さようならと言われて-2
「……さようならと、言われたよ。」
「え?」
呟く声の中身が理解できず、問い返す。
「ついて行けない、さようなら。……そう言って、電話を切られた。……フラれたって事だよね。」
「あーあ。」
思わず頭を抱えた。気が短い美葉がやりそうなことだ。テンション高めな上頭に血が昇ると手が付けられなくなる。
まぁ、万が一「彼女の事情は話せない」的なことを伝えてしまっていたとしたら、怒られて当たり前だと思うが。
「そんなの、売り言葉に買い言葉みたいなもんだろ。勢いだよ、勢い。ちゃんと話してみ、顔合わせて。なんなら、京都まで迎えに行ってこいよ。」
背中を向けたまま、正人は首を横に振った。
「会って話をしても、多分状況は変わらない。……僕には、美葉さんを納得させることは出来ないよ。僕は今まで人と議論をしたことが無いんだ。怒っている美葉さんに何をどう伝えたらいいのか分からない。」
「じゃあ、このまま諦めるのか?」
子供のような言い分に腹が立ち、つい言い方がきつくなった。正人は弱々しいため息をついた。山のようにせり上がっていた肩ががっくりと力を失う。
「……本当に、情けなくて自分が嫌になる。」
ぽつりと呟く。
「ここで皆がそれぞれの道に進むのを大人の顔で見送ったのに、いつの間にか皆に追い抜かされてしまった。皆立派な大人になって自分の夢を追いながら社会に貢献して生きている。……僕はいつまで経っても、自分の事すらままならない。こんな自分が美葉さんとお付き合いするなんて、最初から無理だったんだ。」
正人の肩が小刻みに震える。健太は眉を寄せてその背中を見つめた。
これは良くない傾向だ。自己嫌悪モードに入った正人は自分で思考の迷路を作ってしまい、そこから容易に抜け出せなくなる。意固地になり、周りがどんな言葉を掛けても受け入れることが出来なくなってしまうのだ。
健太はゆっくりと歩み寄りその肩を強い力で掴んだ。
「……お前のそんなところが、美葉は好きなんだぜ。」
「でも、呆れられてしまった。当たり前だと思うよ。工房をめちゃくちゃにして対処できなくなった上、問題を放り出して逃げ出すような人間なんだ、僕は。こんな情けない人間と付き合うなんて、貧乏くじを引いたのと同じだ。」
「もう……!」
健太は思わず正人の頭をぐしぐしと撫でた。正人は驚いたように身体を硬直させる。
「お前が言う自分の悪いところがお前の良さでもあるんだぜ。美葉もそうだが、皆お前のことが好きでお前の周りに集まってんだ。お前はもっと自分に自信を持てよ!」
ううう、と正人が唸る。固く瞑った目から涙がぽろぽろと溢れる。本当に子供だなと健太はこっそり微笑んだ。
「美葉だって、こんな終わり方で納得はしねぇわ。頭冷えたらちゃんと話をしに戻って来るから、そん時はちゃんと向き合うんだぞ。」
「うん……。うん……。」
正人は子供のようにしゃくり上げながら泣いていた。
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