第33話 陥落都市ガルマニア
無事に
これまで七十年もの間、闇の中へと封印され続けていた街。その〝現在の姿〟を
「うわぁ……。なんだかすごい
「うえぇ、目が回りそうなのだー!」
六人の視線は一様に、空を見上げるかのように上方へと向けられている。
空は適度な明るさを保っているが、色は
しかし、それよりも彼らの目を引いたのが、まるで空中を舞うかのように張り巡らされた太い金属製のレールと、その上を高速で走るトロッコの列だった。
さらには巨大な水車が
「なんだこりゃ……。ゼレウスさん、ガルマニアッて
「まさか……。
ゼレウスは
また、ニセルが情報収集をすべく、街の男性に声を掛けてみるも、彼はこちらの存在を認識していないかのように、まるで反応を示さない。
「ふっ。もしかすると
「なんだか、不思議の国に迷い込んじゃったみたいな感覚ですね……」
あまりの光景に足を止め、エルスたちが戸惑っていると――。やがて背後からガルマニア騎士らを連れた、ディークス軍曹が姿を現した。そしてレンガ造りのトンネルを抜けた彼は、この街を見るなり舌打ちをする。
「シィッ! こんなモンがあるとぁ聞いてねぇぞ! 遊園地か!? ここは!」
「なんだ? その〝ユーエンチ〟ッてのは?」
「あぁ? このクレイジーな光景を見りゃ、馬鹿でも理解できるだろうが!」
「ディークス軍曹。この〝帝都〟は、まさか貴公の仕業なのか?」
「そんなワケがあるか! 俺様は〝鍵〟を使っただけだ! こんな頭のイカレた場所なんざ、死んでも望むワケがねぇ!」
ディークスは大声で吐き捨てた後、騎士らを連れて正面の王城へと進んでゆく。
軍曹に従うガルマニア騎士たちは〝帝都〟に浮かれる様子もなく、ただ
*
「ゼレウス様、ご報告が……」
軍曹らが去った後、カリウスが不意に立ち止まり、ゼレウスの前で敬礼をする。
「うむ? 今度は何事か?」
「ハッ……。じつは先ほど、外で反乱が起きまして……」
カリウスの話によると、エルスたちが〝闇のゲート〟を
「鎮圧は完了しましたが……。彼らは昨夜の段階から、決起を
傭兵たちが今朝のタイミングを狙ったのは、「この騎士団の中で反乱を阻止できる実力者は、ゼレウスならびにエルスたちのみ」との、判断されたが
「そうか……。ついに、
ゼレウスは深く目を
「エルス殿。
「うッ……。やっぱ、そうなっちまうのか……」
やはり、この結末しか存在し得なかったのか。エルスらとしても思うところは多々あるが、これ以上ディークスの蛮行を野放しにしておくわけにもいかないだろう。
事実として〝帝都奪還作戦〟における人員の損失は、魔物との直接的な戦闘によるものよりも、軍曹からの〝粛清〟によって失われた命の方が多い。
また
差し迫った覚悟を前に、エルスは震えを隠しきれない。そんな彼の心情を察した仲間たちが、
《エルス、あまり気に病むな。お前さんのせいじゃない》
《ああ、わかってる……。でもやっぱ、他に方法があったんじゃないかッてさ》
エルスは石で舗装された街路を見つめながら、悔しげに拳を
《うー。ミーにも身に覚えがあるのだー。仕方ないのだー》
《うん。もしかすると戦ったあと、ミーファちゃんみたいに〝良い人〟になるかもしれないし。わたしたちに出来ることを頑張ろっ?》
思えばミーファと
「……わかった。俺たちも協力するぜ、ゼレウスさん」
「すまぬ。貴公らには、何から何まで迷惑を掛ける」
ゼレウスは迷いもなくエルスに言い、ガルマニア制式の敬礼をする。
*
「それにしても……。何なんだろうな? この街は……」
エルスは無理やりにでも気分を変えるべく、奇妙な街を改めて見渡す。そこで彼は中年男性の一人に近づき、声を掛けてみることに――。
「なぁ、オッサン。――ぐあッ!? なッ、なんだ……!?」
男性の肩に叩こうと、彼に軽く触れた瞬間!――エルス自身の記憶の中に、凄まじい量の〝映像〟や〝情報〟が一気に流れ込んできた!
それは美しい農地の風景。そこで農業に
夜空には丸く
それらの情報が荒れ狂う
「ウアァアーッ……! ガッアアァ――ッ!?」
「エルスっ!」
異変を察したアリサは男性から、急いでエルスを
「びっくりしたぁ……。どうしたの?」
「助かったぜアリサ……。わからねェけど、なんか色々と〝
顔面の汗や
「あっ、ありがと……」
「問題ないのだ!」
「ティアナちゃんも? 大丈夫?」
アリサはエルスの背中に手を当てながら、ティアナに向かって視線を移す。幸いにも彼女はエルスほどの、強い影響を受けたわけではなかったようだ。
「うんっ! でもね……。さっき見えた景色の中で、この子が確かに言ってたんだ。ランベルトスのことを〝自由都市ランベルトス〟って……」
現在の
「じゃあ、このヘンテコな街は、創生紀のガルマニアってことか?」
「ふむ、過去か……。ガルマニアには歴史に記されることもなく、抹消された記録も
ガルマニアを取り戻すには、この街が置かれている現状も把握する必要があるだろう。この不思議な住民たちとは違い、建物や物品などは実体を保持しているらしく、触れると素材のしっかりとした質感が伝わってくる。
街の住民らには触れぬよう、エルスたちが
*
「あの、ゼレウス様……。ユリウス様をお見かけしませんでしたか?」
「ぬ? 貴公と共に居たと、そう記憶しているが……」
「はい……。つい先ほどまでは物珍しげな様子で街を眺めていらしたのですが。私が少し目を離してしまった
いくら不可思議な場所とはいえ、ユリウスはエルス以上の年齢だ。
「
「あっ、ユリウス! あそこにいるのだー!」
ミーファが指さした方向へ目を
「ユリウス様! まさか、軍曹どのに我々の計画を
「なッ、そりゃマズイぞッ!? 早く追いかけねェと、先に手を打たれちまう!」
「うむ……。我らも急ぐ必要がありそうだな……。ユリウス……」
この〝帝都〟の謎は
エルスたちもユリウスを追い、急ぎ王城内へと向かう。
そこで彼ら七人は、驚くべき光景を目にすることになるのだった。
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