第30話 ゼントVS大勇者ゲルドン④

 俺、ゼント・ラージェントと、大勇者ゲルドンの試合は、まだ続く!


 俺のチョークスリーパー……! 背面馬乗りバックマウント状態からの、裸締はだかじめ……かかった……ついに!


 ぐぐぐ……。


「こ、このぉ……! ゼントォォ!」


 うつ伏せのゲルドンはそう言いつつ、耐える。俺は右腕で、ゲルドンの頸動脈けいどうみゃくを締める。

 だが、ゲルドンは首が太いから、俺の細い腕ではなかなか極まらない!


 ぐぐぐぐっ……!


 俺は力を入れる。


「させるか、ゼントォ……」


 ゲルドンは指を、自分の首と俺の腕の間に、何とか差し入れようとする。首が締まるのを防いでいるのだ。


(ぐ……っ。ゲルドン! しぶといヤツだ!)


 俺の腕の力も、少しずつなくなってきた。ゲルドンも必死だ。


 しかし、ゲルドンも体力がなくなってきて、冷や汗をかいている。


 ──俺はけに出た! 俺はいったん、チョークスリーパーを解いて……! 横からゲルドンの側頭部にパンチだ!


 ドガッ

 ドガッ

 ガスッ


「うぐっ、ぐぐぐ……」


 ゲルドンはうめいた。どうやら、ゲルドンは組み技になった時の、打撃の防御が下手らしい。自分で攻めてばっかりいたからだろうか?


 ガスッ


 その時、うつぶせになっているゲルドンの振り回してきた肘が、俺のほおに当たった。


「う、ぐっ!」


 い、いてぇ!


 俺は思わず声を上げた。な、何だ? この痛さは! まるで鉄で殴られたようだ!


 俺はついに、背面馬乗りバックマウント状態から、バランスを崩された。


「フフフッ」


 ゲルドンはニタリと笑って、俺を蹴っ飛ばし、スッと立ち上がった。


 また、俺とゲルドンは、立って闘うことになる!


 そういえば、ゲルドンの両肘りょうひじには、青いサポーターが巻かれている。あ、あれが、俺のほお当たったのか!


「審判!」


 ミランダさんが気付いたようだ。


「彼の両肘りょうひじのサポーターの中に、何かが入っているわ!」


 しかし、審判団たちは聞こえぬフリだ。

 審判はゲルドンのサポーターをチェックする気がない……?


 俺はゲルドンをにらみつけたが、ゲルドンは言った。


「ああ、肘サポーターの中に、『何か』は入ってるぜ? かた~い金属のようなものがな」

「ゲ、ゲルドン! どういうつもりだ!」

「誰も俺には注意できねえ。俺はこのトーナメンとの『主催者』だからな!」


 ゲルドンは再び、ニタリと笑った。


 俺は逆に集中した。こんな反則野郎に負けるわけにはいかない──。


「どおおりゃあああーっ!」


 ゲルドンは襲いかかってきた。


 上から振り下ろすようなハンマーパンチ!


 しかし、俺はそれをよく見ていて、パンチをけた。


 ガスウッ


 俺は──左アッパーをゲルドンのアゴに叩き込んでいた。カウンターだ!


 ゲルドンはひるんだような表情で、目を丸くしていた。しかし、ゲルドンは踏んばり、強烈な前蹴り!


 ガシイッ


 だが、当たったのは俺の右ストレート! 前蹴りをけ、その瞬間、ゲルドンのほおに叩き込んでやった。


「うう……ゼント、てめぇ……。どうなってるんだ、てめえの強さは……」


 ゲルドンは、肩で息をしている。体力が切れてきたらしい。両膝りょうひざに手をついて、休んでいる。


(何だ、この大勇者は。もう息切れか)

(情けない大勇者だ。もう出て行こう)


 ん? 変な声が俺の耳元で聞こえたぞ?


 その時だ。


 何と、ゲルドンの耳や口、鼻から白い霧のようなものが、ヒュッと出ていった。


 それと同時に、ゲルドンの闘気とうきが、ひゅるりと弱まったような気がした。


 まさか? サーガ族とやらの亡霊ぼうれいが出ていった……?


 ようし──ここだ!


 俺からいくぜ、ゲルドン!


「う……! ま、待て!」


 俺は一歩足を踏み出した。ゲルドンはあわてて、両手を構える。


 ガシイッ


 俺はゲルドンに、右フックを彼の耳の後ろに叩きつけた。耳の後ろは──急所だ!


 ひるむゲルドン──しかし、ゲルドンの目が、ギラリと輝いた。


「俺も──俺だって、大勇者なんだ……。国民のヒーローだ。だから、負けるわけには、いかねええんだああああーっ!」


 何と、ゲルドンの体が光り輝いたような気がした。それは、亡霊たちの不気味な、蜃気楼のようなもやではなかった。ゲルドン自身の、内から出る本当の闘気とうきのようだった。


 ゲルドンの左フック! まるでぶん回すような、渾身こんしんの力を限りを尽くしたパンチだ。


 バスウッ


 俺は左手で受ける。


 ガッスウウッ


 今度はゲルドンの左前蹴り!


 俺は咄嗟とっさに両腕をクロスして、防御する。


 重い蹴りだ、ゲルドン! しかし──ここだああっ!


 俺は武闘ぶとうリングを足裏で蹴り、全体重を乗せ……!


 手の平の下部を使った打撃──右掌底みぎしょうていを放っていた。


 グワシイッ


 俺の右掌底みぎしょうていは、ゲルドンのアゴに叩き込まれていた。


 ──完全に急所に入った──。

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