第31話 野営地での一幕
エルスたちが〝
旧・ガルマニアの帝都は、文字どおり〝闇〟に
黒よりも、なお
もはや〝
「邪悪なのだー! まさに邪悪なる闇が渦巻いているのだー!」
「真っ黒だな。ッていうか、どうなってんだ? どうやって入りゃいいンだ?」
「ふっ、さあな――。軍曹どのにはアテがあるようだが」
エルスは兵らに
全体的な人数は不明だが、出発前の段階よりも兵士の数が減っているように感じられる。行軍の際に負傷したのか、腕や脚に包帯を巻きつけている者の姿も多い。
「なんか、ケガしてる人が多いような?」
「うーん……。もっと魔物の数を減らしておくべきだったかな……?」
そうティアナは言うものの、六人は〝レギオン〟を撃破後も、魔物たちの討伐を積極的に行なっていた。特にエルスは
「いや、諸君らは充分すぎるほどに働いてくれた。
ゼレウスは何度も大きく
「ご子息が心配ですか?」
「ああ……、すまぬ。やはり悟られてしまったか」
ニセルの言葉に、ゼレウスはバツが悪そうに笑う。いまの彼は〝騎士団長〟というよりも、ひとりの〝父親〟としての顔をしている。
「貴公、子供は?」
「いえ、まだ独り身です。
一般的な価値観でいえば、ニセルは家庭をもっていても不思議ではない年齢だ。ゼレウスは
「何が切っ掛けとなったのか。いくら説いても出撃に応じなかった
「ディークス軍曹――。彼は何者なのですか?」
ニセルの問いに、ゼレウスはしばしの
「彼は……。まさにディークス
「鍵、ですか?」
ゼレウスは黙って頷いてみせる。続く言葉が無いことから、その〝鍵〟の正体を明かすつもりは無いようだ。それを察したニセルは質問を変える。
「信念というのは?」
「彼は我らの求めに応じ、新たな皇帝となることを宣言した。ガルマニアを奪還し、その玉座に就く。そして失った
アルティリアにツリアンの町が存在するのと同様に、ガルマニアにも当然ながら、数多くの〝拠点〟が存在していた。しかし、それらの多くは
「かのアルティリアからトロントリアを奪い去った、我らが言えた立場ではないが……。ガルマニアから奪われた地は、なんとしても取り戻さねばならぬ」
「ええ。我々も傭兵として、尽力いたします」
「……感謝する」
ニセルに感謝の言葉を述べ、ゼレウスは丁寧に頭を下げる。〝帝都奪還作戦〟が開始されて以降、彼には何度も頭を下げられることとなった。この作戦にはそれほどまでに、彼の〝すべて〟が
「
ゼレウスは離れた位置で談笑している、エルスたちを
この
*
決戦前の
エルスはなんとか倒れずに踏み止まるも、大きく後ろに
「おい、銀髪野郎! ここは地獄の戦場だ。いつまでも
「グッ……! ああ、悪かったよ」
もはや彼と争ったところで、なに一つとして良い結果は生まれない。そう悟ったエルスは素直に
「あぁ? それで済まされると思ってんのかぁ? よぉーし、いい機会だ。この俺様が
ディークスは拳闘でも始めるかのように指を鳴らし、軍服の
「んッ? なんか落としたぞ」
地面に落ちた物体は、古びた〝
エルスは反射的に、
「ファック! それに
ディークスは怒号と共に銃を抜き、いきなりエルスの右腕を撃ち抜いた! 乾いた炸裂音が響くと同時に、伸ばされた腕からは真っ赤な血液が流れ出す。
突然の出来事に、野営地内の視線が
ディークスは銃口をエルスに向けたまま、乱暴に
*
「なッ……。なんなんだよッ……! いきなり攻撃しやがって……」
「エルス――っ。大丈夫?」
アリサは彼の治療をすべく、すぐに
「ちょっと待った。傷を塞ぐ前に
「あッ……。あんたは確か……、カリウスさんだッけ?」
目の前に現れた男は、エルスたちがトロントリアを訪れた際に出会った騎士・カリウスだった。彼はエルスの腕を布で
「やあ、久しぶりだね。それにしても驚いた……。治りが早いね、エルス君」
カリウスはにこやかに笑いながら、ガシャリと右手を挙げてみせる。そして今度はゼレウスに向き直り、ガルマニア式の敬礼を行なった。
「カリウス副団長。任務ご苦労」
「ハッ、ゼレウス様」
「へッ? カリウスさんって、副団長だったのか? すまねェ……」
エルスは
「いいよいいよ、気にしないで。それよりもゼレウス様、ご報告が……」
「うむ。構わん、ここで話せ。彼らは信頼できる」
「ハッ……」
一瞬の戸惑いをみせたカリウスだったが、エルスの左腕の〝盾〟を見て、
「兵たちの数が減少していることには、お気づきでしょうか? 実は――」
カリウスいわく――。
「彼は奇声を上げながら、
「なんてヤツだ……! 仲間に対してすることじゃねェ……!」
エルスは怒りを
「そうか……。わかった、引き続き
「お任せください。ご子息の
「すまぬ……。貴公には迷惑を掛けるな」
カリウスは敬礼し、本隊の方へと戻ってゆく。彼は〝見張り〟の時と同様に剣と槍を装備しており、銃は携帯していないようだった。
*
「
「もう俺は、アイツを仲間だとは思えねェよ。許せる限度を超えてやがる」
「ああ……。
ゼレウスは言いながら、エルスに深々と頭を下げる。彼にも強い信念があるのだろう。その瞳には、確かな決意と覚悟の炎が宿っていた。
あの深き暗闇の先にて待ち受けるのは、いかなる
決戦の時は、
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