第39話 それぞれの使命
古の賢者リーランドにより、
重傷を負ったゼレウスの容態は
「それでは、この空間の正体を説明しよう。
リーランドは言いながら、
一同は彼の言葉を受け、それぞれに肯定の意を表した。
「結構――。再世神はミストリアスを復活させるにあたり、
「じゃあ……。その空間が表に出ちゃったのが、
ティアナからの質問に、リーランドは静かに
「そうだ。だがあくまでも、
マナリエンとはヒュレインやアルミスタと同様の古い呼称であり、これはエルフ族を指す言葉だ。そして以前にリリィナが話していたとおり、エルフたちの本拠地である〝神樹の里・エンブロシア〟は、現実界とは別の空間に存在している。
「えッ? ダンジョンとかエルフの里は
「異空間は常々、いたる
リーランドは言いながら、テーブルを指で軽く叩く。すると何も無かった卓上に、半透明の光を
「これは〝
エルスはリーランドに礼を言い、机の上のアイテムを手に取ってじっくりと
そしてエルスは言われた通り、観測者のレンズを通してアリサの姿を覗き見た。
「うわッ!? なんだこりゃ……!?」
レンズの先に見えたもの――。それはアリサの全身にまとわりつくように
さらに彼女の周囲には球形や立方形に切り取られた空間が貼りついており、その内部を貨幣や
アリサの右腕付近、すなわち〝武器収納の
「何が見えてるの? あっ……。もしかして、わたしの裸とか?」
「ええーっ!? そんなのダメっ! まだ心の準備が……!」
「ふふー! ミーはいつでも歓迎なのだ!」
「ばッ!?――ンなワケあるかッ! なんか神聖文字がぶわーっと書いてあって、こういう形の中にアリサの剣とかもあって……」
エルスは身振りを交えながら必死に説明し、観測者のレンズをアリサに手渡す。
「うーん? わたしには何も見えないみたい」
アリサはレンズをミーファとティアナにも渡してみるが、彼女らにも文字や空間といった不可思議なものは見えないようだ。
「あれ……? おッかしいな……」
エルスは頭を
「ニセルは? どうだ?」
「いや、特に変化は無いな。
ニセルは「ふっ」と息を吐き、レンズをエルスに返却した。
「うーん、どうなってんだ……?」
「おそらくは、エルス。汝に宿る
リーランドの言葉に、エルスは彼の方へと向き直る。
「精霊とは、世界の
「それ、前にも似たようなことを言われたけどよ。よくわからねェんだよなぁ……」
現在のエルスにとっては〝精霊族〟としての強みよりも、どちらかといえば弱点ばかりが目立っている。彼がここまで生き残り、そして成長を遂げられたのは、頼もしい仲間たちの協力があってこそのことだろう。
*
「世界を
「俺の、使命?」
「
突如として突きつけられた〝使命〟に対し、困惑した様子で頭を
「なんだッ! 今までどおり冒険すりゃイイッてことか!――それなら問題ねェ。なんたッて、みんな頼りになる仲間だからなッ!」
エルスは誇らしげに言い、アリサらの方へと視線を
仲間らの顔を見たエルスは気恥ずかしそうに視線を外し、慌てて話題を元へ戻す。
*
「とりあえず
「それについては、
エルスからの疑問を受け、ゼレウスが
「七十年前。
「禁忌?」
「
アルディア大陸にはアルティリア王国、商業都市国家ランベルトス、港町カルビヨン――そして南方の砂漠地帯を支配する
それぞれの国家は互いに同盟を結び、あるいは表立って敵対し、時には中小規模の紛争へと発展するといった事例も少なくない。
特に七十年前に
「
過去の歴史書を読みあさり、そのことに気づいた皇帝カルマリウスは〝召喚術〟を応用し、覇権国家となった〝ガルマニアそのもの〟を、現世に
「――召喚
この城の構造や、帝都の異様な街並みや人々の様子は、
*
「じゃあ、ガルマニアが魔王に滅ぼされたッてのは……」
「うむ。乱心し、自らが〝
「そういうことだッたのか……」
エルスは長い息を吐き、静かに床へと視線を落とす。長きに語られたガルマニア陥落の真相が、よもやこのような形で起こっていたとは。
「……すまぬ。我が使命を果たし、魔皇ガルマリウスを滅ぼすため、どうか諸君らの力を貸してほしい」
「今さら断りなんてしねェさ。俺たちだッて、ガルマニアを
「うんっ! 行こう、エルス。わたしたちなら出来るはず」
アリサからの言葉を受け、全員がそれぞれに気合いを入れる。ガルマニア
「ああッ! それじゃリーランドさん、俺たちは先に進むぜ!」
「うむ。この先の扉を抜け、玉座の間へゆくがよい。――勇敢なる者たちよ。ガルマニアの未来を、
仲間たちは続々と、図書館の最奥に見える両開きの扉へと向かってゆく。そんな彼らに続こうとしていた時、リーランドが不意にエルスを呼び止めた。
*
「エルスよ。アインスの
「へッ? なんでアインス?――ッつか〝ダム・ア・ブイ〟ってなんだ?」
「おそらくは、汝の仲間が知っておる。そこで〝真の世界の姿〟を見よ」
最終決戦を前にして、エルスに与えられた不可解な情報。その抽象的な内容は気になるが、今は成すべきことを成さねばならない。
エルスは再び姿勢を正し、リーランドの正面に向き直る。
「……わかッた! よくわからねェけど覚えとくぜ! 色々とありがとなッ!」
「ああ。健闘を祈るぞ。――我が力を受け継ぎし者よ」
リーランドにガルマニア式の敬礼をし、エルスは仲間たちの元へと駆けてゆく。そして彼らは決意の
*
「そなたは行かぬのか? ダズドよ。この機を逃せば〝現実界〟には戻れぬぞ?」
「イシシシッ! どのみち、あっしの命は尽きておりますんで。それに、それは
「ははっ。違いないな」
リーランドは静かに笑いながら、数多の
「……これで良かったのだろう?
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