第29話 ゼントVS大勇者ゲルドン③

 俺はゲルドンに得意の掌底を食らわせてやった。


 ゲルドンはダウンしたのだ! ダウンカウントがスタジアムに響き渡る。


 ゲルドンはふらつきながらも体を起こし、リングに張りめぐらされたロープを利用して、立ち上がろうとした。


 しかし、足元がおぼつかない。アゴへの打撃が効いているのだ。


『4…………5…………6…………7!』


 し、しかし、何て遅いダウンカウントだ! 審判団め、ゲルドンの味方なのか?


「フフフッ、助かったぜ。カウントが遅いからよ」


 ゲルドンはそう言って、中腰になって、両膝りょうひざに手をつき──。勢いをつけて、立って構えた!


「立ったぞお! どうだ、立ったぞ!」


 ゲルドンは叫んで、審判団にアピールした。審判団も納得して、カウントをやめた。俺は、嫌な予感がしていた。

 審判団は……ゲルドンの味方だ!


「おおおおーっ! やっぱり立ったぜ」

「おい、何かダウンカウントが遅くなかったか?」

「ああ……変なカウントだったが、さすが大勇者」


 観客たちはざわつきながらも、声を上げる。


「俺を怒らせちまったようだな」


 大勇者ゲルドンはニヤリと笑った。


「うっ……?」


 俺は目を丸くした。


 何と、ゲルドンの体から、闇色やみいろのもやのようなものが発生している。


 な、何だ? これは?


 蜃気楼しんきろう──? いや、これが「オーラ」「闘気とうき」ってヤツなのか?


 それにしては、何て禍々まがまがしいんだ! 不気味なんだ!


「こうなるとヤベえぞ」


 ゲルドンはクスクス不気味に笑った。


 ゲルドンは物凄い勢いで、俺の方に走り込んでくる! その時だ。ゲルドンの背後に、巨体の戦士が見えた。顔は青白く、体が透明だ! な、何だ、ありゃ?


「おおおおらああっ!」


 ドガアッ


 ゲルドンは前蹴り一閃いっせん、俺を無造作むぞうさに蹴り飛ばした。

 

 俺は、4メートルは吹っ飛んだ。リングの左から右まで、飛ばされた。


「くっ」


 すんでのところで、腹の急所を防いでいたので、たいしたダメージはない。

 しかし、何だ? このゲルドンの力は?


「だらああああっ!」


 ゲルドンの大振りなパンチ!

 うっ……? 一瞬、まるで亡者もうじゃのような恐ろしい顔をした屈強くっきょうな男が、ゲルドンの背後に見えた! さっきと同じような現象だ!


 俺は危機を察知し、両手で顔を防ぐ!


 ガスウウウッ


 また俺は、3メートルは吹っ飛ばされる。しかし、うまく防いだので、ダメージは軽減できた。


確かに、俺は防御をして急所を防いだから、ダメージは最小限だ。

 しかし、あまりのゲルドンのパワーに押され、手はしびれているが……。


(ゲルドンの、この力は、一体何だ?)


「ゲルドン、あなた! 魔法精製薬まほうせいせいやくを浴びたわね!」


 リング外の俺のセコンド──ミランダさんの声がした。


「あなたの力の根源こんげんはもしかして……戦闘民族、サーガ族の血薬ちやく!」


 ゲルドンはニヤリと笑った。


「そうだよ、ミランダ先生よ。俺は『サーガ族の血薬ちやく』を浴びた。だから、俺の背後には、サーガ族の亡霊ぼうれいが集まってきて、取りいている!」


 せ、戦闘民族の亡霊? マジか? 本当に悪魔に魂を売ったのか、ゲルドン!


 ──ブオン!


 すきをついた、ゲルドンの右アッパー!


 俺は転がってける。


 またしても、ゲルドンの背後に、長いアゴヒゲの巨体の亡者もうじゃが見えた。

 こいつも亡霊ぼうれいか! くそっ、ゲルドンにはたくさんの亡霊ぼうれいの味方がいるってことか!


「ゼント君! 打撃に付き合うと危ない! だから、別の方法で闘いなさい!」


 ミランダ先生が声を上げた。

 打撃以外の別の方法! となれば!


 俺はすきをついて、ゲルドンの左足に突進していた。──左足をつかんだ!


「うっ?」


 ゲルドンはうめいた。


 せえのっ!


 俺はゲルドンの左足を抱え、自分の肩と腕を使って、ゲルドンを倒そうとした。ゲルドンはふんばる……!

 しかし、俺はこの片足タックルを練習しまくっていたのだ!


 ドサッ


 ゲルドンはバランスを崩し、リングに座り込んだ。


「くっ、ちきしょう! ゼント、お前、組み技までやれるのか!」


 ゲルドンは声を上げたが、そこからの俺の行動は素早かった。


 ゲルドンの後ろに回り込み、座り込んだままで──!


 ゲルドンの首に手を回した。再びチョークスリーパー、裸締はだかじめだ! 相手の頸動脈けいどうみゃくを締める!


「ぐうおおおおおおお~!」


 何と、ゲルドンは俺が首に腕をまわしているのに、強引に立ち上がった。俺をおぶさりながら、ブンブンと両腕を振り回す。


 しかし、俺はねばっこいんだよ!


 ガスッ 

 ガスッ

 ガスッ


 俺はゲルドンの頭に、何度も肘を叩き落した。


「ぐっ!」


 打ちどころが悪かったのか、ゲルドンは、くずれ落ちた!


 俺とゲルドンはうつ伏せ状態だ。俺はゲルドンの背中に乗っている状態になった。

 

背面馬乗りバックマウント! よし、やったわね!」


 ミランダ先生が歓声を上げた。背面馬乗りバックマウントは、馬乗り状態と同様に、有利な体勢だ!

 ゲルドンはあわてて、俺のチョークスリーパーを封じようと、首をすくめる。


 だが、俺は後ろから、ゲルドンの側頭部やほおにパンチを喰らわした。


 ガスッ

 ゴスッ

 ゲスッ


 ゲルドンの顔が浮き上がる……そこを!


 俺の右腕は蛇のようだった。素早く、ゲルドンの首に巻き付ける!

 チョークスリーパー! 裸締はだかじめ……かかった……ついに!


 ぐぐぐぐ……。


「ち、ちくしょう! ゼントォォ! ……お前、何てやつだあああ!」


 ゲルドンは頸動脈けいどうみゃくを締められながら、声を上げていた。

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