第10話 隠された秘宝を求めて
海を
「おかえりなさい、オーウェルさんっ」
「やっ、ようこそアリサちゃん! そっちの黒ずくめの彼は、はじめましてかな?」
「ニセル・マークスターと申します。お初にお目にかかります、オーウェルどの」
ニセルはソファから立ち上がり、オーウェルに丁寧な
「そいつぁ俺の、
「ほほー。二十年っていえば、アタシよりも付き合い長いじゃないの! よろしくね、マークスターさん!」
オーウェルは気さくに右手を差し出し、ニセルと軽い握手を交わす。
続いてオーウェルは赤い上着を脱ぎ、それをソファの背に引っ掛ける。彼女の首には〝
「ニセルって呼んでやんな。そうぃやオーウェルよ、港の様子はどうだった?」
「オッケー、ニセルさんね! あー、海の方はダメダメ。まだ漁に支障はないけど、出られる範囲も
ライアンの質問に答えながら、オーウェルは
「――まっ! それについては、これから作戦会議ってことで! エルスたちも、いいかな?」
「ああッ、もちろんだ! 俺たちは、そのために来たんだしなッ!」
*
エルスたち五人はソファに腰掛け、〝ろいまんまんじゅう〟を片手に会議を始める。対面の一人掛けソファにオーウェルとライアンが座り、同じく対面の三人掛けソファにはエルスとアリサ、ニセルに分かれて着席した。
「しかしエルス。あんたがあの〝勇者エルス〟だったなんてね! ファスティアであんたの名前を出した
「おッ、団長に会ったのか! なんか、そう言ってるトコが目に浮かぶようだぜ」
エルスは駆け出しだった頃の、ファスティア自警団長のカダンとの交流を思い出す。もしもカダンと自警団の存在がなかったならば、現在のエルスたちの冒険も、存在しなかったと言っても過言ではないだろう。
「そういえばオーウェルさんは、何しにファスティアに行ったんですか?」
「まー、政治的なアレコレが
「それッて、〝オディリスの
エルスが秘宝の名前を出すや、不意にオーウェルの目つきが鋭さを帯びる。
「――ひゅう! さすがは勇者! あの時の
「いやぁ。正体ッつっても、なんか危ねェ
「そう! 問題は、そこだったんだよねー」
オーウェルは思わせぶりに「ふっふっふ」と笑いながら、ゆっくりと自身の携帯バッグに手を伸ばす。そこで彼女はさらに
「おおッ? そいつはもしかして、宝の地図ッてヤツか!?」
「ご名答ー! これぞ〝灯火〟の
オーウェルは独特のファンファーレを口ずさみながら、羊皮紙を
「ばぁーん! ねっ、どう?」
「えーっと……。よくわからないかも?」
「なんだこりゃ? なんかガキがテキトーに描いた、落書きにしか見えねェ……」
テーブルに広げられた地図には、色とりどりの
「……だよねぇ。カダン氏を通じてアルティリア王家に掛けあってもらえたはイイんだけど、そこで渡されたのが〝これ〟でさぁ」
オーウェルが面会した文官いわく、すでに〝オディリスの灯火〟は王家の
「あとは歴史書や記録なんかを調べさせてくれればよかったんだけど。さすがに『そこまではさせられぬ!』――って。まっ、アルティリアも色々と抱えてるみたいだし、アタシらもこれ以上は食い下がれなかったってワケ」
「うーん……。そもそも危ねェモンみてェだし、別の方法を試すッてのは?」
「そっちは教会の聖職者や神学者、魔術士たちが寄ってたかって知恵を出してる最中なんだけどー。どうにも進展がなくてねぇ」
深い
「でも、この地図。よく見ると海を表してるんじゃ? この下のほうに見えてる部分って、
「おっ、鋭いねアリサちゃん! アルティリアから得た情報や地図の縮尺的に、この近海の、どこかの島にあるのは間違いなさそうなんだけど……」
そこまで言ったオーウェルだったが、バツが悪そうに口ごもる。エルスは地図に視線を落としながら、自身の
「じゃあ、その中からしらみつぶしに探すしかねェってことか」
「うん、それもなんだけど。ここいらの島は、
「海賊ッて、海の盗賊みてェな冒険者だよな? へぇ、本当に居るんだ」
海に縁のない者たちにとって、海賊は物語の中の存在だ。しかし陸で盗賊が大手を振っているのと同様、海では海賊が幅を利かせているのが実情だ。
「ああ。古くっからのヤンチャどもでよ。特にテンプテーションズの女頭目・ヴィルジナは
悔しさを
「アタシの代になってから、何度かヴィルジナと交渉してね。ここいらの島を〝
「奴らにとっちゃ、あくまで表面上の約束だがな。それでも奴らの襲撃は、多少はマシになった。俺に出来なかったことをやってのけた、オーウェルの見事な功績だ」
ライアンは
*
会議は踊るも解決策は
「つまり、どうにかして秘宝を見つけるしかねェってことか。そンで、手がかりはその地図と、海賊の島……」
「学者さんたちの方は、ちょっと無理そうな感じだねぇ」
「それにあの霧の範囲は、日増しに拡大を続けている。もしも島を探索するならば、急いだ方がよさそうだ」
ニセルの提案に、四人は
続いてエルスが名案を思いついたかのように、人差し指を真っ直ぐに立てた。
「なぁ、海の宝ならさ。その海賊が手に入れてたりはしてねェかな?」
「奴らは
「じゃあ、その人たちに
アリサは口元に指を当てながら、小さく首を
「あっはっは! いいね、名案だ!――とはいえ、
「あぁ。それに落ち着いたとぁいえ、
ライアンがそう口にした瞬間。
まるで〝待ってました〟とばかりに、エルスが手を叩いてみせた。
「――よしッ! それなら俺たちが、そいつらの所に行ってやるぜ!」
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