第15話 アットホーム
アルティリア王都より南南西に位置する、商業都市ランベルトス。
天上の
「いやはや……エルスが、これほど多くの仲間に恵まれておったとは。エルネストも優れた冒険者じゃったが、やはり血は争えんのう」
円卓を囲う八人の顔を
「そうね……。それに、ランベルトス主導によるギルド制度。すでにエルスが、その最先端に居たなんてね。正直なところ、思わなかったわ……」
エルスの実力を見くびっていたとばかりに、果実酒の杯を手にしたリリィナが
「いやぁ、なんか無理やり押しつけられたッていうか……。俺も難しいのはよくわからなくてさ! クレオールやザグドが上手くやってくれて助かるぜ!」
「ふふっ。
「掃除・洗濯・錬金術。毎日楽しくやらせていただいてますぜ。シシッ! 執事
ランベルトスの実質的な王にあたる
――しかしながら、当の任命者からは詳しい目的や意図は告げられておらず、エルスたちは自由に活動を続けている。
「それにしても、こんな大きな館まで与えられるなんて……。地上三階、地下にも二階?――
「やっぱり広すぎるよねぇ。――あっ、そうだ! お姉ちゃんもギルドに入らない?」
「おッ、いいな! 部屋も大量に余ってるし、ジイちゃんもどうだ?」
リリィナに輝くような眼差しを向けるアリサに続き、エルスもラシードに対して期待に満ちた笑顔をみせる。その無邪気すぎる二人の様子に、リリィナとラシードは互いの顔を見合わせた。
「……ううーむ……。おぬしら、そのような簡単に――」
「――そうね。せっかくだし、参加させてもらおうかしら?」
ギルドへの参加に難色を示そうとしたラシード。しかし、彼の言葉を
「なっ……なんじゃと!? リリィナ、おぬし……」
「ギルド制度の世界適用は、何百年も前から申請され、幾度も見送られていた」
リリィナは目を
「それが今――この時代、このタイミングで承認された。そのことに、何か意味があると思っていたの」
――わずか十数日前に行なわれた、大神殿による『
これにより冒険者のみならず、商業・工業・農産業といった業種にも新風が吹き、『冒険者の時代』と呼ばれる現代世界においても、目に見えた形で変革が訪れていた――。
「わぁ、やったぁ! ありがとう、お姉ちゃんっ!」
リリィナの加入に、歓喜を隠さないアリサ。彼女は続いて、祖父に対しても
「うぐっ……! ぬぅ……しかしのぉ……」
孫娘の視線を受けながらも、なおも参加を渋るラシード。そんな彼の前へ、ドミナが静かに進み出た。
「――私からもお願い致します。
ドミナは丁寧な口調で言い、敬うように頭を下げる。武器製作の技術に長けるラシードの名は世界的にも広く知られており、特に錬金術に関わるドワーフ族の間では崇拝にも似た尊敬を集めている。
「おぬしまで……。わかった。そうまで
「ありがとうございます。
「わしとて――
ラシードの言葉を受け、各々の口からは喜びの声が漏れる。
こうして、リリィナとラシードの二人が正式に、エルスたちの仲間に加わることとなった――!
「――そういや、すげェよな。あの
エルスは壁際に設置された装置を指さしながら、ドミナの方へ顔を向ける。彼女は元の席に着き、ドワーフ風ハンバーグを口に運んでいた。
「んや、ランベルトスや
「ゲート……クリスタル?」
「見たことないかい? こんくらいの石の塔の
「あッ……! アレのことか」
王都の噴水広場に設置されていた、謎の石塔。ドミナの言葉で、エルスは今朝の光景を思い出した。
「なぁ、ゲートクリスタル――って、何なんだ?」
エルスはリリィナへ向けて疑問を投げかける。おそらくは彼女が、この場においての最年長であるからだろう。
「さぁ? 私みたいな
リリィナはエルスを軽く睨み、杯に口をつける。
「――ただ、世界には
「はい。ゲートの周辺からは、今なお高濃度の
エルフ族への敬意か、ドミナはリリィナに小さく頭を下げる。続いて彼女は、エルスの方へ向き直った。
「――別の空間・
最後は小声になりながら、ドミナは
「ふぅん、良い観点ね。私たちエルフの暮らす『神樹の里』も精霊界同様、現実界とはズレた領域に存在している。他にそういった空間があっても、不思議じゃないわ」
「へぇ? そんな所、どうやって行くんだ?」
「世界各地に入口となる『根』があるのよ。詳しい位置はエルフだけの秘密だけれど、私たちはそこから里へ行き来しているの」
「おー! 神樹の根なのだ! 噂どおり
口に詰め込んでいたカラアゲを
「――うおッ! 危ねェッて! つまり、ゲートのある所になら、一瞬で行けるようになるッてことか」
「ああ、今日の実験で証明されたね。今後は
「ふっ、なるほどな。世界中への転移が実現できれば、ランベルトスの影響力は飛躍的に上昇するというわけだ」
ゆっくりとグラスを揺らしながら、ニセルが含みのある言い方をする。彼はランベルトスを活動の拠点としてしていたこともあり、この街の裏側にも詳しい。
ニセルの言葉に続き、クレオールが小さく手を挙げながら発言する。
「それに関しては父――
クレオールは笑顔で言い、指の関節を鳴らしてみせる。彼女はエルスらを装置の実験台にする際にも、父親である
「おうッ、信じてるぜ! それじゃ、ギルドの方はクレオールたちに任せるとして――次は、俺たち冒険者だな」
円卓を囲む九人のうち、現役の冒険者はエルス・アリサ・ニセル・ミーファの四人だ。大所帯となったことや、ギルドの維持・運営のリーダーをクレオールが引き受けてくれたことで、エルスは改めて冒険者としての活動に専念することができる。
「ん? どうした? ガルマニアに向かうのは
「いや、ニセル。行くのは変わりねェ」
エルスは食器を置いて立ち上がる。すると全員の視線が、彼に集中する。
「――ただ、その前に……。いくつか、
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