第12話 プラチナちゃん(笑)→星野
「ごちそうさまでした。本当おいしかったです」
「喜んでもらえて良かった」
嬉しい……。
オムライスが美味しかった……というのももちろんあるが、一番の理由は俺が大人の階段を一つ登れたことだ。
そう。実績:初めてのキス(間接)をアンロックしたのである。
しかも、こんな可愛い人相手に。
ただしその代償として、アンジェリカちゃんをドカギレさせちまった。
明日、謝るしかないか……。
「じゃあお疲れ様です」
「うん、じゃあまた……」
俺は店長に見送られながら、スタッフ用の出口から外に出た。
店長はなんだかんだで、やっぱり大人だな。
めちゃくちゃ失礼な態度とりまくってるのに、全然怒っていない。
若気の至りということで、大目に見てくれてるようだ。ありがたい。
「――あ、これ返すの忘れちったな……」
ポケットに入っていたのは、ミー店長の家のカギ。
「うーん、今から返しに行くか……? でも、またアンジェリカちゃんみたいなことになったら厄介だしなぁ……明日でいいか……」
俺はミー店長のカギをリュックにしまおうとした。
「――あ、そうだそうだ! プラチナちゃん(笑)にプリント届けるんだった!」
俺は葉々勝のクソビッチに見せてもらった地図を思いだしながら、プラチナちゃんの家へと向かう。
「以前の俺だったら、とっくに忘れてんだろうな。記憶力も向上してるようだ」
本当ゲームの女神様、様様だぜ。
「ただなぁ……選択肢と成長システムがなぁ……」
どうやら俺は悪行系の値が高いようで、選択肢に悪行が表示されやすい。
そして困ったことに、とった行動によってステータスやスキルが成長するシステムのため、悪行系ばかりが成長してしまい、選択肢がさらに悪行系に染まるという、負の連鎖が起きてしまっている。
(女神様ー、これ、どうにかならないんですか?)
(ボーナスポイントを手に入れて、善行系に割り振るしかないでしょうね)
(ほう? どうやってボーナスポイントを手に入れるんですか?)
(クエストをクリアすれば貰えますよ。クエスト内容はルーレットです。やってみますか?)
(やりますやります! つうか先に教えてくださいよー!)
(じゃあ、ルーレットスタートです! テレテレテレテレテレ――)
ザリガニを100匹釣る
下着を盗む(ただし70歳以上の女性のみ)
サッカー部に入部
小学生を5人ボコす
アムンゼン・スコット基地で、たこ焼きを作る
レスバで勝利する
アイドルと付き合う
うわ……難易度にかなりバラつきがあるぞ……!
犯罪系だけは勘弁……!
姉とキスする
国際宇宙ステーションきぼうにピンポンダッシュ
不良を10人倒す
☛プラチナちゃん(笑)に書類を届ける
(プラチナちゃん(笑)に書類を届けるに決まりました。クエスト期限は本日中です)
(ラッキー! 元々やるつもりだったから、何の問題もないですわ!)
(ちなみに達成できなかった場合、ペナルティーがあります。その内容もルーレットです)
(あぶねー! それ先に言ってくださいよ!)
クリアできそうなの2割もなかった。
俺のリアルラックに感謝だ。
「そういやプラチナちゃん(笑)の家ってどんな家なんだろう? 意外にああいう奴がお嬢様だったりするんだよなぁ」
もしかしたらご両親から、お礼にお菓子もらえるかも。
そんなことを期待していたのだが……。
「うっわ……めっちゃボロい……プラチナちゃん、ガチで貧乏だったんだ……」
頑張ればサイコクラッシャーで壊せそうなアパートである。
「えーっと……102号室ね……」
俺はきったねえインターホンを押した。
「……あれ? いねえのか?」
もう一回押してみる。
「……出ねえ。さては遊びに行ってんな? でも、親はどうしたんだ?」
窓から家の中の気配をうかがおうとしたその時、ガチャリとドアが開く。
「なんだてめえは……?」
ガラの悪いオッサンが出てきた。
このいかにも知能指数の低そうな感じ……なるほど……こいつなら、娘にプラチナと名付けてしまうのも納得だ。
「あっ、プラチナさんのお父さんですか? 俺、彼女のクラスメイトでして、プリントを届けに来ました」
「帰れ!」
は?
そこは「ありがとう」じゃねえのか。
「いや、これ、明日までに提出しなきゃダメなやつでして……」
「知るか! 俺はあいつの親父じゃねえんだ!」
え?
じゃあこいつは何者なの?
「……とりあえずこれ、今日中に渡しておいてもらえませんか?」
「ふざけんな! 誰がやるか!」
だめだこいつ……。
「そうですか……プラチナさんはどこに? どうやら不在のようですが?」
「知るか! また逃げ出しやがって……!」
バタンッ!
乱暴にドアが閉められた。
俺は首を傾げながらアパートを去る。
舐めた態度とりやがって……切り刻んで、豚の餌にしてやろうか……?
――おっと、いけないいけない!
俺はなんてことを考えていたんだ!
もしかしてステータスの影響受けちゃってる?
「どうしよう……? プラチナちゃんの居そうなとこなんて分からねえよ。こりゃペナルティか? あーあ……どんなことさせられるんだろ……」
気分がブルーになってきた。
駅までの道をトボトボと歩いていると、寂れた公園が目に入る。
「今のブルーな気持ちにはピッタリだ。あのブランコに座って、悲しみに浸ろう」
公園に入ると、ベンチに座っている人影が見えた。
「ん……!? あれはまさか……!?」
俺は速足でベンチに向かう。
「星野……?」
ベンチでうなだれていた金髪の女の子が、顔を上げる。
「え……もよもふ……?」
ラッキー!
まさかここにプラチナちゃんがいるとは!
「先生に頼まれて――ていうか葉々勝に肩代わりさせられて、お前にプリントを届けにきたんだ」
「そう……ありがとね」
プラチナちゃんに進路希望調査票を渡した。
[クエストクリア。ボーナスポイントを10獲得]
やったぜ!
何に振ろうか? まずはステータスの一覧をしっかり見ないとな。
「それ明日提出だから。……じゃあな星野」
「あ、うん……」
俺は公園の出口に向かって歩く。
随分と冷たいじゃないかって? まあな……。
あのガラの悪いオッサンや、プラチナちゃんの家庭環境について興味がないと言えばウソになるさ。
だが、俺はギャルが苦手で仕方ないのだ。悪いが彼女とはあんまり関わりたくない。
そして何より、俺みたいなガキが気安く踏み込めることじゃないだろう?
[1、悲しんでいる女の子を、無情にも見捨てて帰る。【ギャル嫌い】]
[2、誰もいない夜の公園。危険があるにも関わらず、ギャルが嫌いだからというだけで見捨てる。【下劣王】]
[3、プラチナに飲み物をおごる。〔慈愛10以上〕]
なんだよもう! 選択肢め、完全に俺のこと責めていやがる!
散々悪行させたくせに、急に善人ぶりやがって!
ちくしょう! 分かったよ!
俺は自販機でホットコーヒーを買って、プラチナちゃんの元に戻る。
「星野……ほら」
「ありがと……戻って来てくれたんだ。――私、そんなヤバそうに見える?」
「……まあな」
俺は彼女の隣に座った。
「別に大丈夫。よくあることだから。帰っていいよ」
選択肢は出てこないが、どうせ帰ろうとした瞬間邪魔されるのだろう。
だったら、どうせ乗り掛かった船だ。とことん付き合ってやろうじゃないか。
「家に行ったら、ヤバそうなオヤジ出て来たぞ。あいつ誰だ?」
「あいつは……母さんの新しい男……最初は紳士だったんだけどね……。母さん、私と一緒で馬鹿だから、悪い男に捕まっちゃうんだ」
「そっか……親父さんは……亡くなった?」
「ううん。生きてるよ。DVするから母さんと逃げたんだ。ほとんど何も持たない状態でね。そしたらまた悪い男に捕まっちゃった……あははは……」
プラチナちゃんは笑っているが、にじみ出る悲壮感は半端じゃない。
ほら見ろ……とてもじゃないが、俺の手におえるような話じゃなかった。
おい選択肢……! 俺に何をしろって言うんだよ……!
「大変だな……」
「まあね。でも、もよもふに比べたらずっとマシだよ」
「え……?」
俺の家庭環境、まったく問題無いぞ?
両親は両方健在。
みんな仲良しだし、二人とも高給取りだから、経済的にもかなり余裕がある。
プラチナちゃんの家とは雲泥の差だ。
「奥さんと子供、殺されちゃったんでしょ? 私はそこまでひどくない」
しまった……!
そういや今朝、とんでもないウソついてたんだった!
やべえどうしよう?
今さらウソとか言えない状況だぞこれ……。
とりあえず話を変えるか。
「なあ星野、まさかとは思うけど、この公園で一晩明かすつもりじゃないよな?」
「そのつもりだよ。水道、トイレ、寝る場所もある」
「いや、女の子一人じゃ危ないって。家に帰った方がいいんじゃないか?」
「家の方が危ない……私、あいつに犯されそうになったことあるんだ……」
「え……!?」
「酔ってて、母さんと間違えたって言ってたけど、実際はどうなのかな……」
やべえ……。
俺とは住む世界が違い過ぎる。
「じゃあせめてネットカフェとかさ……」
「そんなお金ないよ……稼いだお金、ほとんどあいつの酒代になっちゃってるんだ」
「いや、なんで金出しちゃうんだよ!」
「酒買ってやらないと、母さんが殴られるんだよ」
「なんだそれ……じゃあ警察に相談するとか……」
「母さん馬鹿だからさ、あんな男でも居てくれないと生きてけないんだ」
DVの被害者は、加害者と共依存の関係にあるケースがあると聞いたことがある。これがそうなのか……。
「あははは、私の家終わってるでしょ? 関わらない方がいいよ。ほらもう帰りなって。もうだいぶ遅い時間だよ」
「星野……」
そういえばクラスの女子たちが、星野が臭いと言っていたことがある。
きっとあの男がいなくなるまで、ずっと公園にいたからお風呂に入れなかったんだろうな……。
「星野……俺の家来るか?」
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