第29話 悲しみのレギオン
そこで六人が到着した場所は、さきほどの広場の二倍以上はあるであろう、森の中をくり抜いたかのように大きく
「どうやらアレが、
エルスは広場の中央に
全体的なシルエットは〝馬〟に見えなくもない。しかし、脚の数は
「ううっ……。私、こういうタイプはちょっとダメかも……」
上半身は人型を保っており、太く巨大な腕には
こうした
それらの顔は時おり意思を持つかのように表情を変え、各々が
「あの顔が、さっきの声の正体みたいだねぇ」
「あれは……。まさか、レギオンか?」
ゼレウスは遅れて広場に踏み入るや、正面に巨大な魔物を
レギオンとは、ガルマニアに伝わる戦術のひとつを指す言葉だ。しかし、この場合は戦術的な用途とは異なり、単純に〝密集〟や〝集合〟といった意味合いを示す。
「……防衛せよ、防衛せよ……」
「……ガルマニアを、栄光を……」
「……陛下を、帝都を……」
不気味な顔からは口々に、
その
*
「さて、どうする?」
「あの様子じゃ、簡単に通してくれそうにはねェよなぁ……」
「うむ……。どうか彼らを解放してやってほしい」
ゼレウスは紳士的に頭を下げ、再びレギオンに対して向き直る。そして彼は静かに魔物を見つめ、ガルマニアの紋章が刻まれた騎士剣を抜いた。
そんなゼレウスの姿を認め、エルスたちも巨大な魔物の前へと進み出る。
すると侵入者の存在に気づいたのか、兜の下に隠れた瞳が真っ赤な輝きを放ちはじめた。次に
「来るぞ――! 散開せよ!」
ゼレウスは叫び、素早く横へと回避行動をとる! 同時に彼が立っていた地点を深々と
「危ねェ……! 突撃してきやがったのか……。なんて速さだ!」
開幕からの攻撃を
すると魔物は軽やかに方向を反転させ、片手で槍を高速回転させはじめた。
「ひえっ……! 次は何を仕掛けて……!?」
「クッ……、わからねェ! みんな、とにかく気をつけろッ!」
初めて戦う相手である以上、充分に警戒をしておく必要がある。エルスはレギオンを
その直後、急にレギオンの姿がエルスの視界から消えた!
《エルス! 上だ――!》
頭に響いたニセルの声に、仲間たちは
「フレイト――ッ!」
エルスは
そして巨大な槍が大地に突き立つ直前! エルスはティアナを
「だっ……、大丈夫!? ごめんねエルス……」
「ああッ……! これくらい問題ねェ。間に合って良かったぜ」
盛大な衝突音こそ響いたが、どうやら風の結界を
「いくよッ! ミーファちゃんッ!」
敵が着地した瞬間を
「ミーの正義を受けるのだー! どーん!」
「はぁぁ――ッ!」
ミーファが放つ黄金の鉄塊が脚の数本を打ち砕き、アリサの振るう金色の
しかし
さらにはレギオンの構える槍の
「わわっ! アリサ、一時撤退なのだー!」
ミーファの号令と共に、二人の少女は即座に
直後、暗黒の雷が彼女らの居た地点を打ち砕く。しかし天に
「
槍の先端を狙い、ニセルが雷の弾丸を発射する。すると魔銃の雷撃によって相殺されたのか、槍に宿っていた稲妻が
ニセルは続いてレギオン本体への射撃を行なうものの、放たれた雷弾は巨大な盾によって、
「それは〝クィントゥスの盾〟か? まさか貴公、マクシムスなのか?」
スケルトンの群れを打ち伏せながら、ゼレウスは兜の下の
「……オオォッ、ゼレウス様……」
赤い光を放つ瞳は、じっと
「……陛下、帝都、防衛を……」
「マクシムス
騎士マクシムスは帝都陥落の
まだ〝彼〟としての意思が残っているのか、ゼレウスからの呼びかけに、レギオンの頭部がゆっくりと足元を向く。
そしてゼレウスが静かにレギオンへと近づいた
《マズイッ!
エルスの声に反応し、ニセルが即座にゼレウスの元へと走る!――直後、レギオンの周囲に、
「撃たせるかよッ! サイフォ――ッ!」
風の精霊魔法・サイフォが発動し、巨体の周囲の風が動きを止めた! 同時に、無数に浮遊する火球の大半が、
《
《ふっ。充分さ――》
ニセルはゼレウスを退避させ、炎へ向かって雷撃を放つ! 雷に触れた火球は次々と
*
「……ゼレウス様、ガルマニアは、帝都は……」
「ああ、ガルマニアは健在だ。諸君らの尽力でな。よくやってくれた」
「……おお! オオオッ! オオオオ!……」
ゼレウスの返答を受け、レギオンの全身から歓喜の叫びが上がる。さらに無数の〝顔〟の
もはや
「ゼレウスさん、送ってやってもいいか?」
「なんと? もしも可能ならば……。
「わかった! アリサ、ミーファ。
エルスからの呼びかけにアリサが駆け寄り、ティアナと共に彼を支える。
ミーファもエルスの意図を察知し、彼の背中にしがみつく。そしてエルスは右手に
「デストミスト――ッ!」
闇魔法・デストミストが発動し、杖の先端から紫色の光が生じる。光はレギオンの
《ぐッ……、もう一息ッ……! 頼むッ、
エルスの顔は
やがて巨体は紫色の泡に包まれ、
帝都陥落から七十年もの間、死してなお祖国に尽くした守護者たち。彼らの
騎士たちの居た場所には、一般的なサイズに戻った〝クィントゥスの盾〟のみが
「すまぬ……。誇り高き騎士たちよ。諸君らを
「
「エルス殿――」
ゼレウスは両手で〝盾〟を持ち、地面にへたり込んでいるエルスの元へと進み寄る。そして彼は
「この盾は、どうか貴公に使って欲しい。
「……わかった。ありがたく使わせてもらうぜ」
そのような
*
最後の番人を倒したことで、
ここでエルスたちが
やがて遠方から騒がしく叫ぶ〝生者〟らの声が、風に乗って響いてきた。
エルスはアリサに肩を借り、どうにか真っ直ぐに立ちあがる。
「ようやく〝仲間〟が到着か! そンじゃ俺たちも、早く森を抜けちまおうぜッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます