第12話 霧の中の海賊島
海賊たちの根城を目指し、霧の海へと乗り出していったエルスたち。
しかし陸から離れた沖に差し掛かるや、
それでもエルスらは
*
「えらい目に遭ったけどよ。なんとか切り抜けられてよかったぜ」
エルスたち三人は船長フェルナンドが操船を行なっている、
甲板には帆に
「マイマイの
フェルナンドは言いながら、右手でジョッキを
海には通常の魚以外にも、さきほどのような魔海獣や魔物が多く生息している。こういった事情もあり、いかなる漁を行なう際にも充分な武装が必須となる。
さらに〝人間のみ〟を襲う魔物と異なり、魔海獣は〝生物全般〟を捕食する。そのため充分な海洋資源を確保するためには、漁猟団のような武装組織が不可欠なのだ。
「さっきのタコは? あれって食べられるんですか?」
「いえ。ヤツにゃ、
首を
デスアーミー漁猟団への入団に際しては、海での戦闘や操船に有効となる〝風の精霊魔法〟に精通していることが、絶対の条件となっているそうだ。浮遊ダコは魔法で
「――とはいえ、周囲はこの
「わかッた! 俺とアリサは海が初めてだし、いろいろと勉強になるぜ」
エルスはフェルナンドに礼を言い、今度は冒険バッグから〝王家の地図〟を取り出す。これは出発を前に、オーウェルからエルスに
《ティアナなら、
《ミーファちゃんや、ランベルトスの
《おそらくは、この霧の
カラフルに塗りつぶされた地図に視線を落としながら、エルスは時おり頭を押さえる。さきほどの戦闘を終えて以降、彼の脳裏では〝なにか〟の映像が浮かんでは消えるといった現象が、何度も繰り返されていた。
《エルス、オーウェルどのについてだが――。彼女は別の世界から来た人物、
《へッ?
そこまで言葉を
「おっと、大丈夫ですかい? 慣れねぇうちは、酔っちまいやすからね。もうすぐ着きやすんで、少し座って休んでくだせぇ」
「あッ……。ああ、
エルスはフェルナンドの
そんな彼の隣に、アリサも並んで腰を下ろした。
《大丈夫か? 二人とも》
《ああ……。なんか、思い出したんだ。カルビヨンに着いた時とか、さっきのニセルの
手にしていた地図を冒険バッグに
《
*
真っ白な霧の中、エルスたちを乗せた船は順調に航路を進み、ついに目的地である〝海賊島〟へと
「おおっと……! 足元が変な感覚だぜ」
「うん。なんだか〝はじまりの遺跡〟に着いた時みたい」
まだ二人が駆け出しだった頃、アリサは
「何気ない動作や感覚のひとつひとつにも、記憶は宿ってゆくものさ。二人とも、しっかりと心に〝経験〟を刻んでおくといい。そうすれば、
「わかッたぜ。……ありがとな、ニセル」
なぜ〝ディークス〟という男の存在が、エルスの頭から抜け落ちてしまっていたのか。理由に思い当たる節もない。しかし、ひとたび思い出した今となっては、あの時の記憶を自由に
「アリサも思い出したのか? アイツのこと」
「うん。〝ふぁっく〟って言ってた人だよね? どういう意味だったんだろ?」
「わからねェ。もしかすると、異世界の言葉だったのかもな。――とはいえ、今は考えてる場合じゃねェや。海賊たちに会いにいかねェと……」
どうにかエルスは気持ちを切り替え、島の奥へと
砂浜の先には
*
しばらく三人が待機していると、今度はフェルナンドと数人の船員たちが、小舟で砂浜へと到着した。人員はフェルナンドの他、細身の若い男が一名、壮年の小柄な男が一名。そして引き締まった体格をした若い女が一名の、総じて四名が上陸した。
船長に連れられた三名は姿勢を正し、勇ましげに敬礼をしてみせた。
「お待たせしやした。
「やっぱそうなるよな……。でも、船長まで行くのか?」
「あっしが仮にヤラれても、船を動かせるヤツは
そう言ってフェルナンドは真っ直ぐに、エルスの
フェルナンドいわく、ヴィルジナという女海賊は人心に付け込み、敵を操る戦法を得意としているらしい。確かに彼が連れてきた精鋭たちの眼差しからは、どこか言葉では表現できぬほどの、意志の強さが感じとれる。
「そッか。それじゃ改めて、よろしく頼むぜ!」
「ええ、足手まといにはなりやせん。この若ぇ二枚目がマルコ、こっちのドワーフがドルガド。こいつぁジジイに見えやすが、三人とも若い同年代でさぁ」
「ちょっと
「――で、この気の強ぇのがノーラ。普段は調理場に
連続で突き出されるノーラの拳を
「ちょちょちょ! 待ってくれッス! オイラもついてくッスー!」
エルスが船の方へ目を
「……ペペッ! おい、マーカス! なんのために
「うひぃ!? これは単なる事故で……。オイラは悪くないッスよぉ!」
「だいたいオメェは適任じゃねぇ。エルフの
フェルナンドはキャプテンハットの砂を
「だっ、大丈夫ッス! エルフの女に興味ねぇッス!……たぶん。それに、オイラはこう見えて、人殺しは得意ッスよ?」
対人戦を主とする盗賊団に居た以上、マーカスの弁に
当のマーカス本人はフェルナンドたちによって必死に説得され続けるも、どうやら彼の決意は固く、一向に折れるつもりはないようだ。
「まッ……、まぁ。連れてッてやってもいいんじゃねェか?」
「だねぇ。それに置いてっても、勝手についてきちゃいそうだし」
このままでは
「おっ、さすがは勇者! 話がわかるッス! こっちの仲間になりたいッス!」
「おい、調子に乗るんじゃねぇ!――いいんですかい? エルスさん。最悪、
「いやぁ、俺は逆に、
そこまで言いかけたエルスは気づいたように、言葉を切って黙り込む。
もはやエルスは〝駆け出し〟ではない。
人々に希望を
「わかりやした。いざってぇ時は、こっちでキッチリ
「ぐひっ!? もっ、もちッスよ! オイラ負けねッス!」
マーカスは大振りのナイフを抜き、勇ましく右手を突き上げてみせる。
こうして漁猟団の精鋭を加えたエルスたち八人は、海賊団・テンプテーションズの
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