第16話
真っ暗な画面がパッと明るくなる。
俺は――防具屋のカウンターに立っていた。
防具屋のドアが開き、見慣れた男? が入って来る。
「よう、オーラン。今日は何しに?」
「これをトモナリさんに、渡しに来たんだ」
オーランは布の袋から綺麗に輝く赤色の玉を取り出し、俺の方に差し出してきた。
「何これ?」
「帰還の玉だ。これで元の世界に戻れますよ」
「え?」
いや、いや、いや、ちょっと待て。
「俺、お前に異世界の人間だなんて言ってないぞ?」
「えぇ、言われてないですけど、僕、トモナリさんが異世界の人間だって気づていたんだ。色々と世話になったし、トモナリさんのためにと思って手に入れてきました。貰ってください」
『受け取りますか? はい・いいえ』
何この設定……。
「悪い。貰えないよ」
「どうして? 遠慮することないですよ?」
「遠慮とか、そういうのじゃなくて……」
「そういうのじゃなくて?」
「俺はこの世界に残りたいんだ」
「そういうこと……なら正直に話します。これをトモナリさんが貰ってくれないと真のエンディングに辿り着けないんです。だから貰ってください」
「正直だな!」
『受け取りますか? はい・いいえ』
こいつには悪いが、ようやく落ち着いてこの世界で暮らせそうなんだ。
何としても俺はここに残りたい。
またもや『いいえ』を選ぶ。
「悪い。それでも貰えないよ」
「どうして? 遠慮することないですよ?」
「ん?」
まさか……。
「遠慮とかそういうのじゃなくて、俺はここに残りたいの!」
「そういうことですか……なら正直に話します。これをトモナリさんが貰ってくれないと真のエンディングに辿り着けないんです。だから貰ってください」
『受け取りますか? はい・いいえ』
出た! 強制ループ型イベント!
選択肢が選べるのに、選べる道は一本の奴!
でも今度は大丈夫かもしれない。
「悪い。それでも貰えないよ」
「どうして? 遠慮することないですよ?」
「出た~。もう良い! 受け取るよ!」
俺はむしり取るように、オーランから帰還の玉を受け取った。
「喜んで貰えて嬉しいよ」
オーランはそう言って、ニコッと微笑む。
非常に憎たらしい笑顔だな、全く。
「喜んでないし! 怒ってるし!」
「それで帰るのはいつです?」
「さぁな」
受け取ったけど、帰るつもりないし。
「明日にはモンスターが暴れ出すかもしれない。今すぐ帰ると良いですよ」
『今すぐ帰りますか? はい・いいえ』
「魔王倒して、平和になったんじゃないのかよ!」
こいつ、というか作者は早く返したいらしいな。
でも俺はここに残る!
「大丈夫、しばらくここに残るよ」
「そうか……それでいつ帰るんです?」
「Oh……そう来たか」
もはやここに残るのは無理みたいだな……もっとこの世界を満喫しておけば良かった。
さよなら異世界。
「いま直ぐ使うよ」
「そうか! じゃあ、これ」
と、オーランはそう言って、満面な笑みを浮かべながら、加護のナイフを渡してくる。
「貰って良いのか?」
「はい! トモナリさんと初めて手に入れた思い出の武器なので、持っていて欲しいんです」
「そっか……分かった。ありがとう」
「どう致しまして」
「それで、どうやって使えばいいんだ?」
「そいつを持って、日本と叫べばいいんだ」
「何でお前が日本を知っている?」
「さぁ?」
この辺、適当だな……。
「まぁいいわ。日本!」
ブゥーン……という効果音と共に、俺の体が宙を舞う。
何でこの手のものって、天井をすり抜けるのだろうか?
俺がそう思っていると画面が暗くなる。
気が付くと俺は自分の部屋に戻っていた。
「はぁ……戻ってしまったか。戻ってきてしまったなら仕方ない」
徐に立ち上がり、机の上にある携帯を手にする。
俺はいつも現実世界で、仕事や恋愛と嫌な事から逃げてきた。
でも異世界に行って、オーランに会って、勇気を貰えた。
その勇気を少しでも現実世界に活かすことが出来たら、俺はもっと前に進める気がする。
俺は右手に加護のナイフを握り、左手で気になるあの子に電話をしてみる。
「あ、もしもし田中ですけど」
「あぁ、田中君。どうしたの?」
「あの今度良かったら食事でも行きません?」
「はい? 食事?」
「はい」
「二人で?」
「出来れば……」
「考えさせて」
と、そこで電話が切れてしまう。
――例えこの結果が駄目だっとしても構わない。
一歩踏み出せた、そこに意味があるんだ。
この魔王討伐、いや勇者オーランはそれを気付かせてくれた。
オーラン……お前は臆病だけど、そんなこと気にすること無いよ。
お前は人に勇気を与えられる立派な勇者様だ。
さて……今日はまだ土曜の夕方だし、もう一回ぐらいは出来るかな?
俺は座ると、ゲームのコントローラーを手に取る。
今度はオーランと一緒に、色々な所を回るのも悪くないな。
「――ただいま、異世界」
現実世界に飽きたので、ゲームの世界に入り込み、サブキャラの女の子とイチャイチャして過ごしたいと思います。~何の取り柄もないオッサンだけど、勇者を導きながら、女の子のイベントを楽しみますね 二重人格 @nizyuuzinkaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます