最終話 海の向こう、次なる冒険を求めて!
アルティリア王都の街教会。その敷地内に存在する、孤児院にて。
孤児院を抜け出したミケルとベランツが夕食の時間まで戻らなかったため、教会の
しかし、
「本日の定期巡回の際、これを〝はじまりの遺跡〟で発見いたしまして……。未来ある命を散らしてしまうとは、お
「そうですか……。いえ、すべては
行方不明事件とは、あの
「彼らの命を奪った者は必ず探し出し、罰を与えますので……」
「いえ、カダン殿。あの子らとて、武器を手にしておりました。教会は
「そう……、ですな……。申し訳ない」
カダンは深く一礼し、二人のために祈りを捧げた。そして彼は口元を真一文字に結び、涙を
「そうよね。なんて思いやりが無いのかちら……」
友人らを失った直後だというのに、ナディアは
ましてや〝はじまりの遺跡〟は
「ナディア。見ていたのですね?」
「はい。
「では、二人の〝墓〟を
マルクトが差し出した品は、ベランツの黒い手帳と、孤児らが身に着ける二人分の
*
すでに天上の
「
ナディアはベランツの手帳を開き、彼の生きた証を心に刻む。そこには日記や何気ないメモに混じって、冒険者や
「冒険者……」
銀色の
「わかったわよ。ミケル。ベランツ。――聖女になるのは
ナディアは手帳を静かに閉じ、手元の
*
一方、アルティリア領内に密かに造られた、不気味な研究施設にて。
その
「ヴィ・アーン! 上出来ですよ、カリウス君! ええ、ええ。約束どおり、ガルマニアには干渉しないと誓って差しあげましょう」
ボルモンクの目の前、
カリウスは時おり獣のような
「ふぅむ。残念ながら〝タイプ・リーランド〟ではありませんね。さしずめ〝タイプ・ガルマリウス〟といったところでしょうか」
「まさか
「当然です!
「
疑うゼニファーの声を無視し、ボルモンクは上機嫌な様子で携帯バッグから拳銃を取り出す。彼はそれを興味無げに、汚れた医療器具が並ぶ机の上へと放り投げた。
「さらに、無礼な
「なんだったかしらん?
机の上の黒い物体を見ながら、ゼニファーは前髪をかき上げるように頭を押さえる。彼女は、ここ最近の〝なにか〟に関する記憶だけが、
「
「遠慮しとくわん……。それよりも
「好きにしなさい。――さあ、それよりも! いよいよ〝新たなる境地〟へと踏み出す時です! これから忙しくなりますよ!」
ゼニファーは投げ出されたままの〝銃〟を手に取り、それを自身のバッグに入れる。そして彼女もボルモンクに従い、実験の準備に取り掛かった。
*
それから数日後。エルス率いる〝特命ギルド〟の活躍により、ガルマニアが七十年ぶりに解放されたことが、ランベルトスの商人ギルドを通じて大々的に発表された。
ガルマニア帝国改め〝新生ガルマニア共和国〟の
そんなユリウスがエルスらの仲間に加わったこともあり、ガルマニアの〝新首都〟の創設作業には、ランベルトスからの全面的な支援が約束された。
この援助に関しては商人ギルドの
「それにしても……。エルスが凄い人だったなんて。本当に申し訳ない限りだよ」
「俺が凄いッていうか……。ここまで来れたのは、
真新しい軍服に
「ふふ、そうだったね。当分はガルマニアからは離れられないけど、僕も〝エルスネスト〟の一員として、精一杯に頑張らせてもらうよ」
「あッ……、ああッ! クレオールも来てくれてるし、こっちのことは任せたぜ!」
ユリウスの言った〝エルスネスト〟とは、エルスら〝特命ギルド〟が世界で活動するにあたり、公式に名乗ることになった新たなる名称だ。
『名前を決めろッて言われてもなぁ……。俺、そういうの得意じゃねェんだよなぁ』
『ほら。ナナシさんの時みたいに、なにか思いつくんじゃ?』
『じゃあ、全員の名前を一文字ずつ取って……。えーッと、エアニミクドザ……』
エルスは指折り数えながら、一文字ずつ口に出してゆく。
『うー? 新しい呪文なのだー?』
『あはは……。ちょっ……、ちょっと嫌かも……?』
このように命名には多少の苦労があったものの。エルスの冒険者としての〝原点〟を刻むということで、彼自身の名と、彼の父親の名を組み合わせた名が提案された。
『へぇ、エルスネストか。なかなか良いんじゃないかい?』
『シシッ! 異論は無いですのぜ』
『エルスとエルネストの名前を足し合わせたのね? なんだか〝エルスの巣〟みたいな響きだけれど。あなたが決めたのなら、しっかりと自信を持ちなさい?』
『ほほ。偉大な父の名に恥じぬようにな。――さて、それでは我々も心機一転し、仕事に取り掛かるとするかの!』
ドミナらギルドの仲間にも
*
「そういや……。カリウスさん、まだ戻らねェのか?」
「ああ。彼は僕よりもずっと長い間、父さんと共に
カリウスはゼレウスの従騎士を務めていたこともあり、ゼレウスを
「もし、
「そうか……。それじゃ俺らは冒険に戻るけど、ユリウスも気をつけてな」
「うん。それじゃまた。君たちにも、
エルスたちはランベルトスへ帰還するためにユリウスと別れ、トロントリアを
*
「あッ、そういや誰か。〝ダム・ア・ブイ〟ッて、どこに
ランベルトスへの帰路につきながら、エルスは仲間たちに、多忙のなかで聞きそびれていた疑問を口にする。ダム・ア・ブイ。それは賢者リーランドから聞かされた、次なる目的地となりうる場所の名だ。
「ふっ、それはおそらく〝ノインディア〟のことだろう」
ニセルいわく。はるか古代の
この世界が復活した際、
いわばノインディアは――。
神自身の手によって創られた、世界初にして唯一の〝神の国〟ともいえる。
「ノインディアって、確かニセルさんの
「そうだ。もしも向かうならば、カルビヨンから船に乗る必要があるな」
ニセルからの言葉に、エルスとティアナは
「おおッ! じゃあ、俺たちもいよいよ、この大陸から出られるッてワケかッ!」
「わぁ、楽しみっ! 王家にいた頃には、自由に探索なんてできなかったから!」
海を渡ってきたニセルとミーファはともかく、アルティリア出身の三人は、アルディア大陸から出ることが密かな夢でもあったようだ。
「これで次の目的地がわかったぜッ! ニセルとミーファも、それでいいか?」
「おー! ミーはご主人様に、どこまでもついてゆくのだー!」
「ああ。問題ない。――ふっ、久しぶりの帰郷か」
仲間たちの同意を得たことで目的地も決まったことで、エルスは少年のように街道を駆ける。そして彼は仲間たちの方へと向き直り、元気よく拳を突き上げた!
「それじゃ次の冒険は港町カルビヨン! そして、ノインディアに決定だ――ッ!」
ミストリアンクエスト:第3章/ガルマニアの再興 【終わり】
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