第10話 好奇心を追いかけて
「ソルクス――っ!」
アリサが照明の光魔法・ソルクスを発動し、迷宮内部を明るく照らす。
通路は人間族の大人が五人並べるほどの幅があり、穴に
「サンキュー、アリサ!――よッと」
エルスは宙に浮かぶ光球に
「わっ、手馴れてますねっ!――では、お次は私の番ですっ」
アルティアナは冒険バッグから両
「マピクト――!」
光魔法・マピクトが発動し、彼女の手にした
「おおッ、すげェ! 地図じゃねェか!」
「はいっ、
アルティアナは二人に
「こうやって見ると、
エルスは地図を指さし、作戦を練る。子供は時として、予想外の行動をとる。散開して探すよりも、しらみつぶしに調査した方が賢明だろう。
「――見落としがあるといけねェし、分かれ道で待機する奴と、見に行く奴に分かれようぜ」
「そうだね。ティアナちゃん、子供たちは
「ええっと……。ミケル君、ベランツ君、あとはナディアちゃん。子供たちの話によると、三人ですねっ」
どうやら、三人の児童はアルティアナよりも先に宝を見つけるべく、秘密裏に計画を練っていたらしい。
「一応、『装備やアイテムは準備した』らしいんですけど……」
「準備ッて言っても、
「とにかく、急いだほうがよさそうだねぇ」
アリサの意見に、二人は
また、肉食の動物が入り込んだ可能性もあれば、空腹や
三人は
「ここだな。アリサとティアナは待機で! 明かりは持ってくけど、問題ねェよな?」
「はいっ、もちろん!……ソルクス!」
アルティアナは
「――えへっ、真似しちゃいましたっ!」
「へへッ、やるなッ!――んじゃ、行ってくるぜ! フレイト――ッ!」
風の精霊魔法・フレイトが発動し、エルスを風の結界が包み込む!――結界を
「ううっ……。私が、もっと考えて行動していれば……」
「きっと大丈夫だよ。ほら、顔を上げよう?」
アリサは励ますように言い、
「そうだねっ……。うん! ありがとう、アリサちゃん!」
「うん、その意気だよ。頑張って探そっ!」
アルティアナは顔を上げ、両の拳を握り締める。早くも打ち解けた様子なのは、やはり同年代ゆえか。二人は握手を交わし、束の間の雑談をしながら待機する。
「――あっ、もう帰ってきたみたい」
アリサの声で通路へ目を
二人と合流したエルスは、フレイトの魔法を解除する。
「だめだ、居なかった! 次に行こうぜ!」
「はいっ! 急ぎましょう!」
エルスらは地図を頼りに
子供たちと面識のあるアルティアナは待機役に徹し、エルスとアリサが捜索を行なう。
「大声で呼んだりしたほうがいいかなぁ?」
「いや……何が
エルスの言葉通り、この
「そっか。それじゃ、探してくるね」
「俺も!――んじゃ、ティアナん
――しばしの
すると、一人の幼い少年が、
「ただいまッ!――おッ、見つかったのか!?」
「はいっ! この子はベランツ君。やっぱり、三人でここまで来たそうです」
「ごめんなさい……。冒険者さんにも、ご迷惑かけました……」
ベランツ少年は震える声で謝罪を述べ、礼儀正しく頭を下げる。
――彼の姿に過去の自身を重ねたエルスは、小さく身震いをする。
「そッ、そんなに気にすんなッて! 俺らが友達も見つけるからさッ!」
「はい……ごめんなさい……。よろしくお願いします……」
「おうッ! 困ってる人を助けンのが、冒険者の役目だッ!」
エルスは少年の頭を軽く
ベランツ少年を加えた
奥へ進むと分岐路の数は減り、やがて広い通路へと収束し始めた。
「奥から怪しい声がして……。ぼくは帰ろうって言ったけど、ミケルは勇者になりたいって……。うう……ナディアも聖女になるって聞かないし……」
ベランツ少年は涙声で、事情を説明する。内容を要約すると、奥から聞こえた『声』に恐怖を感じて帰還を提案するも、冒険心あふれる二人は彼を置いて先へ進んでしまったとのことだった。
「声って、どんな感じだったの?」
「なんか……男の人たちが笑ってるみたいな……だから怖くて……」
「なッ……!? これは、急いだ方がいいな……」
エルスの声に驚き、ベランツ少年はその場で
「
「わたしたち、先に行って見てくるね?」
アリサは少年を慰めながら、アルティアナへ視線を向ける。彼女は
「二人とも、お願いします。どうか彼らを救ってあげてください」
「ああッ! 任せとけ!――よし、行くぜアリサ!」
アルティアナに少年を任せ、通路を駆ける二人。
はぐれ者か、盗賊か。いずれにせよ、子供たちは
足元へ注意を向けると――風化した石レンガや土の上に、食後の生ゴミや
「クソッ……。誰か居るのは、間違いねェようだな……」
「やっぱり悪い人かなぁ?」
「――わからねェ……。でも、覚悟しとく必要はありそうだ」
エルスは自らの思慮の甘さを悔いる。先に『誰か』が入り込んでいる可能性も考慮しておくべきだった。時として、人は魔物よりも恐ろしい存在となりうるのだ。
やがて、ゆるやかにカーブした通路の先に、ゆらめく炎によって照らされた広間があるのが確認できた。
――空気の流れに乗り、わずかに子供の声や、
「チッ……。アリサ、戦闘準備だ」
彼女が
「このクソガキが! いい加減に観念しやがれ!」
やはり広間内は、エルスが危惧したとおりの状況になっているようだ。子供の安全確保を最優先にすべく、二人は壁際から広間を覗きこむ――。
「へッ?……どういう……ことだ?」
エルスは目に飛び込んできた映像に対し、間が抜けたような声を出す。
――それは、人質にされた幼い少年と、彼を人質にする男。
剣を手にしたもう一人の男と、彼に
そして、彼女の周囲に転がる、数人の男たちの姿だった――。
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