第28話 ゼントVS大勇者ゲルドン②

 俺とゲルドンの試合は続いている。


 俺はゲルドンのタックルを受け止め、組み合いになっていた。

 

 ガスッ 

 ゴスッ

 ゲスッ


 組つきながら、ゲルドンのボディーブロー。一方の俺は膝蹴ひざげりを返す。お互いに5、6発は組み合いながらの打撃を出し合っただろうか。

 ゲルドンは両肘に青いサポーターをしている。怪我をしているのか? 肘を攻撃にうまく使うのか?


 じりじりとした、立ったままの組み合い、こらえ合いが続く。


「おい……20秒が経過しちまったぜ。ゲルドンがゼントを倒すはずの時間だ」

「さ、さすが大勇者ゲルドンだよ。遊んでるだけだ」

「だけどよ、ゲルドン、かなり冷や汗かいてねーか?」


 観客はざわつき始めている。


「だああっ!」


 先に動いたのはゲルドンだった。


 強引に俺を横に投げた。


 俺はバランスを崩し、リングに膝をついた。


「ハハハ! もらったぜ! もう終わりだ」


 ゲルドンが俺に対して、馬乗り状態をしかけた──が──。


(ここだ! 3、2、1……)


 くるり


 勢いで一回転し、逆に俺が馬乗りの体勢になった!


 ウウオオオオッ……。


 観客が騒ぎ出す。


「な、なんだとっ!」


 ゲルドンが声を上げる。


 俺は、ゲルドンが勢いをつけて、格闘技における最も有利な体勢──馬乗り状態を狙ってくると予想していた。


 その勢いを利用して、逆に馬乗り状態にさせてもらった、というわけだ。


 ガスウッ


 俺はすぐに、ゲルドンを上からなぐった。


「あぐ」


 ゲルドンが声を上げる。

 

 ゴスッ


 もう一発!


「う、うそだろおおおおっ!」


 ゲルドンは暴れ、馬乗り状態の俺から、逃げ出した。


 悪いな、それも想定内だ!


 俺は座って背中を向けているゲルドンの首に、右腕を巻きつけた。


 チョークスリーパー! つまり腕による首絞め──頸動脈けいどうみゃくを締める技だ!

 

 ぐぐぐぐぐ……。


 しかし、ゲルドンは力によって、俺の腕を外し、逃げ出した!


 くっ! やはりゲルドンの力が強い……!


 俺たちは立ったまま、またにらみ合った。


「バカな……おい、ゼント。何なんだ、お前は? この20年のうちに、何があったっていうんだ?」


 ゲルドンは驚きの顔で俺を見て、つぶやくように言った。


「さあな。だが、この試合は、俺が勝たせてもらう」と俺は言葉を返した。

「はあ? 勝つ? お前が? 夢見てんじゃねえええええーっ!」


 ゲルドンはそう言いつつ、右アッパー! しかし、俺はそれをかわす。


 ゲルドンはあわてている!


(ここだ!)


 俺はグッと体重をかけ、ゲルドンのほおめがけ、左ジャブ!


 ガスッ


 当たった! そして、渾身こんしんの右ストレート!


 ゲシッ


「ガフッ」


 ゲルドンはのけぞった。しかし──。


「そんなパンチはかねえんだよおおおおっっっ!」


 ゲルドンは猛獣もうじゅうのようにえた。そして、ふらつきを振り切るように走り込んで、超大振りの左フックを放ってきた!


 ブウンッ


 まるで風車だ──、しかし! 


 ゲルドンが走り込んできた勢いを利用して──! 俺は打撃を放った!


 グワシイイッ


 手の平の下部を利用した、俺独自の打撃法である──右掌底みぎしょうてい


「ぐへ」


 ゲルドンは見事に、俺の掌底しょうていをアゴに受け、片膝かたひざをついた。


「マ、ジ、か……」


 ゲルドンは目を泳がせながら、俺を見上げる。


 ヤツはダウンした。


 大勇者ゲルドンが、俺の打撃で、ダウンしたのだ。

 俺はゲルドンを、掌底で──ついにダウンさせた。


 ウオオオオオオオオーッ


 観客席が騒然となる。


「大勇者のダウンだ! や、やりやがったああああーっ!」

「ゼント、すげええええーっ!」

「大勇者、やべえぞ! どうなる? どうなる?」


『ダウンカウント! 1…………2…………3……!』


 審判団の声が、スタジアムに響いた。

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