第24話 語り継がれた〝真実〟
〝帝都奪還作戦〟開始の前夜。
エルスは一人、酒場の舞台の前席に座り、小演劇を
本日の演目はガルマニア帝国とアルティリア王国が一時的に同盟を結び、両国の宿敵である〝砂漠エルフ〟との決戦に臨む――と、いうものだった。
「お客さん、いつも熱心に観てくれるねぇ。そんなに気に入ってくれたのかい?」
劇が終わり、
「いやぁ。俺、
「おや、感心なことだ! これは演劇用の脚色が入ってるけど――まぁ
エルスの返答に気を良くしたのか、オーナーは
それは
アルティリア王国とガルマニア帝国――両国の同盟軍はアルティリアの〝自由都市ランベルトス〟を拠点とし、南方の砂漠へと出撃する。
同盟軍は多数の戦死者を出しながらも戦いぬき、ついに宿敵〝砂漠エルフ〟たちを、彼らの
その後は、敵拠点へ総攻撃を仕掛け、激戦の末に
「昔は、制圧の場面まで
以前は劇の終盤に、横たわるエルフ族の前で同盟軍らが祝杯を挙げる場面も盛り込んでいたらしい。そんな昔話を懐かしみ、オーナーが
「まっ、元々が〝劇的〟な戦いだったからねぇ。なかでも大活躍したのが、我らがガルマニアの
エルスはリーランドという名に思わず声を上げそうになるが、甘酸っぱいジュースと共に言葉を飲み込む。彼がこれらの演目に興味を持ったのも、それらの多くに〝英雄リーランド〟が登場していたからに他ならない。
「それに、傭兵たちの活躍も忘れちゃいけないね。なにせ、戦後は傭兵団を率いていた名も無き団長が、ガルマニアの皇帝になったって話もある。その名残もあってガルマニアじゃあ、大事な
「へぇ、そうなのか。その、リーランド――さんは、どうなったんだ?」
エルスはジュースを一気に飲み干し、リーランドの
「リーランド
そう言ってオーナーは、どこか物悲しげに天を仰ぐ。
ガルマニアには〝ミストリア正教〟における〝
そしてリーランドも、他国の歴史においての邪悪なる〝魔王〟としてではなく、誇り高き〝軍神〟として、ガルマニアの人々から敬われ続けてきた。
「今じゃ大半の騎士が誇りを捨てちまって。まぁ私らも、稼ぎのために〝騎士ショー〟なんてやってるけどね。もう、
しみじみと
その後、彼女は従業員に呼ばれたため、一礼をして立ち去っていった。エルスはテーブルに金貨を一枚置き、小さな〝宿泊所〟となっている、通路奥の部屋へと戻る。
*
「ただいま――ッて、みんな寝ちまってるか」
部屋にはベッドが二つあり、片側にはミーファとティアナが、もう片側ではアリサが眠っていた。案内をしてくれた青年・ユリウスの言葉通り、この酒場の宿泊スペースは狭く、〝二人部屋〟を一つ確保するのが精一杯だったのだ。
打ち解けあった仲間同士とはいえ、さすがに三人の少女と小さな部屋に閉じこもるのは肩身が狭く。エルスは彼女らが寝静まるまで、酒場で時間を潰していた。
「そういや……。ニセルは帰ってこなかったな」
ニセルはトロントリアに到着した夜から――酒場での作戦会議の後から姿を消し、それからエルスたちは彼を見かけなくなってしまった。しかし、特に心配をする必要はないだろう。ランベルトスの時と同様に、彼は必ず来てくれるはずだ。
「いよいよ明日か……。おやすみ、アリサ」
エルスはアリサの頭を
*
《ん……? ここは……》
夢の中で、エルスが
周囲は、ただただ、どこまでも続く、闇一面だけの世界。エルスは
するとエルスの予想どおり――。
彼の目の前に、焼け焦げた
《チッ……! やっぱり出てきやがったなッ!》
《ふふ。お待ちかねだったかい?》
《ああッ! おまえには、
少年は口元に笑みの形を浮かべたまま、闇の中で
少年の反応が無いことで、
《おい、おまえは何者なんだよッ!? やっぱり、おまえは魔王なのかッ!?》
《答えたはずだよ。僕は
言い終えるなり、エルスと名乗った少年がゆっくりと顔を上げる。額には闇色に輝く〝魔王の
その
《エルスは俺だッ! おまえは誰だッ!? 魔王リーランドなのかッ!?》
《それは、もう
再度の変わらぬ返答を受け、エルスも再び舌打ちする。このまま問答を重ねても、どうにも
《そうだ! こいつが魔王なら……。
思わぬ名案を思いついたとばかりに、エルスが戦闘の構えをとる――が、どうしても動くことが出来ない。そんな彼の姿を、少年エルスが不気味な笑みで眺めている。
《チクショウ――ッ!
《人は見たいものだけを、見たいように見る生き物だ》
誰に言うでもなく、
《人々が見てきた歴史は――。真実は〝ひとつだけ〟とは限らない》
《何を……。言ってンだ……?》
エルスは冷静さを取り戻し、真っ直ぐな目で少年エルスの顔を見つめる。――
その少年の姿は、十三年前の〝誕生日〟の――。
あの惨劇の日の、エルス
《良い仲間に恵まれたね、君は。
《おまえ……。おまえは……、いったい……?》
《覚えておいて? 僕はエルス。いつでも力を貸してあげる》
少年エルスは穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと後方へ遠ざかっていく。エルスは必死に追いかけようと試みるが――やはり、一歩も動くことはできない。
《あいつは……。俺、なのか――?》
ずっと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます