男癖の悪い女-3

 「その後は?」

 だから、期待を込めて質問をした。


 「その後、とは?」


 アキの旋毛がピクリと動いた。男性遍歴を詰問するなど失礼だったかと後悔する。


 「いやその……。一人で子供を育ててきたのかな、と思って。」


 アキの旋毛が、小さく動いた。首肯したようだ。


 「一人で、育ててきました。」


 必要最低限の言葉を、自動的に繰り出すのは変わらない。だが、その内容には相変わらず驚かされる。


 「誰か助けてくれる人は居なかったのかい?身元保証人がいないって言ってたけど、親は?」

 「居ません。」


 感情の無い言葉に、胸がすっと冷える。親が居ない。その理由のバリエーションを頭の中で辿ってみる。


 「……でも、誰かからは産まれてきたろう?」

 聞きにくいと思いつつ、踏み込んで聞いてみる。旋毛はやはり動かない。


 「小さいときに親が離婚したので、父とはそれきり会っていません。顔も忘れました。母とは14歳の時に別れたきりです。」


 小学生が教科書を読むような棒読みの答えに唖然とする。


 「別れたって……。」

 その言葉を質問として出したのかは自分でもよく分からない。アキはそれには返答しなかった。中学二年で親と別れる。自分には到底想像も付かないことだ。


 「どうして……?その後は、どうやって……。」


 アキの旋毛は、動かなかった。声を発さず、身体を硬くしたのが分かる。『中学も碌に出ていない』。アキの言葉を思い出す。親と別れて、学校にもまともに通わなかった。その事情をすすんで話そうとしない女に、これ以上問いかける言葉が見つからない。


 「仕事は……?」

 だが、出来るだけのことを知る必要がある。そう思い、質問を変えた。


 「小さなスーパーで、レジや品出しの仕事をしていました。」

 「その店が、潰れたの?」

 「はい。」


 健太は小さく息を吐いた。スーパーの店員ということは、多分最低賃金に近い給料だろう。目一杯働いても、税金や保険料を払ったら生活保護世帯より少ない収入かも知れない。それでは、生活するだけで精一杯で貯金どころでは無かっただろう。職場が倒産の憂き目に遭えば、すぐに生活は困窮するはずだ。しかし、解せないこともあった。


 「家賃滞納したからってさ、いきなり追い出されたりしないだろ。荷物やなんかもあるだろうしさ。」


 アキは首を横に振った。旋毛からふわふわと髪が揺れる。


 「私が借りていたのは、鍵だったらしいです。」


 「……は?」

 おかしな答えに、健太は思わず珍妙な声を出した。アキは勿論、なんの反応も示さない。

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