第16話 少女の異常性 1

 あの後、私はミズキにこれまでのことを根掘り葉掘り聞かれた。聞かれているうちに今家にいるメンバーが集まり、それぞれこれまでのことを話し始めた。そしてこおりではなく、氷雨と呼んでほしいことも。


「つまり皆は私が向こうで過ごしている時間以上にこっちで過ごしていたってこと?」


「うん。今ここにいないお姉ちゃん達も種族的にはあまり歳を取らないみたいというか、寿命が長いみたい。」


「そうなのね。」


 つまりその間彼女達は、いるかも分からない私を探してくれていたことになる。それを考えると申し訳なくなってくる。


「それよりもお姉ちゃんのことだよ!」


「私の?」


「そうだね、私達も結構な経験をしてきたけど、それを軽々と上回ってくるだもん。」


「そうかしら?私としてはこれが普通だったんだけど。」


「全然普通じゃないよ!」


「確認だけどさ、姉ちゃんってこっちに来るでは魔法は使えなかったんだよな?」


「そうよ。魔法が出てくる作品はいくつかあったけど、実際には使えなかったわね。」


 あの世界は魔法がなく科学が発展していた。主人公が魔法を使っている本などはあるけど、使っている人がいるのは聞いたことがない。


「つまり姉ちゃんは魔法を使わずに鉄とか切ったり、ぶち抜いてたんだろ?普通は無理だから。」


「えぇ・・・でもアルだってやってるじゃない。」


「いやいや、こっちは魔法を使ってできてるだけだからな?姉ちゃんみたいに魔法無しじゃ出来ないぞ?」


 いやいや、体の使い方を考えればできるようになるはず。多分。


「それにSランクの私でもヒサメお姉ちゃんに勝てる未来が見えないんだけど。」


「あぁ多分それ、私の戦い方のせいだと思う。」


「え?どういうこと?」


「えっと上手く説明できないんだけど、私ってめちゃくちゃな動きをして、戦ってるの。それこそ予備動作とか一切せずに攻撃したりとか。」


 よく部下に言われていた事のひとつに、動き方がめちゃくちゃと言われていた。曰く、予備動作がないだけではなく、行動の切り替え方がありえない、威力がおかしいなどなど。


「は?」


 アリアが口を大きく開けたまま固まった。


「それに魔法もまだまだ使い切れてないしね。」


「「は??」」


 今度はサーリャとアルが固まった。


「あはは・・・流石ね。私達もそれなりに強いはずなんだけどヒサメの前では自信なくすわ。」


 ミズキにまで呆れられてしまった。


 結局その後は時間も遅かったのでまた後日ということになり、それぞれの部屋に戻った。


 ――翌日


 朝の習慣となった鍛錬をしていると、


「お姉ちゃんがいない!!」


 サーリャの大声が響き渡った。


「どうしたのサーリャ?朝から大声出して。」


 ミズキが目を擦りながら部屋から出てきた。


「お姉ちゃんが、ヒサメお姉ちゃんが部屋にいないんだよ!」


「なんですって!?」


 ミズキもサーリャの言葉で目が覚めたのか、部屋を確認する。


「ほんとにいない。」


 もしかしたら、自分達が昨日嫌な気持ちにさせてしまったのではという考えがではじめた時、


「2人とも何騒いでるの?」


 鍛錬していた少女が、気になって見に来た。


「お姉ちゃん!」 「ヒサメ!」


「えっ?何!?」


 いきなり2人に抱きつかれて驚いて体制を崩しかけた。


「私が鍛錬してる間に何が?」


 混乱したまま、朝が過ぎていった。


 ――その後落ち着いた2人に説明をして離れてもらった。ちなみにアリアは爆睡していた。


「で、私が鍛錬してるのに気づかず出ていったと思ったのね?」


「ごめん、一緒にいるとはわかってても不安で。」


「まぁ、言ってなかった私も悪いからいいわよ。」


 先に起きたからと黙って鍛錬していた私にも非がある。


「あのさ、お姉ちゃんがしてる鍛錬傍で見てもいい?」


 突然サーリャがそんなことを言い出した。


「別にいいけど、面白くないわよ?」


 鍛錬といっても、上手く魔力や魔法を扱えるように練習してるだけのものだから。


「それでもいいよ。」


 まぁ、本人がいいと言うならそれでいいが。


 ――その後3人で庭に出た。


「さて、やりますか。」


 そう呟くと、私は魔力の操り始めた。


 身体全体を覆うことから始め、腕のみ、脚のみと部分的に纏わせた。


 その後は、周囲に被害が出ないように魔法を使った。


 使い慣れた月魔法を使い、氷を生み出し、様々な形を作った。


 鳥、蝶、猫、犬、他にも様々な形を氷を操作して動かした。


 さて、そろそろあれを試してみましょうか。


アイス戦乙女ワルキューレ


 冰で生み出した、人形達。それぞれに指向性を持たせる事を前提に創り出した魔法。これらが自ら動くのはもちろん、私自身の思考がこの子達に共有されるので、思い通りに動いてくれる。


 そして、人形達は私に襲いかかって来た。


 ――お姉ちゃんが鍛錬するのを見に来たけど、レベルが違いすぎる。


「ねぇ、ミズキお姉ちゃんあれできる?」


 横にいるミズキお姉ちゃんに聞いてみるが、


「無理よ。私でもあれの半分も出来ないよ。」


 私達家族の中でも2番目に魔力の使い方が上手なミズキお姉ちゃんでも半分も出来ないことに驚きを隠せなかった。


「そもそも、今ヒサメが使ってる魔力の量が桁違いなの。魔力の量を減らせば同じとは出来るけど、あれと同じ量で、同じことをすれば最悪、暴走して吹き飛ぶわ。」


「えっと、魔法で言うとどのくらいなの?」


 あまりイメージ出来なくて聞いたけど、あとから聞かなきゃ良かったと後悔した。


「少なくとも超級、もしくはそれ以上。」


「えっ?」


 魔法にはランクがあって、威力が1番小さいのが初級、その後に中級、上級、最上級とある。それでそれ以上が超級っていわれてる。魔法使いで超級が使えれば、国1つ分の戦力になると聞いたことがある。


 その超級以上。これだけでヒサメお姉ちゃんがどれだけのものかがわかる。


 その事に驚愕してると、今度は氷で色んなものを作り出した。しかも全部動いて。


「なんで魔法であんな細かいことが出来るの?」


 横でミズキお姉ちゃんが驚いてるけど、私はその光景に見惚れてた。ヒサメお姉ちゃんを中心に幻想的な光景が広がっているから。


 するとヒサメお姉ちゃんは急に作ってたものを消すと、今度は氷で人形を作った。それぞれが武器を持った状態で。


 人形達が出来上がると、急に人形達がヒサメお姉ちゃんに襲いかかった。


「お姉ちゃん!?」


「ヒサメ!?」


 魔法が暴走したと思ったけど、よく見るとヒサメお姉ちゃんは満足そうにしていた。


 ――襲いかかってきた人形達に私は満足していた。


 今回私はこの人形達を作る際に、私が使える武器を別々に持たせ、私の戦い方を人形達にするようにした。


 結果は、思い通りになり人形達は私と同じレベルの動きをしていた。


 まず刀持ちが、孤月を放つがその勢いを利用し、カウンターを放つ。


 だがそのカウンターを槍持ちが防ぎ、その隙に大剣持ちが攻撃してきた。


 その攻撃を空いてる手で弾き、防いでる槍持ちの槍を掴み投げ飛ばす。


 そこに弓持ちが矢を放ってくるが、その矢を砕く。


 この間わずか数秒。


「ふぅ」


 スイッチを入れ替える。


 最小で最大の一撃を、もっと速く、もっと鋭く。


 思考を切り替えろ、常に最善を考えろ、考えることを止めるな。


 再び戦闘が始まった。


 ――「レベルが違いすぎる。」


 目の前で繰り広げられている戦闘に私は驚くことしか出来なかった。


 人形達の動きは、一対一で戦っても厳しいレベルなのにそれが五体。これらを同時に相手にすることは、自分には不可能だ。


 けどそれを、目の前の少女は捌いてる。それどころか、順応し人形達にダメージを与え始めていた。

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