第18話 少女の異常性 3

「待てッ!私はそんな奴らのことなど知らん!」


「そ、それに私がそんなことを考えるはずがない!伯爵だぞ!貴様とは違うのだぞ!」


「それが?私は嘘をつくなと言ったはずよ?それとも足元からじわじわと凍らせられるのがお望みかしら?」


 私はゆっくりと伯爵の方へ歩き出した。


「ひ、ひぃ!く、来るな!お、お前たちどうにかしろ!」


「へへっ皆なーにビビってんだ。たかが女ひとり始末すればいいだけだろ?」


 護衛の1人が剣を抜きこちらに向かってきた。


 実力の差も理解できないのね。可哀想に。


「じゃあな、恨むんなら自分を恨むんだな!」


 そう言って剣を振り下ろしてきた。


 私は振り下ろされた剣を、魔力を纏わせた手だけで受け止めた。


「なっ!?素手で!?」


「構えもなっていない。子どものお遊びね。」


 手に力を入れ剣を粉々に砕くと護衛に近づき、


「これ以上、私を不快にさせないでくれる?」


 殺気を全開にしながら囁いた。


 それだけで男は気を失った。


「これぐらいで気絶するのに私に挑んできたのね。で、元凶の伯爵様は何をしているのかしら?」


 私は再び伯爵の元へと歩き始めた。


「あぁそれと護衛の人達。さっきの人は気絶だけで済ませたけど、次は容赦なく殺すからそのつもりでね。」


 少女が光のない瞳を向けただけで護衛達は動く事ができなくなっていた。


 そして、伯爵の目の前に来ると、


「今回は見逃してあげる。ただし次同じことをしたら命はないと思いなさい。分かったらさっさと消えなさい。」


 伯爵にそう言うと、護衛たちに向かって、


「さっさとそこの気絶してるのも含めて出ていきなさい。あなた達の上司に言った通り、次は無いわよ。」


 護衛たちは少女が自分たちにはどうしようも無い存在と理解したのか、動けない伯爵と護衛を連れて帰って行った。


 その姿を見ながら少女は、


「どうせ懲りないでしょうから、先手を打たなきゃね。」


アイス戦乙女ワルキューレ


 私は氷の人形を一体作り出した。


「さっきの公爵のあとをつけてあいつのやっていることの証拠を全て持ってきなさい。」


 そう命令すると、人形はすぐに移動した。


「後はあの子達が持ってくるのも待つだけね。」


「さて、後はあなた達のことだけど、私が出す条件をのんでくれればお仲間の脚を治した上で解放するけどどうする?」


 後ろで氷に包まれた連中に選択肢を用意する。


「条件による。それにもう俺たちはあんたに逆らう気なんてない。」


 どうやらさっきのやり取りで、私に敵わないと理解したようだ。リーダーと思われしき男が口を開いた。


「よろしい。なに簡単なことよ。こんなことをやめて真っ当に生きなさい。それが難しいなら私の元に来なさい。」


 条件は、裏稼業から足を洗うこと。それが難しければ私に協力する。至極簡単なことだ。


「そのあんたの元に来るというのは?」


「私のところで色んなことに協力してもらうだけよ。なに、あなた達にできないことは頼んだりしないわ。」


 それを聞いて男はしばらく考えたが、仲間の脚が治ることを優先したのか、条件をのんだ。


「オーケー交渉成立ね。それじゃお仲間の脚を治すわね。」


 そう言って私は氷を解き、脚を砕いた男の所へ行き、


『治れ』


 再生魔法を使用し、元通りに治した。


「なっ!今の魔法は!?」


 何やら驚いているようだが、素直に答えてやる義理はない。


「さぁ、これで元通りのはずよ。おまけで昔負ったものと思われる傷も治しといたわ。」


 すると男は、


「な、治ってる。しかもほとんど見えていなかった目が見えるようになってる!」


「なんだと!?それはほんとか!?」


「ほんとだ。もうダメだと思っていたんだが。」


「さぁ、治したんだから早く行きなさい。もしもなにかあったギルドで私の名前を出せばこっちに連絡が来るでしょ。」


「すまない。本当はこんな立場では無いのに。」


 リーダーが頭を下げてくるが、


「別に終わったことだからいいわ。最後に、あの伯爵のとこからは手を引きなさい。あれは近いうちに没落するから。」


 そう言うと、男たちは首を傾げながら去っていった。


「さて後はあの子達への説明ね。これが今回で1番の難所かしらね。」


 苦笑しながら、家の中に戻って行った。


 ――数日後、私は裁判にかけられていた。


「これより、Aランク冒険者ヒサメの裁判を行う。罪状は、ヨクバーリ伯爵への暴行及び脅迫。」


 へぇ、こっちでもこんな風な裁判ってあるのね。それに女王まで来るなんて。あの豚本当に偉かったのね。じゃあ遠慮なくなりますか。ゴミは掃除しなくちゃね。


「発言よろしいでしょうか?」


「そなたの発言はまだ認められ「許可します」・・・え?」


 裁判官と思われしき人がなにか言おうとしたが、まさかの女王から許可が出てしまった。


「ありがとうございます。それでは、まず私の無実の証明からしましょうか。」


 さぁ、掃除開始だ!


「まず私の罪状の暴行と脅迫ですが、暴行の定義がどこからなのかを説明して貰えないでしょうか?私は確かに伯爵を投げ飛ばしました。ですが決して殴ったりなどはしておりません。更に脅迫についてですが、伯爵とは私の家族に対して違法な道具を使い、奴隷にしょうとしました。このことについて釘を刺しただけなどですが、これは脅迫に当てはまるのでしょうか?それと既にいくつもの罪を犯している人間に対して、暴行や脅迫は適応されるのでしょうか?」


 ふぅ、いゃあ言いたいことを言うって楽しい。怪訝そうな顔をしていた裁判官は違法道具って単語が出た瞬間伯爵に視線を送っていたし。伯爵は顔を真っ赤にしてるし。


「しょ、証拠はあるのか!私が罪を犯している証拠が!」


 まぁおなじみのセリフを言ってくれるわねぇ。勝ち誇ってる顔が腹立つし終わりにしますか。


「えぇあります。これはあなた方が違法な道具を商人から購入した際の書類。これはあなたが道具を使って奴隷にした人達をどこに売ったかの書類。更にはあなたが国の金を横領している証拠。出せばキリがないですけど全部出します?あぁ偽物だとか捏造とか在り来りなこと言うのやめてくださいね。これ全部あなたの家から出てきたものですから。あなたの直筆のサインもありますよ。」


 ここまで言うと言い逃れはできないとわかったのは何も言わなくなった。私を捌くための裁判はいつの間にか伯爵を裁くものへと変わっていた。


 その後私の無実が証明され、解放された。伯爵に関しては屋敷に調べがはいるらしい。


 その後、ミズキ達に問い詰められ、正座させられることになる。


「ねぇアイリスおかしいと思わない?あの子達に迷惑かけないようにこっそりやってたのに、それを怒られるなんて。」


『みんな、ヒサメが心配なんだよ。』


「だとしても、私は子供じゃないのよ。」


『家族を心配するのは、当たり前。』


「ってアイリス、あなた随分と喋るのが流暢になったわね。」


『頑張った!』


「頑張ったのね。いい子いい子。」


『えへへー』


 その様子を眺めているものがいた。


「ねぇミズキお姉ちゃん、あれって言葉通じてるよね?」


「うん、喋るのが流暢になったって言ってるし間違いないと思う。」


「龍人にそんな力あるっけ?」


「少なくとも私は聞いたことがないわ。」


「それにあの時のお姉ちゃんとは大違いだよね?」


「えぇ、あの時のヒサメから出てた威圧感が今は全くないわ。」


 サーリャとミズキ、この2人は少女の異常さに気づきはじめていた。

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現世で死神と呼ばれた少女、異世界に召喚される 宵桜 @yozakrahisame

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