第4話 遠出終了
「まぁ、一応は取り合ってくれるんじゃないのか。警察だし。窃盗に変わりはないんだから」
「大袈裟、とか言わない?」
「だって、その人にとっては、大切に育てたお花なのよ」
大袈裟じゃないでしょう、という母親の発言に、百合は少し勇気を貰ったような気がした。だから、もう一回尋ねた。
「売り物じゃなくても?」
「勿論よ。そういうのを聞いてくれなくて、何が警察よ」
さっき、『取り合ってくれるのかしら』と言っていた人とは思えない言葉だった。しかし、それで勇気を貰えたのは百合だけではなかったようだ。
「何かあったのか?」
塾で、と聞こえたような気がした。
やはり、母親から何か聞いたのか、それとも百合の様子に自ら気がついたのかは分からない。それでも父親が心配そうな声で聞いてきた。
「大したことじゃないんだけど……」
そう前置きをしてから、ラジオと母親から貰った勇気を出して言った。
「塾が終わると、自転車の籠に花を入れられてて」
「……いつから?」
予想外のことだったのか、少し間を置いて母親が尋ねた。
「……二ヵ月前から」
「百合!」
「待て。大したことじゃないって、百合も言っていただろう」
だけど、と言葉を詰まらせる母親が、何を言いたいのか、その雰囲気で百合は察した。
何でもっと早く言わないの!?
そう言いたいのだ。週二日とはいえ、二ヵ月は長い。言うタイミングは幾らだってあった。
「ごめんなさい」
「花を籠に入れる人物に心当たりはあるのか? 同じ塾に通っている奴とか」
「分からない。こんなに続くと思わなかったから。飽きてやめるかなって」
「何て悠長なことを言うの、この子は」
ごめんなさい、と百合は身が縮む思いで、もう一度言った。
恐らく、両親の脳裏に浮かんだ犯人像は、先日百合が思い描いた人物と同じだろう。嫌がらせにしても、花を自転車の籠に入れる者はいないだろうから、変質者ではないか、と。
***
その日の遠出は、勿論途中で引き返すことになった。
「それで花はどうしていたんだ?」
自宅に戻り、リビングで所謂、両親による事情聴取が行われていた。
「庭の隅に……」
「隅?」
そんなのあったかしら、という目線を向けられ、百合はさらに付け加えた。
「物置の脇の見えない所に捨ててたの」
塾から帰ると、こっそり庭を横切り、塀と物置の間にできた隙間に、花を捨てていた。
そこなら、わざわざ見ようとしなければ、両親にも見つかることはないと思ったのだ。入れた人物だって、そこまでは見ないと想定して。
「一応、百合なりに対策はしていたのね。私たちが気づかない場所なら、まぁ大丈夫でしょう」
「何もないということは、相手を刺激していないということだからな」
色々質問されたが、結局両親も思い当たりそうな人物に辿りつけなかった。その後父親は警察に連絡をして、しばらく塾は休んだ方が良いと言う結論で、その日は幕を降りた。
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