたの心の穴は、ほんまに大きいもんやと思うわ。ずっと追いかけてきた夢と、恋を同時に失ったんやもんな。あんたは真面目すぎて、遊びを知らん子やから、仕事と恋が人生の大半を占めていたはず。それを失った痛手は大きいな。……理想の仕事を続ける限り、その失ったものを追いかけ続ける事になるんと違う?」
美葉の脳裏に、走馬灯のように正人との日々が浮んで消える。樹々のショールームや、新風の店内、大きな窓のリビングルーム。鉋を掛ける正人と、自分に向けられた優しい眼差し。
美葉は思わず、タオルを顔に押し当てた。こぼれた涙をぐっと抑えてタオルで吸い取る。佐緒里の手がぽんぽんと頭を優しく叩いた。
「さ、のぼせてきたな。水風呂入りにいこ。」
佐緒里は勢いよく立ち上がった。美葉も涙を堪えて立ち上がる。
「水風呂かぁ……。」
冷水に身体を浸すと想像し、温度差で心臓がおかしくなるのではと不安を感じた。躊躇していると見奈美が腕を組んできた。
「サウナは水風呂が肝!行こう、美葉さん!」
そのまま、見奈美は美葉の身体を引っ張っていく。
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