第7話 静かなる変革と秘められし悪意
港町カルビヨンから
「よくぞおいでになられた。誇り高き勇者ロイマンと仲間たちよ。ここはかつて〝聖地〟と崇められし場所。今は名もなき〝
祠を守護するように立った一人の男が、
「フッ、くだらん
ロイマンは番人を
「
「つまり『
ロイマンの
ハーフエルフ族であるハツネは外見こそ若々しく見えるものの、実年齢はロイマンと同じく、すでに五十を過ぎている。
「
そう言うと男は
ロイマンとハツネ以外の若い仲間たちは
「はーい! あっ! あたしは最後でいいから! うっうー、寒い寒いっ」
「なんダヨ、アイエル。
「かまわん。好きにしろ」
若い仲間の内で最年長のゲルセイルが、三人の意見を手早くまとめる。魔人族である彼は強靭なる肉体を有しており、一同が分厚い防寒着に身を包んでいるなか、半裸に近い格好で極寒の雪山を踏破してきた。
「うふっ。決まりね? それじゃロイマン、お先にどうぞ」
「ああ。行ってくる」
ロイマンはハツネと口づけを交わし、背中の〝魔剣ヴェルブレイズ〟を彼女に託す。そして祠の
*
「ナァ、ボス。ナニを訊いてきたんスか?」
「フッ、つまらんことだ。――それより、問答の時間は存外に少ない。今の内に質問を考えておけ」
「ウッス! もう俺っちはバッチシなんデ!」
ロイマンとゲルセイルが話していると、やがて祠の中からハツネも戻ってきた。
彼女の表情には、心なしか暗さが
四人の視線に気づくや、穏やかな笑顔を一同にみせた。
「さぁ、次は誰かしら?」
「んじゃ、俺っちが行ってクルゼ! ラァテル、
「いいだろう」
ゲルセイルは金髪を長く伸ばした青年・ラァテルにそう言い、背負っていた巨大な剣を地面に突き刺す。彼の武器は〝剣〟と定義するには
荷物を置いたゲルセイルは頭の
そして彼も
「ナンカ、変なバーサンが居るだけだったナ。ハァ……。ラァテル、アンマシ期待しない方がイイゼ?」
「承知した」
ゲルセイルはラァテルの背中をバシリと叩き、彼の後ろ姿に手を振ってみせる。
パーティのムードメーカーであるゲルセイルだが、同じ〝
ラァテルはゆっくりと祠へと進み、扉の前で一礼をする。そして彼も長身を
「ラァテルって、けっこー礼儀正しいよね! 下品なゲルっちも見習ったら!?」
「るセェ! オメェこそ可愛い顔のワリに、一言余計なんダヨ!」
アイエルは
熟年の二人が彼らのやり取りを微笑ましく眺めていると、やがてラァテルが帰還した。石扉を閉じた彼は再び祠へ一礼し、仲間たちの方へと向き直った。
「おかえり。有用な情報は聞けたかしら?」
「ああ」
ハツネの問いに短い答えを返し、今度は険しげな視線をアイエルへ向ける。
尤も、彼は普段からこのような表情をしているため、無言で「行け」と
「もっとゆっくりしてっていーのに! せっかく長旅をしてきたんだからさー」
「オメェの家じゃネェダロ。ホラ、さっさと行ってこいヨナ!」
アイエルはヘラヘラと笑いながら、ゲルセイルに向かって中指を立てる。そのジェスチャの意図を
*
「それじゃ、ごっ
なぜか祠の前で手を叩き、アイエルは
「ふーん? つまりは異空間ってことね。まっ、その方が都合がイイけどっ!」
アイエルは鼻歌交じりに両腕を振り、真っ直ぐに闇の中を進んでゆく。
ほどなくすると周囲に複数の
そこには儀式的な、あるいは呪術的な意匠の施された石の台座があり、白髪の
しかし老婆の
「む? 誰じゃ? そこに誰か
「はいはーい! ここにいますよー! っていうか、目を
「これは
質問をする老婆を無視し――。アイエルはにこやかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと彼女の前へと近づいてゆく。
「えー? あたしが逆に
「
そこまでを老婆が言いかけた時。不意にアイエルの右手に〝光の円盤〟が浮かびあがった。そして彼女は
「ぐっ……! ぉおっ……!?」
「あたしってオバーチャンっ子だけど、お
「馬鹿な……。
まるで老婆の内部を探るかのように、アイエルは右手を
「ふー! ダウンロード完了ーっと! でも、ざーんねんっ。これでも
アイエルは〝お手上げ〟のジェスチャをしながら、ひとり大きな
そしてくるりと
*
「ヨォ、おかえり。オメェも早かったじゃネェカ」
「ただいまぁー! うーん、ちょっと期待はずれだったかな!」
「フッ、致し方あるまい。もう少し雪山を進んだ先に、次の
ロイマンは戻ってきたアイエルを迎え、祠の番人へと
「邪魔したな」
「よい旅を続けられよ。さらばだ、誇り高き勇者たち」
五人は番人に別れを告げ、極寒の雪山へ戻るべく洞窟を出ていった。
そんな彼らを見送った番人は、ゆっくりと祠の方を振り返る。
「これも我らが
その言葉と共に――。
番人の姿は白い霧と化し、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます