第11話 魔術の申し子
ゆらめく
室内の右手奥には剣を構えた盗賊風の男、中央奥には
「このクソガキが……! ふざけやがって!」
「ナディアっ! もういいよ! やりすぎだ!」
戦場に立つ少女に対し、悲鳴のように訴えかける少年。
そんな彼の首に、男がナイフを突きつける。
「
「ハァ……。情けないわねぇ。ミケルを放
少女ナディアは〝お手上げ〟のジェスチャをしながら、小さく
「チッ……。ガキでも
「せっかく
剣の男の指示に従い、ナイフの男が冒険バッグからレンガ
「フォルス――っ!」
炎の精霊魔法・フォルスが発動し、ナディアの周囲に複数の火の球が出現する。その火球は蛇のように連なりながら、男の腕に絡みついた。
「んなッ!? ぐわあああ――ッ!
男は機械を取り落とし、炎の蛇を振り払うように腕を振る。ナディアが床を指さすと、炎は
「みっともないわね。教会で
視線を床に落としたまま、ナディアが
「クソが……っ! もう依頼なんか関係ねぇ! こっちのガキをブッ殺す!」
炭化し、
「愚かね……。炎よ、
ナディアの声に呼応するように、機械の残骸から〝炎の蛇〟が這い出してきた。蛇は一直線に男へと向かい、彼の首を絞めあげる。
「ゴガッ――!?」
呼吸を完全に封じられ、男はナイフを取り落とす。彼は
*
「なんだ……? あの子供、何者なんだ……?」
「うーん。わたしたち、出番なさそうかも?」
息を殺し、ただただ広間を
この異様な状況に、二人は飛びだすことができなかったのだ。
「さっきの魔法は……。本当に〝フォルス〟なのか?」
「そうよ。まさか
「あッ、気づいてたのか……」
「大きな
「ミケルを
「ああ、
幼さの残る発声に似合わず、ナディアが的確に指示を出す。エルスが床をよく見ると、奇妙な出っ張りや
「あ……、ありがとう、冒険者さん。ううっ……。こんなことになるなんて……」
「大丈夫だ、近くにティアナも来てる。すぐに帰れるぜッ!」
「ティアナ姉ちゃんが!? ああっ……! ありがとう神さま……!」
知った名を聞いた
「まったく、ついてねぇ! 他の冒険者まで来やがるとは……」
「あんたら、何やってんだ?
エルスは周囲を確認する。この空間には、木箱や酒樽によって作られた簡易的なテーブルや、金属製の見慣れない〝機械〟などが運び込まれている。
「あの変人野郎め……! 何が『誰でも可能な依頼』だ、チクショウ!」
男はエルスの問いを無視し、右手で剣を構えなおす。
彼の左腕には、きつく包帯が巻かれている。
「誰からの依頼だ? なぁ、俺は命を取るつもりは
両手でジェスチャを交えつつ、男を説得するエルス。
彼は、まだ腰の剣を抜いていない。
「甘いわね……」
そんなエルスの隣で、ナディアが小さく
*
「エルス! みんな大丈夫――!?」
「ミケルー! ナディアー!」
通路側から声が響き、アルティアナとベランツ少年が到着する。二人は足元に転がる遺体を視界に入れ、
「ティアナちゃん! とりあえずミケルくんを!」
「あっ……、ごめん! ベランツくん、ちょっと待っててね?」
アリサの呼びかけに応じ、ベランツを通路に待機させたアルティアナが、広間に一歩踏み入った。そして彼女は床に手をつき、唱えた呪文を解放する。
「マトラプト――っ!」
光魔法・マトラプトが発動し、手をついた地点に
「これで安心! さぁミケル君、帰ろう!」
アルティアナに連れられながら、ミケル少年が広間から脱出する。これまでの緊張が解けたのか、彼はベランツ少年と抱き合い、二人して泣き始めてしまった。
「ミケルー! 無事でよかったよー!」
「ごめんベランツ! みんなごめん――っ!」
喜ぶ少年らの背中を、アルティアナが優しく
「もう……、もう終わりだっ! チクショウ! チクショウが――!」
「あんたも落ち着けッて……。何があったんだよ? なんで子供らを?」
「このガキどもが勝手に入ってきたんだ! 最初は
この男の説明によると、彼らは元々、六人で活動していた冒険者の
「指示された場所で簡単な任務に就けば、
「その〝依頼〟ッてのは?」
「老若男女・種族関係なく、とにかく人を
男が
「だがなぁ……。腕が
「なぁ、もしかして依頼人ッて――」
「知るかよ! 女が〝せんせい〟だかって呼んでたが、俺の知ったことか!」
男が左腕に剣を当て、薄汚れた包帯を切り開く。
その下から現れた
「ひっ……!?」
「ンなッ!? まさか、その腕は――ッ!」
「どうだ!? もう俺はバケモノだ! もう戻れねぇんだよ!」
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