第17話 少女の異常性 2

 弾き、打ち込む。その繰り返しをすること数分、人形の持っていた武器が突如折れた。


「あぁ、やっぱり魔力を供給し続けて自動的に修復した方が良かったかぁ。」


 そう言いつつ、私は魔法を解除した。新たに武器を持たせればいいが、今のレベルに対応できるようになってしまったので、続ける意味が無くなった。


「2人とも終わったわよ。」


 後ろにいるふたりの方を振り向くと、2人揃って固まっていた。


「どうしたの?」


 なんで固まってるのかわからずに首を傾げていると、


「ヒサメ、今のは魔法が暴走してたんじゃないの?」


「?どういうこと?」


「だってあなたに攻撃してたじゃない。」


「私がそうするようにしてたんだけど。」


 1人でやるのには限界がある、ならば相手を作ればいい。その考えから生み出したこの魔法。


 創り出した、人形達はこちらが魔法を解除するまで、攻撃してくる。


 そんな魔法が暴走すれば、見境なく暴れ出すだろう。


「なんでそんなことを?」


 恐る恐るミズキが聞いてくる。


「なんでって、強くなるためとしか言えないわよ?」


「それだけのために、こんなことしてるの?」


「私にとっては、1番重要なのよ。世界は残酷。神様だって助けてくれない。弱いければ選択肢すら与えられることのない。その中で誰かを守るには強くなるしかないのよ。世界全てが敵になったとしても、守り続けるために。」


 一体何があれば彼女はこんな考えを抱くようになるのか?自分達がいなくなったあと、どんなことがあればここまで歪んでしまうのか、ミズキには分からなかった。


「さて、そろそろ他のみんなも起きたでしょうから朝食にしましょうか。」


 ――家に戻り、朝食の準備をしていると、ミズキが来た。


「ねぇ、ヒサメ。あなた、私達に話してないことない?」


「どうしてかしら?」


「なんとなく、そん気がしただけ。」


「話してない、というより話せないことならあるわよ。けど、これに関しては本当に話せないだけだから。」


「そう?だったらいいんだけど。あんまり抱え込まないでね。昔からあなたは1人でやろうとするから。私達も昔とは違って強くなったんだから。」


「分かったわ。何かあれば頼らせてもらうわ。」


 ――食事が終わり、みんなで話しているとチャイムがなった。


「おかしいわね、今日は来客の予定なんてなかったんだけど。」


 そう言いながらミズキは玄関へと向かった。


 私は、


(武装しているのが何人かついているわね。強くはないけど、妙なものを持ってるようね。ミズキが心配ね。)


 ミズキのあとを追い、玄関へ向かった。


 玄関に着くと、


「だからその話はお断りしたはずです!」


 ミズキの声が響いた。


 ――玄関にて


「おや?そんなことを言ってよろしいのかな?あなた方冒険者しかいない家族なんか私に掛かればどうとでもなるのですよ?」


 不愉快な事を言ってる、成金そうな男がミズキに言いよっていた。


「私達家族がこの国から出れば困るのはあなた方の方では?私達は全員Sランク、これ程の人材ならどこに行っても通用すると思いますが?」


「これだから世間を知らないお子様は。」


 男はやれやれと言ったように首を振った。


「それにあなたはあと一人の家族を探しているのでは?ちょうど私のところにその情報が入りましてね。なに、対価として私に尽くしてもらえばいいだけですよ。」


 ふーんこいつはミズキのことが欲しいのね。そのためにミズキが飛びつくようなものを提示すると。


 気に入らないわね。


 私は、2人のとこへ歩いていった。


「へぇ、そうなの?じゃあ興味本位で聞くんだけどあなたの手に入れた情報とやらでは、私はどこにいることになってるのかしら?」


「誰だ君は?私は刀姫とうき殿と話しているのだが?」


 不愉快そうに男が言うが、そんなのは知らない。こいつのせいでミズキが嫌な思いをしているのなら、敵だ。


「あぁ、自己紹介をしてなかったわね。私は宵桜氷雨。ミズキ達が探していた本人よ。さて、改めて聞くわね?私がどこにいるって?」


 若干の怒気を含ませながら問い掛けると、男は震えながら。


「お、お前が彼女の家族であるという証拠はあるのか!」


「あなたがわかるようなものはないわね。まぁ?あなたに何を言っても無駄でしょうけど。」


「ヒサメ、この人ヨクバーリ伯爵よ。この国で割と上にいる偉い人よ。」


 横からミズキが男のことを教えてくれた。


「あら、伯爵様だったの?道理で偉そうなわけだわ。震えてるのは護衛が近くにいないからなのね。だったら悪いことをしたわね。ちょっとミズキドア開けてくれる?」


 私はヨクバーリ伯爵の首根っこを掴むと、ミズキにドアを開けてもらうようにいった。


「な、何をする!」


「安心して、あなたを護衛の近くに送るだけだから。」


 そう言って私は開いたドアに向かってヨクバーリ伯爵を投げた。


 投げたあと護衛達が騒いでいるが無視する。


「ちょっとお客の相手をしてくるわね。」


「う、うん。行ってらっしゃい。」


 ――外に出ると護衛達が武器を構えていた。


「あらあら?どうしたのそんなに警戒して?」


 まぁ理由はわかってるんだけどね。


「貴様か?伯爵様を投げたのは?」


「そうよ。伯爵様が護衛が近くにいて震えていたから、送ってあげたのだけど、お気に召さなかったかしら?」


「お気に召さなかったらしくてな、こうしてお前を待ってたわけだ。」


「何をしている!早くそいつを始末しないか!」


 護衛に守られている後ろから指示を出してる伯爵がいるが、どうして弱いのにそんな態度が取れるのだろうか?


「仕方ない。悪いとは思うなよ冒険者。これも仕事なんでな。」


 男が長剣を構え、攻撃をしようとしている。それと同時に家に侵入しようとしている存在がいることに私は気づいていた。それが首輪のようなものを持っていることも。


 私はそれを知っている。こちらに来てギルドに向かう際に見た奴隷につけられているものと同じ反応だったから。


 こいつら、始めからそれが狙いだったのね。ミズキが従おうが従わまいが関係なく奴隷にするつもりだったのね。


「剣を引きなさい。今なら家に侵入しようとしている奴らの命だけで許してあげるわ。」


「何を言っている?こちらの気を逸らす気か?」


「ふぅん、そういうこと。じゃあ殺っていいわね。」


「だから何を言って――」


『凍れ』


 キーを唱えた瞬間、手足が凍った者が4人落ちて来た。


 私はそいつらに近づくと、


「おい、誰がその首輪を使うように指示をした?」


 殺気を放ちながら問いかけた。


「誰が答えるか!」


「そう」


 私は1人の凍ったままの脚を砕いた。


 凍らせたのは周りだけだったので、砕いた奴から聞くに絶えない絶叫が響いた。


「なっ!貴様!」


「うるさい。お前は黙って私の聞くことに答えろ。」


 さっきよりもより強く殺気を放った。


 するとようやく敵に回したらいけないと理解したのか、話し始めた。


「そ、そこの男からだ。そいつから依頼を受けた!」


 視線の先にはさっきの伯爵がいた。


「そう、やっぱりね。」


「やっぱり?知っていたのか!だったらなぜあいつの脚を――」


「黙れ」


 口に白雪の切っ先を入れて黙らせる。


「知っていたところで何?あなたは私の質問に答えなかった。その結果、そいつの脚が無くなっただけよ。」


 黙ったのを確認すると、白雪を引き伯爵の方へと向く。


「さて、正直に話してもらうわよ。嘘のことを喋った場合どうなるか、分かるわよね?」


 少女の瞳からは光が失われていた。

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