第6話 秘宝の正体
港町カルビヨンを仕切る〝デスアーミー
その後
「いやはや、まさか勇者さま方にお泊りいただけるとは……。ご覧のとおり、ウチむさ苦しい店でして……」
宿の店主を務める中年の男は申し訳なさそうに頭を下げながら、ガタついたテーブルに料理の皿を並べてゆく。彼の言うとおり、店内は狭く殺風景であり、エルスら五人以外に客の姿は見当たらない。
小さな食堂には三台のテーブルがあり、エルスたちは二台を連結させた形にして食卓を囲んでいる。その卓上には続々と、豪勢とまではいかないまでも色鮮やかな海鮮料理の数々が勢ぞろいしはじめた。
「ンなこと気にしねェでくれよ! 泊まらせてくれるだけでもありがてェぜ」
「うん、それになんだか貸切みたいだし。料理も美味しそうだねぇ」
「ふふー! さっそくいただくのだー!」
ミーファは手にしたスプーンを振り上げ、大皿に盛られた〝カルビヨン風パエリア〟へ向けて正義の銀光を振り下ろす。そして魚介の出汁によって炊き上げられた米と具材を
「おー! カルビヨンの料理も、ドワーフ料理に負けず劣らず絶品なのだー!」
「ハハ……。そう言っていただけますと、作り甲斐がございます」
店主は恐縮したような笑顔を浮かべ、一礼の後に厨房へと戻っていった。そして彼の後ろ姿を見送ったエルスたちは、改めて今後の方針について話し合うことに。
「さて、これからどうするかだが……」
「んー、とにかく〝あの霧〟をなんとかするしかねェ――ッて感じだよなぁ」
「オーウェルさん、何か手があるって言いかけてたね。秘宝がどうとか」
アリサが出した〝秘宝〟という単語に、ティアナがビクリと
「どうした? ティアナ。どッか調子
「えっ……? ううん! だいじょうぶっ!」
ティアナは
「――うんっ、さすが本場のサラダは美味しいっ! あはは……」
しかし今回の話題の中心が〝秘宝〟となることは疑いようもなく、ティアナは真剣な表情でフォークを置く。その様子に一同の視線が、彼女へ向かって集中する。
「あの……。その〝カルビヨンの秘宝〟なんだけど……。たぶん、使わないほうがいいと思う……」
「ん? 何か、ヤベェ
エルスの問いに無言のまま、ティアナが大きく
*
かつてカルビヨンが小さな漁港だった頃。海を
当時のアルティリア王国は自由都市ランベルトスの独立による混乱期にあり、聖王国の進軍によって完全に〝隙〟を突かれる形となってしまった。
また、長年の敵対関係にある砂漠エルフたちやランベルトスの一部勢力による武力蜂起もあり、アルティリア王国は
「ふっ。ランベルトスの独立というと、およそ千年前か」
「はい。〝歴史に残る失政〟などと、呼ばれている時期ですね……」
「でもアルティリアが無事ッてことは、攻めてきた奴らは追い返せたんだよな?」
神への強い信仰と、宗教による結束によって成り立っているサンクトシス聖王国は〝聖戦〟を
その圧倒的な兵力に一時はカルビヨンを破壊され、敵軍の上陸を許したアルティリアであったが――ランベルトスの王国派やガルマニア帝国、ネーデルタール王国の助力もあり、どうにか敵を海上へと押し返すことに成功した。
「――でも当時のアルティリアに海軍は無く、東のネーデルタール艦隊の助力を得るには、広大なアルディア大陸を大回りしなければいけない状態だった……」
さらに聖王国はサンクディア大陸の近隣諸国をも巻き込み、新たに連合軍を結成。圧倒的な物量によって、アルディア大陸の一挙制圧作戦を開始した。
もはや絶望的な状況に追い込まれたアルティリア王国。そこで当時のアルティリア王家は、禁断の手段に打って出た。それは、ミストリアスの外の世界――異世界から
「それが、カルビヨンの秘宝?」
アリサの言葉に、ティアナは小さく頷いてみせる。心なしか彼女の
「うん……。正式な名前は、オディリスの
「へぇ。変わった名前だなぁ」
「誰が創ったのか、どんな由来があるのかもわからないけど……。灯台から放たれた光は、あらゆる
結果的に、この一撃によって戦争は終結を迎えたものの――。暴走する光は海底に
「マジかよ……。じゃあオーウェルさんは、そんなモンを使って〝あの霧〟を吹き飛ばそうとしてるッてことか……」
「うー? ということは、まだ
「ううん。あまりの恐ろしさに、王家は
王家に伝わる伝説を語り終え、ティアナは大きく息を吐く。そしてグラスに注がれていた冷水を、一気に
「んー。そうなッちまうと、別の手を考えとく必要もありそうだなぁ……」
エルスは
《あっ……。ごめん、ありがとっ……》
《へへッ! どうせ使う機会が
暗号通話で礼を言うティアナに対し、エルスは無邪気に白い歯をみせる。彼なりに元・王女である、彼女への気遣いを見せたのだろう。
「でも他に方法があるのかなぁ。そういえばオーウェルさん、『あの霧は
「ほう? 本来ならば世界中の
ミストリアスの気候・気温・天候といった自然現象は、すべての
「おー! それならご主人様が正義の
「いッ!? いやいや、ンなモンやったことねェし……。そもそも俺は〝精霊〟じゃなくて、なんか〝精霊族〟らしいしなぁ」
人間族の父と精霊族の母を持ち、自身は〝精霊族〟としての生を受けたエルス。本来、常人を
*
五人が食事を進めながら作戦会議に
「いらっしゃいませ。当館をご利用いただき、ありがとうございます」
「あっ、かわいいっ! お子さんですか?」
ティアナの言葉に女性は小さく頭を下げ、慈愛に満ちた笑顔を浮かべてみせる。すると今度は厨房から店主が現れ、妻の隣へと歩み寄った。
「はい。じつは今朝、産んでくれましてね。まだ命名の儀式も済んでおらず……」
「ええっ!? そんなっ……! 大変っ……。早く儀式を受けないとっ……」
驚きのあまり大声を出してしまい、ティアナは
ミストリアスに生を受けた者は〝命名の儀式〟を受け、
「そうだ……。私たちが留守番をしますから、お二人は教会へどうぞっ。ちょうど
「なんと……。よろしいのですか?」
「ああッ、いいぜ! じつは俺も、店番には慣れてッからな!」
冒険者として駆け出しだった頃は、様々な依頼を
「ありがとうございます……。ぜひ、お言葉に甘えさせていただきます」
内心では、かなり
*
「……みんな、ごめんねっ。勝手に決めちゃって」
「ううん。赤ちゃんに名前を付けてあげないと、大変なことになっちゃうもんね」
「ふふー! このメイド服は
身勝手な行動を
そして宿の留守番を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます