第26話 帝都奪還作戦
ついに〝帝都奪還作戦〟の決行日がやってきた。エルスたちはトロントリアの町外れに
「よぉーし! 一同、
作戦開始直前のブリーフィング。ディークスは広場に設置された
《チッ……。だめだ、やっぱりコイツは好きになれねェぜ……》
《しーっ。エルス、聞こえちゃうよ?》
ディークスによる
《ええっ、これって他の人にも聞かれちゃうの!? どっ、どうしよう……》
《問題ない、ティアナ。この〝暗号通話〟は
しかし、そんな彼らとは裏腹に――。広場に整列した騎士や傭兵らの中には拳を振り上げながら、
《なんだ……? アイツ、じつは人気があったりすンのか?》
《うー。ミーは無理なのだー。悪の集会に放り込まれた気分なのだー》
見れば、ディークスに賛同している者の
《あの武器を配って、自分の味方を増やしたッてことか》
《おそらくは、な。前回の
純粋にガルマニアの奪還を目指す〝ゼレウス派〟と、闘争を楽しむために軍国を手に入れんとする〝ディークス派〟といったところか。ニセルは、そう分析する。
《
アリサからの問いに、ニセルが
あの〝銃〟の
《アイツがナナシと同じ――
《この作戦、ちょっと怖いけど……。なんだか〝不思議〟に出合える予感もするね》
ティアナの言葉に、エルスも思わず笑顔を
*
やがてディークスの演説は終わり、続いて騎士団長ゼレウスが一同の前へ現れた。ゼレウスは丁寧かつ簡潔に
「さて――。ディークス軍曹から説明のあったように、諸君らには幾つかの部隊に分かれ、作戦任務に当たっていただくことになる」
ゼレウスいわく、この作戦は、長期化することも想定されている。そのため実際にガルマニアへと
「傭兵諸君――もとい、冒険者諸君は、六人編成での行動を
説明を聞いたエルスは疑問を感じ、即座にニセルに質問する。
《ん? 冒険者のパーティは六人が良いッて? ニセル、そうなのか?》
《ああ。歴代の冒険者の間で磨き上げられてきた、最適解といったところだな。
エルスらを除いた十八人の傭兵たちは、すでに三つのパーティを編成している。彼らの多くが銃を装備していることから、訓練の時点で親交を深めていたのだろう。
「ふむ。エルス殿のパーティは五人のようなので、騎士を加えさせていただきたい」
「おッ、いいぜ! 誰が俺たちと一緒に行くんだ?」
「感謝する。では、ユリウスよ」
ゼレウスが鎧と兜で武装した、騎士の一人に目配せをする。その騎士・ユリウスは騎士団長にガルマニア式の敬礼をし、エルスの前へと進み出た。
「やあ、また会ったね」
「んッ? カリウスさん?――じゃねェな。
「はは、見覚えはないかな? エルス」
そう言ってユリウスは、頭部を
「おッ! あン時のッ! そっか、名前は
「ああ、名乗ってなかったね。改めまして、僕はユリウス・ガルマリウス――。本当はもっと長いんだけど、ユリウスと呼んでもらえると助かるよ」
ユリウスはクセのついた金髪に青い瞳、目鼻の整った
「わかったッ! よろしくなッ、ユリウス!」
「それじゃ、わたしたちはユリウスさんも入れた六人ってことでいいのかな?」
アリサの言葉にユリウスは目を細め――。
そのままゼレウスの方へと向き直る。
「騎士団長。私は、こちらの方々とは、共に行動いたしません」
「む……。ユリウスよ、何ゆえに――」
「私は、軍曹閣下と共に――。父さん。
ゼレウスに冷たく言い放ち、ユリウスは再びエルスたちへと体を向ける。そして口を
「それじゃ、そういうことだから。戦場で
ユリウスは
そんなユリウスの右腰にも、やはり〝銃〟が装備されていた。
*
「なッ……。何だったんだ?」
「うっ、うーん……? 私たち、嫌われちゃいました?」
ユリウスはエルスに対して笑顔ながらも、まるで宣戦布告かのような態度をみせた。彼の態度に困惑している一同の元へ、ゼレウスがゆっくりと進み寄る。
「申し訳ない。
「気にしてねェさ。二人が親子だったことには、びっくりしちまったけどなッ!」
「うー? それでは代わりに、団長どのが一緒に来るのだー?」
ミーファの声で、ゼレウスが足元へと視線を移す。自身を見上げる金髪のドワーフ族。
やはり、この者たちは
「おい、ジジイ! 丁度いい。……テメェは、その銀髪野郎どもと組め」
「軍曹殿。貴殿が申されるならば、喜んで承知しよう」
対応を決めかねていたゼレウスの前へとディークスが近づいてゆき、
*
「銀髪野郎! テメェらは〝特攻部隊〟だ。――喜べ。軍の先陣を任せてやるよ」
「へッ、上等だッ! やってやろうじゃねェか!」
「ヒャッハハアッ! まぁ、せいぜい
ディークスは嫌な
「いいか、デク人形ども! 我々はこれから東へ向かい、〝
「サー・イェッサー!」
銃を装備した騎士や傭兵らは口を
「おい、銀髪。テメェの失敗が、作戦全体の失敗に繋がる。わかってるよなぁ?」
「ああ、わかってるよ。――軍曹どの!」
ディークスは狂気的な笑顔と共に中指を立て、作戦の指示へ戻る。心なしか、エルスたちに対する皆の視線も、冷ややかなものに感じられた。
「なんか、完全に目をつけられちゃったねぇ」
アリサは周囲をぐるりと見回し、自身の口元に指を当てる。ティアナはエルスの
「申し訳ない……。どうか悲願達成のため、ガルマニアに力を貸してほしい」
「あんなのどうってことねェよ。俺たちは、できるだけのことをやるだけさッ!」
こうして帝都奪還作戦は様々な波乱の種を抱えながらの幕開けとなった。そしてエルスたちはトロントリア東の〝瘴気の森〟へ向け、即座に進軍を開始した。
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