第22話 トロントリアの行末
騎士団長ゼレウスの
エルスは仲間たちと顔を合わせ、改めて作戦参加の
「さて、エルス。オレたちはどうする?」
「正直、迷ッちまうよな……。先に
エルスは全員の顔を順に見回す。アリサとミーファは「エルスに任せる」と即答するも、どうやらティアナは回答を決めかねているようだ。
「私は……。ここならエルスに会えるかなー、って思っただけで……。あはは……」
ティアナは周囲を気にしつつ、トロントリアに来た理由を小声で話しはじめた。
彼女が〝アルティリア王家〟から追放されてしまったことを聞き、エルスたちは驚きをみせたものの、当のティアナ本人には、あまり気にしている様子はない。
「それじゃティアナちゃんは、わたしたちが余計なことを言ったせいで……」
「ううん! ずっと前から注意されてたし、悪いのは私だから!」
「元々、エルスたちの仲間にしてもらうつもりだったし!」
「おー! これからは、共に探求の旅を続けるのだー!」
「わかったッ! よろしくな、ティアナ!――あとは、ニセルはどうする?」
おそらくは
「そうだな。オレとしても、やはり参加すべきだろうと思う。――それに、いくつか気になることも出てきたしな」
そう言ってニセルは、左手を広げて
エルスは改めて、ニセルに助けられた礼を述べた。
「ふっ、気にするな。〝いきなり撃つ奴〟の相手は慣れているからな」
「すごいねぇ。ニセルさん。わたし、さっきの
ニセルの左腕は、金属製の〝
こうして仲間たちの意見を
「よしッ、決めたッ! せっかく来たことだし、予定通り参加しようぜッ!」
言いながらエルスは、
*
ちょうど
「えー、お集まりの皆さま。このままトロントリアへ
まるで観光案内をするかような身振りを交え、騎士は慣れた口調で地下街への経路を説明する。それが終わると彼は再び敬礼し、再び扉の奥へと消える。
「へぇ、地下街だッてさ。
「そうだね。なんか面白そう」
「ふふー! 敵地の情報を探るチャンスなのだー!」
さきほどの騎士の説明を受け、部屋に集まっていた傭兵たちも、続々と退室を始めている。エルスたちは出入り口の混雑が落ち着くのを待ち、最後に屋外へ出た。
*
一見すると
ふとエルスが建物の横を
おそらくは、ディークスによって射殺された男の〝墓〟だろう。そこに彼の
エルスは一人で剣の前まで足を運び、
「どうしたの? エルス?」
「ああ……。
エルスは
「ここか……。結構デケェ階段だな」
「うん! なんだか
石レンガ造りの平屋の中には、
エルスたちが、その階段を下ってゆくと――。
やがて彼らの目の前に、広々とした通路が現れた。
*
「おおッ! こりゃスゲェな!」
「ほう、なるほどな。地上の〝霧〟から逃れるためか」
トロントリアの地下街を見たエルスたちは、それぞれ感嘆の声を
立ち止まって
「やぁ、団体さん。観光かい?」
「いや、俺たちは〝傭兵〟の募集で来た冒険者さッ!」
「そうか、それはご苦労さん。それじゃ、よければ酒場まで案内するよ?
案内を申し出る青年の言葉に甘え、エルスたちは彼に従って地下街を進む。
青年の話によると、ここは元々、地中からガルマニアへの侵入を行なうためのトンネルだったらしい。赤レンガなどは地上の街に有った物を、運び入れたとのこと。
「地上は少しずつ〝霧〟にやられちゃうし、
この青年はエルスと同年代か、少し
「ああ、僕は生まれも育ちもトロントリアでね。ガルマニアと言われても、今ひとつ
一同の表情から言いたいことをを察したのか、青年が自ら語る。
ガルマニア帝国滅亡から七十年。人間族による国家ということもあり、実際に敗走を経験した世代の多くが、すでに寿命を迎えている。
現在では、こうした考えを持った若い世代が増えてしまったことも、騎士団長ゼレウスの言っていた〝限界〟の一つなのだろう。
*
青年を加えた六人は通路を進み、一つの扉の前で立ち止まった。
ここまでの通路は充分な道幅が確保されており、あまり
「さぁ着いた。ここは冒険者にも人気でね。料理に劇に、狭いけど宿泊所もあるよ」
「へぇ……。こりゃ確かに、俺らだけじゃ迷っちまうとこだったぜ」
エルスは財布から金貨を一枚取り出し、それを青年の前へと差し出した。
「えっ、いいのかい? 悪いね」
「ああッ! 助かったぜ、連れてきてくれてありがとなッ!」
金貨を受け取った青年は軽い足取りで、通路の彼方へと去っていった。
もちろん、案内の
「んじゃ、ちょうど昼どきだし。なんか飯でも食いながら、話を整理しようぜ!」
「やった! 私、こういう所で食べるの初めて! 楽しみだなぁ!」
五人は
これから訪れるであろう激戦と、静かに忍び寄る不穏な気配。それらに対するためにも、エルスたちは現在の状況を整理し、来たる決戦の日に備えるのだった。
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