第31話 ゼントVS大勇者ゲルドン⑤ 202302212207 直し 第一部完

 俺の右掌底みぎしょうていは、ゲルドンのアゴに叩き込まれていた。


 ──完全に急所に入った──。


「あ、あぐ……!」


 ゲルドンはヨロヨロとふらつき……しまいにはようやく……ついに!


 リング上に、両膝りょうひざをついた。


「ゲルドン……ダ、ダウンか?」

「お、おい、マジか? 大勇者が?」

「あれ、完全にアゴに入ったぞ……! ゼントが勝った……?」


 観客がざわついている。

 審判団も眉をひそめて、相談している。あわてている表情だ。


 しかしゲルドンは、リングに両膝りょうひざをつけている。


「うう……」


 ゲルドンはうめきながら、何とか立ち上がろうとした。


『ダ、ダウンカウント! 1…………2…………3…………』


 審判団が、やたらスローなダウンカウントを始めた。


 しかし、立ち上がろうとした瞬間に、よろける。そして、リングに張りめぐらされているロープに寄りかかった。


 ニヤッ


(笑った!)


 ゲルドンはニヤリと笑ったように見えた。


 た、立つのか、ゲルドン!


 いや、しかし──ゲルドンはふらついた。


 ガクッ


 ──そしてまた、リングにひざをつき──うずくまった!


「いかん!」


 すぐに白魔法医師たちが、リングに入り込んだ。そして、うずくまっているゲルドンを見やった。


 ドヨドヨッ……。


 観客たちはどよめく。


「ダメだ!」


 白魔法医師たちは審判団のほうを向き、声を上げた。


「試合は終了! タンカを持ってきなさい!」


 そして、手でバツの字を作った。

 審判団は白魔法医師や、ゲルドンの様子を見て、困惑していた。しかしやがて、渋々しぶしぶと、魔導拡声器まどうかくせいきを手にした。


『は、8分11秒、ドクターストップ勝ちにより、ゼント・ラージェントの勝ち!』


 ウオオオオオオオーッ


「や、やりやがったあああああーっ!」

「ゼントのやつ、大勇者を倒しちまったあああ!」

「すげええーっ! 体重差を乗り越えた!」


 観客たちが声を上げる。


「やったああああーっ!」


 リングに上がってきたのは、エルサだった。

 エルサは俺に抱きついた。


「すごい、すごい、すごい、ゼント! 本当にすごいよお!」

「わ、分かった分かった。落ち着け」

「ありがとう、ありがとう、ゼント!」


 エルサは泣いている。ゲルドンに不倫をさそわれ捨てられ……色々あったものな……。


 ゲルドンといえば、白魔法医師の診察を受け、タンカに乗せられた。


「ゼント! ゼント! ゼント!」

「すげえヤツだ!」


 観客席から、俺を呼ぶ声がたくさん聞こえる。


 俺は、大勇者に……因縁いんねんの男に勝ったのだ。




 俺とエルサは、武闘ぶとうリングから下りた。アシュリーやミランダさん、ローフェンなど仲間たちが出迎えてくれた。


 アシュリ―は、「ゼントさんは、やっぱりすごーい! カッコイイ!」と言って、抱きついてきた。


 おや? すると……。


 リング下で待っていたのは、銀髪の男だ。誰だ、こいつ? 多分、年齢は30歳前半くらいの男だ。


「ゲルドンの秘書、セバスチャン氏よ。ゲルドンのセコンドについていたわ」


 ミランダさんが言った。

 

 え? そうなのか? 試合中は集中していたので、まったく気づかなかった。


 銀髪のセバスチャンなる男は、握手を求めてきた。


「まさか、まさか。大勇者を倒してしまうなんて、お見事ですね、ゼント・ラージェント君」


 彼はにこやかに言った。あきらかに作った笑顔だ。信用ならない。何者だ? でも、見たことがあるような……!


(見覚えあるでしょ。ほら、私が過去を見せる魔法を使ったとき……)


 ミランダさんは俺の耳元でささやいた。


(え? ……あっ!)


 そうか! 俺がミランダさんの魔法で、エルサの過去──17年前の出来事を見たとき──。ゲルドンのパーティーメンバーに、銀髪の少年がいたっけ。


(あ、あの銀髪の少年ですか?)


 俺がミランダさんに聞くと、ミランダさんは、(そうよ)と言った。


 目の前の彼は、30代以上の年齢だが……。そうだ、間違いない。目の鋭さ、髪の毛の色、雰囲気……あの少年が大人になった姿だ。


「ああ、初めまして、ゼント・ラージェントさん。私はセバスチャン。ゲルドンの秘書兼執事しつじでした。先程までね」

「先程まで?」


 言っている意味が分からないが……。


 俺は握手に応じなかった。セバスチャンは話を続ける。


「まったくゲルドンは、使えない、情けない男ですよ。観ていて笑ってしまいました」


 何だこいつ? さっきまで、ゲルドンの秘書だったんだろ?


「ゲルドンは弱かった。さっさと切り捨てます。残念ながら、私のほうが強い。そう──10倍はね」


 俺は眉をひそめた。セバスチャンという男は笑っている。冗談なのか? 本気なのか?


「そうそう──3週間後に始まる『ゲルドン杯格闘トーナメント』は、新しく生まれ変わって開催される予定です」

「そ、そうなのか?」

「ええ。しかし、私が主催者しゅさいしゃとして、もう一度準備します。新しい格闘技イベントとしてね」


 ど、どういうことだ? こいつに、そんな権限があるのか? 


……おや?


(う、おっ……)


 俺は驚いた。


 セバスチャンから、不気味な闇色やみいろ蜃気楼しんきろうが発されている。

 ゲルドンと一緒だ。いや、ゲルドンよりも、闇色やみいろが濃く、もっと強力な恐ろしいエネルギーを感じる。


 こいつも、サーガ族とかなんとかの亡霊ぼうれいに取りかれているのか?


 その時、エルサが俺の前に出た。セバスチャンに立ち向かうようにだ。


 一方、アシュリーは俺の後ろに隠れた。


「ほう! ゼント君、君は……」


 セバスチャンはアシュリーを見ながら、言った。


「まるで、この子の父親のようですね」


 父親? 俺がか? ああ、アシュリーとはそれくらい年齢が離れてはいるが……。俺にはピンとこない話だ。

 

 何が言いたいんだ、こいつは。


「……アシュリーは友人だ」

「フフッ。まあ、なんにせよ」


 セバスチャンは言った。


「君と私は、戦うことが宿命づけられているんです」

「なに?」

「すぐに、新しい格闘技イベントを発表します。そのとき、君と私は闘うでしょう。その時をお楽しみに──」


 セバスチャンはそのまま、スタジアムの奥のほうに行ってしまった。


 アシュリ―はなぜかおびえたように、俺の腕にすがりついている。


 一体、何が起ころうとしているんだ?


 ──その時の俺は、セバスチャンがゲルドンを超える因縁の相手になるとは、思いもしなかった。


 


 ──第一部完──(第二部に続く)


 ◇ ◇ ◇


【作者タケからお知らせ】


 この第31話で、第一部完、とさせていただきます。第二部は、いつか書くかもしれません(笑)


 この作品をお読みくださって、本当に感謝しています。ありがとうございました。

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超ベテラン子ども部屋おじさんの俺が、世界最強の武闘家になりました。 ~超クズ大勇者にいじめられ、パーティーを追放された俺。20年後、俺は最強の武闘家になり、大勇者をリアルファイトでぶっとばしました。 武志 @take10902

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