第38話 再世された真世界
ガルマニア帝都の王城内。異空間と化した図書館にて。
リーランドの姿は幻影が
「リーランドッて……。やっぱ〝魔王〟の、だよな?」
「エルス、失礼だよ? すみませんっ、リーランドさん」
「あッ……!
意図せず口をついた言葉であったが、アリサに即座に指摘され、エルスは
「構わぬ。私が魔王と成ったことも、
「魔王の、
「ああ。かなり変質してはいるが――。とても懐かしく、偉大なる力を感じる」
リーランドはエルスを静かに見つめたまま、優しげに目を細めてみせる。この異空間に存在し続けた彼の瞳には、いったい〝何〟が映っているのだろうか。
「リーランド
「ゼレウスだな? 栄光あるガルマニアの血を受け継ぐ者よ。――そなたは
「えっ? ゼレウスさんのこと、知ってるんですか?」
「私には汝らの情報が
「すごいっ! そんなことまでわかっちゃうんだ」
ヒュレインとは人間族を、そしてアルミスタとはドワーフ族を指す言葉だ。しかし古い呼称である故か、
「すごいねぇ、リーランドさん。エルスのことも
「おまえ、たまにそうやって変なスイッチが入るよな……」
アリサは腕の良い占い師でも見つけたかのように、エルスに質問を
*
「なぁ、リーランドさん。そもそも、
「
「重なった、世界……? じゃあ、ダンジョンって〝別の世界〟だったんですか?」
聞きなれた単語の登場に、今度はティアナが興味を示す。ダンジョンに仕組みについては
「厳密には異なるのだが。ふむ、まずは
リーランドは思案のジェスチャをみせた後、正面の
球体の表面にはデフォルメされた樹々や山々、城や街といったシンボルが立体的に描かれており、このガルマニアの存在する〝アルディア大陸〟の形も確認できる。
「これが旧世界。つまり、
食い入るように球を見つめる一同を
「実際にはこのように、複数の世界が平行するように重なり合っていてな。これらの世界は本流こそは同じだが、それぞれに異なった歴史を歩んでいたのだ」
「うー? どういうことなのだー?」
「つまり、リーランドどのが〝英雄〟となった世界と〝魔王〟となった世界が、同時に存在していた――と、いうことですか?」
ミーファの疑問に対するニセルの答えに、リーランドはゆっくりと
「あっ、世界が……」
球体を静かに見守っていたアリサが、突然の変化に言葉を
「知ってのとおり
「でも……。復活、したんだよな……?」
エルスの言葉に深く
さきほどまでの球体と異なり、今回の
「これが現在の世界。
「えっと、街や森などが内側に
ユリウスの出した回答を聞き、リーランドは首を縦に振る。
「正解だ、ガルマニアの若き同志よ。――そしてもう一つ、決定的に違っていることがある。現在の世界には、以前のような〝平行世界〟は存在せぬ」
「じゃあリーランドさんが歴史ン中で、英雄とか魔王だったりするのッて……」
「そう。
*
そのような者には当然ながら、世界を〝
それでも
しかし、すべての力を使い果たしたことで、彼の存在は
消滅してしまう間際、彼は〝ある少女〟との約束を交わし、世界に在り続けることになる。それから彼は永い眠りに就き、今でも世界を見守っている。
愛する世界を闇の
*
「――大量に存在する〝真実〟の中から、人々はより良い〝真実〟だけを選び取った。こうして
「おー! しかし、よくあれだけの数が
ミーファは半透明の球体に手を突っ込みながら、リーランドの
「もちろん、すべてを残すことはできなかった。選ばれなかった真実や記録は抹消され、多くの存在や空間が〝無かったこと〟となった」
「記録の……、抹消だッて!?」
エルスは思わず声を
「
「まさか
「あらゆる刑の本質とは、国や人々、ひいては世界を守ることにある。おそらくは
リーランドの弁が確かならば、
*
「さて、世界の成り立ちは理解できただろうか? では、この空間の正体だが……」
リーランドが話を進めようとしかけた時――。
突然ゼレウスが激しく
ユリウスは
「ゼレウスさんッ!? すまねェ、ちょっと
「……
ゼレウスはリーランドに非礼を
「そなた、構わぬのか?」
「
もはや死期を悟っているのだろう。この異空間に退路はなく、たとえ脱出できたとしても、最寄りの教会に向かうにはランベルトスまで行くしかない。
そして当然ながら道中には、あの〝
「――よかろう。では
「はい。まだ
ゼレウスは、もう助からない。
それは決して納得は出来ずとも、すでに全員が理解している事実なのだ。
エルスは強く拳を握り、感情を抑えつけるかのように歯を食いしばる。
アリサも皆の士気を下げぬよう、あえて無邪気に振舞ってはいたようだが。今では完全に口を
あまり時間は残されていない。しかし、ここはゼレウスの覚悟に
覚悟を決めたエルスは真っ直ぐに、リーランドの赤い瞳を見た。
「
「ああッ。俺たちに教えてくれ。この場所の正体と、真実と導きッてヤツを」
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