第14話 救われし者
「エルス、大丈夫? さっきから静かだけど」
アルティアナと
「ん……? 別に大丈夫だぜ?」
自宅へと通じる街路を進みながら、エルスが
エルスは教会で〝伝説〟を聞いて以降、〝心ここにあらず〟といった状態となっていた。いまも
「そう? でも、なんか顔色わるいような」
「大丈夫だッて。
彼女に目を合わせることもなく、エルスは〝考える〟ジェスチャをしたまま、ふらふらと足を動かす。アリサは心配そうに口を曲げ、進行方向へと視線を戻した。
街には数人の巡回兵のほか、荷運びをする男性や、花壇に水やりをする女性の姿などが見受けられる。しかしながら、旅人や冒険者といった〝外の者〟の姿はない。
昼を過ぎても相変わらず、王都の人影は
*
「すっかり遅くなっちゃったねぇ」
「ああ、そうだな」
軽く時間をつぶすつもりが、思わぬ冒険に巻き込まれる形となった。アリサは自宅玄関の両開きのドアを開き、エルスと共に中へと入る。
「ただいまぁ」
リビングのテーブルでは祖父のラシードやミーファに混じり、仲間の一人が酒のグラスを傾けていた。彼は二人に気づくと立ち上がり、小さく右手を挙げてみせた。
「よう、おかえり」
全身に黒ずくめの装束を
「おッ、ニセル! こっちにニセルが居るッてことは――」
「ふっふー!
会話に割り込んできたミーファが、得意げに
エルスは朝から騒音を響かせていた、
「ああ、二人とも戻ったのかい。お邪魔してるよ」
「おっす、ドミナさん! すげェ、本当に
ドミナは装置に目を落としたまま、「そうさ」と短く肯定する。彼女は〝錬金術士〟としての高度な技術を持っており、ランベルトスでの事件以降はエルスたち〝特命ギルド〟の一員となっていた。
「よし、最終チェック完了だ。これでランベルトスの〝ギルド商館〟と完全に繋がったよ。あんたらも試してみるかい?」
「うーん……。それッて大丈夫なのか?」
「あたしら自身が実験台になったんだ、安全面は保障するさね。向こうにザグドも待機してるし、間違っても〝石の中〟に飛ぶなんてことにゃならないよ」
ドミナは額の汗を
「わかった! それなら、試してみるぜッ!」
「うん。楽しみだねぇ」
アリサはエルスの背後で笑顔をみせ、小さく
「向こうへ飛んだら、速やかに
「おうッ!」
エルスの足元の
その板上にエルスが乗るなり、無機質な
「……転送準備。
「なぁ、ドミナさん。
「なに、それも〝安全のため〟さね。そのままじっとしてておくれ」
エルスは小さく首を
「……転送、準備完了。転送、開始……」
その音声と共に、エルスの視界が真っ白な光に包まれる。彼は上下が逆さまになるような浮遊感と強烈な
*
「……転送、完了……」
「うへェ……。つッ……、着いたのか……?」
「シシッ! 無事にランベルトスへ到着しましたのぜ。エルスさま」
「ザグド……? あれ? なんかザグドが……、三人くらい居るような……?」
「シシシッ! 派手に
ザグドは紳士的に一礼し、エルスに右手を差し出した。
「ご無理なさらず。シシッ! すぐに飲み物を用意しますのぜ」
「ああ……。
再度エルスに一礼し、ザグドは床を
「わっ、すごい。本当に一瞬で着いちゃった」
部屋を出たザグドと入れ替わるように、
「あっ、エルス。……大丈夫?」
「なんとかな……。おまえ、なんともなかったのか?」
「うん。なんだか
アリサはエルスの隣に腰かけ、彼の頭を自身の膝の上に載せる。よほど負担が大きかったのか、彼の顔色は青ざめており、すっかり血の気を失っているようだ。
「そういや、前に
「そうなんだ? じゃあ、これも
「かもしれねェ……。チッ……、情けねェぜ……」
その身に膨大な
「動きを止められちまうアレ……。
「そうだね。あの博士も、絶対に倒さなきゃ」
「もっと……。もっと強くならねェと……! へッ、やってやるさ……!」
エルスは歯を食いしばりながら、ゆっくりと身を起こす。
アリサはさり気ない動作で、彼の震える体を小さな両手で支えた。
「シシッ! お待たせしましたのぜ。ご気分は?」
広間に戻ってきたザグドが二人を
「ああ、かなり良くなったぜ。ありがとな」
「わたしのぶんも? ありがとう、ザグドさんっ」
「いえいえ。こうして働けるのも、皆さまや
そう言ってザグドは二人に深々と頭を下げる。
一時は反逆者とも目され、ランベルトスを
現在、ザグドも師であるドミナと同様に、商館の〝執事長〟として〝特命ギルド〟の一員となっている。
*
「シシッ! そういえば、エルスさま。本日は
「そうだなぁ。また
「うん。わたしの家より、こっちの方が広いしねぇ」
「かしこまりました。それでは準備しますのぜ。シシシッ!」
ザグドは携帯バッグから小型の機械を取り出すと、
「すごいねぇ、ザグドさん。
「だなぁ。クレオールは書類仕事とかをやってくれてるし、俺らも頑張らねェと」
エルスはソファから立ち上がり、両の拳を握って気合いを入れる。まだ若干の
「ねぇエルス。ひとりで無理しないでね? わたしたちもいるんだから」
「ん……? ああ……」
今度はアリサの手を借りて、エルスが再び立ち上がる。すると
「む、
「へへッ……。まッ、なんとか慣れてやるさ!」
自信を
「ふふー!
「ああ、わかった……。ありがとな、みんなッ!」
新たな拠点となったランベルトスの商館にて、一堂に会す仲間たち。
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