第13話 ホラッチョもよもふ

「え……私が行ったら、もよもふの家族に迷惑だよね?」

「いや、俺は一人暮らしなんだ」


「え……? 親はどこにいるの?」


 もよもふは親指で天を指した。


 ――そんな!

 彼は最愛の奥さんと子供だけでなく、両親まで亡くしていたなんて!


「ご、ごめんね……!」

「気にしないでくれ。俺はすでに悲しみを乗り越えている」


「事故……?」

「事故……なんだろうな。俺の両親は、国境なき医師団としてアフリカ各地を転々としていたんだが、南アフリカで、不運にもテロ目的の自動車爆弾に巻き込まれてしまってな……」


 あまりにも気の毒過ぎる……。

 そして、なんと立派なご両親なのだろう。

 私のクソオヤジや、あのクズとは大違いだ。



「もしかして、もよもふが青年海外協力隊に参加したのも……?」

「ああ、二人の意思を受け継いだんだ……まだ中坊だったから医療行為はできなかったけどな。俺は頭悪かったし」


 立派過ぎる……。


 あまりにも立派過ぎて、眩しくて仕方ない。自分が惨めに思えてくる。


「あはは、すごいね、もよもふは……私とは大違いだ……」

「そんなことはない。俺はクズだ」


「そんな訳ないじゃん! もよもふでクズなら、私はどうなるの!?」

「……朝の話の続きをしよう。――俺は妻と子の仇を討つため、民間軍事会社に入った。いつ死ぬか分からない仕事だ。ストレスは常に極限状態。ほとんどの者は売春や大麻に依存していて、俺もその中の一人だった」


「え?」

「俺は大麻の常習者だったんだよ星野。リージャへの不滅の愛を誓っているから、売春には手を出さなったがな」


 決してよくはないことだろう。

 だが一般人の常識が通用しない、過酷な戦場の話なのだ。

 正直、これくらいでは全然クズだなんて思えない。



「長い戦いの末、俺は仇であるテロリストを追い詰め、殲滅作戦を開始する」


 すごい……もよもふはそこまでいったんだ……!


「その時俺は小隊の指揮官を務めていたんだが、不運にも……いや常習者だったんだから必然か……大麻の中毒症状が出てしまってな……」


 嫌な予感がする……まさか……。


「俺の指揮は狂いに狂い、結果部下たちを全滅させてしまった……。仇を討てないまま、日本に逃げ帰って来たんだよ俺は。……な? ろくでもない人間だろ?」


 そんな……。

 現実はなんて救いのない世界なんだろう。

 せめて仇くらい討たせてあげればいいのに……。


「そんなことない……そんなことないよ……」


 もよもふはやっぱり私と違って立派だ。立派すぎる。その想いはさっきとまったく変わらない。

 でも、彼の暗い心を知った今、眩しく感じることはなくなった。


 彼は間違いなく、こちら側の人間だ。



「また長々と悪かったな……つまらない話だっただろう?」

「ううん、そんなことない。もよもふのこと知れて良かった」


「そうか。――で、星野どうする? 風呂、入りたいだろ?」

「えっと……」


 ど、どうしよう……?


 こうして夜の公園で一人いる時、知らない男から「家に来ないか?」と誘われたことは何度かある。

 親切心もあったのかもしれないが、その奥に潜む欲望が透けて見えていたため、ついていったことは一度もない。


 でも彼はストレスで大麻に手を出してしまった時も、リージャさんへの不滅の愛を貫き続けた人だ。

 下半身に支配された男たちとは違う、信頼できる人……。



「お邪魔させてもらってもいいかな?」

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人生RPG化の力を得た俺だが、ステ振りに失敗。悪行系スキルガン積みに。ヒロインたちにクソムーブしかできないが、破天荒ぶりに惚れられてしまう 石製インコ @sekisei-inko

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