第32話 光の鍵を持った者
次の日の朝。ガルマニア帝都の目前に設営された、
支給されたテントで目覚めたエルスたちは手早く出撃の準備を終え、指揮官であるディークス軍曹に指定された、集合場所の広場へと向かう。
ちなみにテントは六人が寝泊り可能な、標準的な冒険者パーティ用のものが与えられ、エルス・アリサ・ミーファ・ティアナの四名で利用した。ゼレウスは指揮官用の大型テントへ戻り、ニセルは夜通し
「
ディークス軍曹は大きな声を張り上げながら、
《どうやって入るんだろうねぇ? あれ》
《わからねェ。こればっかりは、アイツに頼るしかねェな》
「俺様が今から、このイカレた空間をファックする。そんで――」
「もうたくさんだ! これ以上、アンタには従えない!」
ディークスの話を
彼の顔に見覚えは無いが、少し幼さの残る声に、エルスは聞き覚えがあった。それは初日の説明会の際に〝銃〟を欲していた、あの傭兵候補のものだ。
このままではディークスによって、またしても〝
「おいおい。まさか、ここまで来て、俺様に刃向かう馬鹿がいるとはなぁ? テメェ、死ぬ覚悟はできてんだろうな?」
「うるさい! よくも仲間を殺しやがって! 僕は見たぞ! こいつはワザと森の中で、僕の仲間たちを撃ちやがった!」
傭兵の言葉に集合した一同からは、
「
なんとディークスの
放たれた弾丸はディークスの左腕をかすめ、暗黒の中へと吸い込まれてゆく。そして次の瞬間。もう一発の銃声と同時に、傭兵の額から真っ赤な液体が
「ユリウス……。おぬし――」
「逆賊は処刑いたしました。お怪我の具合は? 軍曹閣下」
傭兵を射殺したユリウスは涼しげに言い、ディークスに向かって軍隊式の敬礼をする。彼は父である騎士団長ゼレウスには、視線を合わせようともしない。
「なぜ頭を撃った? なにも、殺す必要はあるまいに……」
「ディークス
ユリウスは冷ややかな表情で言い放ち、再度ディークスへ敬礼を行なう。しかし、当のディークスは彼に対し、殺気の混じった眼光を向けた。
「おい、クソガキ。次に出しゃばりやがったら、テメェの頭を吹き飛ばしてやる」
「もっ……! 申し訳ございませんでしたっ……!」
ユリウスは一転して青ざめた表情になり、上官に対して何度も頭を下げる。そして腰を低く
弾丸によって裂かれたディークスの左腕からは、血液ではなく〝
「まぁいい。楽しい
ディークスは怒りで目を見開きながら、大声で「
*
「よぉーし! よく訓練されたデク人形ども! テメェらは地獄行きの覚悟が出来てるってワケだな? そんじゃ、いよいよ〝鍵〟の出番ってワケだ」
ディークスは口元を大きく吊り上げ、悪魔的な笑みを浮かべる。そして彼が右手をかざすと、その
「んッ……!? あれは……?」
それを見た瞬間、エルスは思わず声を漏らす。幸いながら周囲の仲間たち以外には、今の
《どうかしたの? エルス》
《あぁ、
一同が息を呑んで見守るなか、ディークスは円盤を出現させた手を、ゆっくりと〝暗黒の壁〟の中へと沈み込ませてゆく。――すると見る間に不気味な闇が晴れ、同時に濃紫色の石垣によって造られた、高い城壁へと変化した。
「おお……! これぞまさしく、帝都の城壁……!」
歓喜の声と共に、ゼレウスが震える腕を
城壁の向こうは
「おい、銀髪野郎! まずは〝
「ああ、望むところだッ! ありがたく行かせてもらうぜ」
エルスは仲間らと共に、闇のゲートの前に立つ。どうやら〝
七十年の時を
六人の間に緊張が走る――。
「いよいよだねぇ。ちょっとだけ不安だけど、頑張ろ?」
「おー! ミーたちの正義を見せてやるのだー!」
ガルマニア帝国を、この暗域から奪還する。
思うところは多々あるが、今はその目的に
「ここまで来たら、やることは変わらねェ。
エルスたちは覚悟を決め、暗黒の空間へと飛び込んだ!
*
「うげッ、真っ暗だな……。皆、はぐれねェように気をつけてくれよ」
闇の空間内では完全に視界が遮られ、方向すらも
「ううー。前も後ろもわからないのだー」
「うーん、
エルスたちは声を発し、互いの位置を確認しながら、この真っ暗な暗黒空間の中を真っ直ぐに、前へ前へと歩み続ける――。
すると目の前に小さな〝光〟が現れ、次第に大きさを増しはじめた。
どうやら、
六人は最後まで気を抜かず、暗闇の中で光を目指し、慎重に進み続けた――。
*
「おー! ついに邪悪なる闇から抜け出したのだー!」
「ふぅー! よかったぁ、ちゃんと全員居ますね!」
暗闇を抜けた先は、重厚な門の内部のような場所だった。背後には入口と同じく〝闇のゲート〟があり、前方にはトンネル状の長い通路が伸びている。
「おお……。ここは帝都の――!」
ゼレウスは言葉に詰まりながら、両の目頭を指で押さえる。いまの彼の頭の中には、言葉に出来ぬほどの熱い想いが渦巻いているのだろう。
ティアナは静かにゼレウスへ近づき、彼の背中を優しく
「ふっ、本番はこれからだが――。ひとまずの目標は達成か」
「ああッ! 何が
「すべては諸君らのおかげだ。ありがとう」
しばしの後、落ち着いたゼレウスが顔を上げ、五人に改めて礼を述べる。
直接的に帝都への〝扉〟を開いたのは、間違いなくディークスであるのだが、やはりエルスらの活躍があってこそ、ここまで
*
「うーん。他の人たち、入って
「そうだな……。『待ってろ』とも言われてねェし、先に街を調べとくか?」
六人が闇へ飛び込んでしばらく
七十年ぶりに破られた封印の先で、ガルマニア帝都は
「あれ? なんだか、人々の話し声が……」
「ほんとだ。あっ、ほらエルス。街が見えてきたよ?」
ティアナたちの言うとおり、光の先からは何やら談笑するかのような、
「おお! なんということだ!」
「なッ……!? いったい何がどうなッてんだ――!?」
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