第16話 古代からの伝説
皆の前で立ち上がったエルスに対するように、アリサが
「……ッて言っても、アリサやミーファは知ってることなんだけどな」
エルスが苦笑混じりに、ボリボリと頭を
「ほら、俺の
年長の賢者たるリリィナに対し、エルスが発言前の確認をとる。彼なりに、これから話す内容の機密性は理解しているようだ。
「ええ。この場の者になら、話しても構わないわ。えらいわね、エルス」
「へッ、どうもッ……! そンじゃ、改めて――」
エルスは全員で情報を共有すべく、故郷の家で聞かされた内容を話しはじめた。
自身が〝精霊族〟という、極めて希少な種族であること。すでに幼少時に魔王メルギアスを倒し、自身に〝魔王の
「そうか。……ふっ。すでに
「なんともエルスらしいですわね。しかし、烙印とは厄介そうな代物ですね……」
「おー! アルティアナとは盟友なのだ! ミーも会いたかったのだー!」
真剣に聞き入っていた仲間たちが、口々に驚きや感想の声を
しかしながら、目の前でエルスの精霊化を目撃したことのあるニセルなどは、すでにエルスの特殊性には気づいていたようだ。そのためか、エルスが〝精霊族〟であるという点に関しては、あまり関心を示していない。
「
「構わんさ。冒険者とは、自由な根無し草。目的は有って無いようなものだ」
「そうさね。それにリリィナさん同様、あたしも意味があるように感じてんのさ」
ドミナは手にしたカップへ視線を落とす。透明なノイン
「エルスの周りで世界が動き出そうとしてる。師匠が消された時みたいにね……」
ドミナの言葉に、ニセルも静かに
「二十年前といえば、神殿騎士団の大遠征ね。その詳しい目的などは、大神殿によって伏せられているのだけれど……」
「それじゃ神殿騎士さんが、
アリサの視線がリリィナの方へと向くや、彼女は
「どうかしら。――でも、
リリィナは口元に指を当てながら、片付けられたテーブルへと視線を落とす。こうして会話の途中で思考状態に入ってしまうのは、彼女の
その後、しばらく沈黙が続いたこともあり、エルスは話題を変えることにした。
*
「それで、これからの方針ッていうか。ガルマニアに行く理由なんだけどさ」
「うー? 魔王を倒す方法を探すのだー?」
「それもある。……でも、なんか上手く言えねェんだけど……。まだ俺が知らない――いや、知らなきゃいけねェことが、たくさんあるような気がするんだ……」
エルスは言葉を
絵本に描かれていた、古代の勇者と魔王の物語。ファスティアでのナナシとの会話。アルティリア王都でのやり取り。そして、教会で聞かされた伝説。そのいずれにも共通して、〝アインス〟という存在が登場する――。
「なるほどな。古代の勇者アインスと、魔王リーランドの伝説を追うわけか」
「ああ。絵本とか農園とか教会とか……。どれも〝アインス〟って名前なんだけどさ。なんか〝金髪〟ッて
それにもう一つ。エルスの夢に現れた、不気味な少年が発した
「そういえば、あの
「そうなんだよな。……へッ? 処刑だッて!?」
「えっ? 聞いてなかったの? やっぱりエルス、あの時ちょっと変だったから」
アリサは教会での会話内容を
「それで、神殿騎士に捕まっちまったッてことか……」
「たしか
その後、アルティリア教会へ帰還した少女ミチアは、神の奇跡により復活。そして彼女は生涯を神に捧げ、
「その伝説なら、
「うーん……。やっぱ名前だけ同じで、別人な気がすンだよなぁ」
クレオールの言葉に、エルスは
「あら、エルス。同じ名を持つ人類は、これまでに存在しないのよ? だから〝リリィナ〟という名は私だけ。エルスやアリサも、あなたたち
「へッ? そうだったのか?」
「この世に誕生した人類ならば、誰しもが通る〝
新たなる
器は名を得て命となり、名もなき器は霧へと
かつてはミルセリア大神殿直属の
リリィナの説明を聞き、エルスの背筋を冷たい汗が伝う。
「知らなかったぜ……。なんか同じ名前が
「まっ、その場合は名前が長くなるだけさ。――オレみたいにな」
「そっか。ニセルさんの名前って〝ニセル・マークスター〟だもんね」
アリサの言葉にニセルはニヤリと笑みを浮かべ、ティーカップに口をつける。いつの間にか円卓には、ザグドが食後のお茶を用意してくれていた。
*
今後の大まかな方針も決まり、今夜の
「それじゃ、俺たちはガルマニアへ。ギルドの方は、クレオールたちに任せるぜ!」
「ええ、任せて。……うふふっ。あれ以来、
「よろしくね、クレオールちゃんっ!」
アリサはクレオールに笑顔を向け、今度はエルスの方を
「まだ集合まで時間があるし、ちょっとでも強くならなきゃだねぇ」
「ああ。
ガルマニアへ近づくためには、ランベルトス東の〝トロントリア〟を占拠しているガルマニア残党騎士団の許可を得る必要がある。そのためにエルスたちは
運命の日まで、残りわずか。
エルスたちは充分に準備を重ねながら、来るべき戦いへと備えたのだった。
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