第27話 ゼントVS大勇者ゲルドン①

 宿敵、大勇者ゲルドンと最悪の再会をした俺は……その1週間後──。


 ついに、ゲルドンと特別試合を行うことになった。


 この試合は、言うまでもなく真剣勝負ガチンコだ。

 

 俺は、昼過ぎ、ライザーンの大スタジアムにやってきた。


 スタジアムの客の入り具合をのぞいてみる。


「う、うおおおっ……」


 ドオオオオオオオオッ……


 す、すげぇ……超満員だ! 5万人はいるぞ!


 俺はクラクラしながら、エルサやミランダさん、ローフェンが待つ控え室に戻った。何だか恐くなってきた……。




 ついに出場時間がやってきた。エルサは控え室で、俺に武闘ぶとうグローブをはめてくれた。エルサは1週間前より元気になり、体も健康的に見えた。


 エルサは言った。


「君は、20年かけて、すごく大人になっていたんだね」


 エルサ……?


「自分をいじめたヤツと、試合しちゃうなんて、すごいよ。ゼント、君は強くなったんだね」

「そ、そうかな」

「そうだよ。だって、逃げようと思えば逃げられる。でも、ゼントはここまで来た。強くなったね」


 そ、そうか。俺は、ちょっとは強くなったのか。ひきこもりつづけ、自分を責めつづけ、自分の部屋で頭を抱えていた毎日だった。


 だけど、そんな日々でも、ちゃんとこの日に──この大事な日に、つながっていたのか。


「20年ひきこもっていたのも、ムダじゃなかった。そう言って帰るぜ」


 俺がそう言うと、エルサはニコッと笑った。


 そして俺の、グローブをはめた両手をにぎると、「神様、ゼントに力をお貸しください」と祈ってくれた。




 その後、俺は満員のスタジアムの花道を通り、ゲルドンが待つ武闘ぶとうリングに上がった。


 セコンドはミランダさんとローフェン。エルサとアシュリーは観客席にいる。


 宿敵……いや、幼なじみのゲルドンは、仁王立ちでリング上で待っていた。


「くだらねぇよ、ああ? ゼント」


 ゲルドンは舌打ちしながら、俺に言った。腕組みをしている。


 俺はゲルドンと対峙たいじした。でかい。

 ゲルドンの体のサイズは、身長183センチ、体重83キロ。一方の俺は、163センチ、55キロ……。


 圧倒的体格差。


「意味がわからねえ」


 大勇者ゲルドンは、苦虫をつぶした顔をしている。


「ゼントよぉ……何で記念すべきゲルドン格闘トーナメントの前日特別試合で、てめーなんかと闘わなきゃいけねーんだよ」

「運命だったのかもな」


 俺は言ってみた。


「……マジでボコボコにしてやるよ。20秒だ。ゼント、てめーを20秒で破壊してやるぜ!」


 カーン


 う、うおっ……。試合開始のゴングが鳴った。鳴ってしまった。あっけなく、何事もなかったかのように。


「しょうがねえなあ」


 ゲルドンはニヤニヤ笑いながら、軽くパンチを繰り出す。


 シュッ


 左ジャブだ。


 俺はそれをけ、右ボディストレートを繰り出す。


 ボスッ


 ゲルドンの腹に、俺のパンチが当たった。うまい具合に。


「ん?」


 ゲルドンは少し嫌な顔をした。しかし、一瞬で表情を元に戻した。


「おらよっ!」


 ゲルドンのゆるい右フックだ。


 ガスウッ


 音がした。


 俺は、ゲルドンの右フックをかわしていた。同時に、ゲルドンのあごに、左ストレートを当てていたのだ。


 俺のカウンターだ。


「は、ご」


 ゲルドンは顔をゆがませて、一歩後退した。


「な、なんだと……?」


 ゲルドンは驚きの顔で、俺を見やった。


 ここだ!


 俺は素早く、左ストレート──パンチを放った。


 ガアシイイイッ


「あ、が!」


 俺のパンチがゲルドンの右頬みぎほおに、まともに当たった!


 ゲルドンはぐらついた。急所だ──。


「お、おいっ、見たか」

「どうしたんだ、大勇者?」

「ちょっと押されてる?」


 観客たちも騒ぎ出している。


 俺はそう感じていた。

 

「まぐれでパンチが当たったからって、なめんじゃねえぞおおおおっ!」


 ゲルドンは俺の胸のあたりに向かって、タックルに来た。ようし、来た!


 ガスゥッ


 俺はそれを受け止める。


 グググ……!


 ゲルドンは俺に抱きつき、倒そうとしている。俺はそれをこらえる。


「な、なにいいっ」


 ゲルドンは声を上げた。


「お、お前……俺のタックルを……う、受け止めた?」


 ゲルドンは目を丸くしていた。


「す、すげえ!」

「おい、ゲルドンのタックルを受け止めちまったぜ」

「どうなってんだ? あのゼントってやつ、何者なんだ?」


 観客たちは少しずつ、驚きの声をあげはじめた。

 

 ガスッ


 ゲルドンのアゴに肘をくらわせた。そしてすかさず、ゲルドンの足を引っかけようとした。


 しかし、ゲルドンもこらえる。


 ゲルドンは重量級、俺は軽量級。かなりの体格差だ。


 しかし、俺は何とかこらえている。


「ど、どうなってやがるんだ? おい、ゼント」


 ゲルドンは、驚きの顔で俺を見ながら言った。


「お、俺のタックルを受けて……倒れねえなんて……? お前、何なんだ、一体?」

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