第5話 故郷への帰還
ファスティアを
「ただいまッ! 戻ったぜ、ジイちゃん!」
家のドアを開くなり、エルスは大声で帰宅を告げる。ここはアリサの実家なのだが、幼い頃に〝魔王〟に自宅を破壊されて以降、二人は一緒に育てられていた。
「むむっ? エルスか? もう戻ったのか?」
奥から現れたエプロン姿の小柄な老人が、眼を丸くする。
白髪に長い
「おじいちゃん、ただいまぁ。ふぅ、お腹すいたぁ」
「おー! まさに、そなたは
「おかえり、アリサよ。――なんと、そちらはミーファさまでございますか!?」
ラシードは
「うん。新しい仲間のミーファちゃん。やっぱり、おじいちゃんも知ってたんだ?」
「当たり前じゃ! おぬしもドワーフの血族なんじゃぞ? なんと
「へぇ、やっぱミーファってスゲェんだな!」
「ふっふっふ! みなの者、苦しゅうないのだー!」
ドワーフ族の王国・ドラムダの第三王女であるミーファ。彼女はとりわけ純血のドワーフ族や、商いを生業にする血族からの人気が高いらしい。
「ジイちゃん、大丈夫さ! ミーファは俺たちの仲間だしよッ!」
「ご主人様の言うとおりなのだ!
「ごっ……、ご主人様ですと!? エルス、おぬしは一体なにを……」
エルスは笑顔で言い放ち、ミーファの頭を優しく叩く。対して、さきほどからラシードは慌てふためいている。
「ミーはご主人様に身も心もボロボロにされたのだ! ご主人様のモノなのだ!」
「なななななっ……!?」
「いや……。だからそれは……。あのさ、実は――」
収拾がつかなくなりはじめたので、エルスはミーファと出会った
「勇猛さで知られたミーファ様を打ち負かすとは。エルスも腕を上げたもんじゃ」
「アリサや仲間のおかげだけどな! それに、ジイちゃんの剣も活躍したぜ!」
「そうじゃ。なぜに、その〝エレムシュヴェルト〟をアリサが? わざわざエルスのために用意したというのに」
ラシードはエルスの帯びた安物の剣と、ソファに立てかけられた自作の銘剣を交互に
「なんと! そのような理由で
「だって……。
アリサは二つめの干し肉に手を伸ばしながら、秘めていた不満をもらす。気づけばミーファも彼女の隣に腰かけ、一緒に
「あの〝
「えっ? そうなの?――っていうか、やっぱり変な名前が付いてる……」
「まったく……。
ラシードは、ゆっくりと
食事は外で済ませると告げたエルスだったが、ラシードは『準備をする』と言って譲らなかった。やはり彼も、孫たちが無事に帰還したことが嬉しいのだろう。
*
夕食までの時間を利用し、エルスたちは二階の自室へと向かう。薄暗い部屋にはベッドが二つ並んである他、机や本棚といった、家具一式が
ここは元々〝アリサの部屋〟だったためか、全体的に少女らしい内装だ。
「ふぅ……。やっぱ、この部屋は落ち着くぜ!」
「ちょっと
そう言ったアリサをよそに、エルスが自らのベッドの上へと飛び込む。直後、大量の埃が舞い上がり、アリサとミーファを
「もー。だから言ったのに……」
「うぇぇ……。ホコリっぽいのは苦手なのだー」
アリサは
「おじいちゃん、掃除してくれなかったのかなぁ」
「アリサのせいじゃねェか? 『勝手に入らないでねっ!』ッて言ってたし」
「あっ、そうかも……」
ベッドや家具の埃を
確かに〝乙女〟が扱うには大型だが、全体的に彫金や装飾などが
「わたしのために造ってくれた剣……」
改めて剣を
「へぇ、いいな! よく見るとカッコイイじゃねェか!」
「おー!
「ありがと。――これがあれば、もっとみんなの役に立てると思う」
エルスには
自分だけが中途半端。
先の戦いにおいてアリサは人知れず、自分自身の〝無力さ〟を感じていた。
「へへッ、期待してるぜ! まッ、いつも助けられてるけどな!」
「ふっふっふ! またミーたちの〝正義の連係技〟をみせてやるのだー!」
「うん……。二人とも、これからもよろしくね」
アリサは新たなる
「これ、返すね。ずっと使わせてくれてありがと」
「おうッ! まぁ、俺には
エルスは受け取った剣を〝抜き身〟にし、右手の
「ガルマニアで、何が出るかわからねェ。こういう切り札は、多い方が良いよな」
「そうだね。もう何十年も、あそこに入った人はいないらしいし」
「うむー。ガルマニアは〝かつて魔王に滅ぼされたこと〟と、〝
言い知れぬ不気味さと未知への恐怖。――しかし、
その後、アリサは祖父を手伝うために階下へ戻り、エルスとミーファは軽く部屋の清掃を始めた。ほどなくしてアリサが戻り、夕食の準備が整ったことを二人に告げる。表情にこそ出さないが、彼女はどことなく嬉しそうな雰囲気だ。
*
「おおッ! スゲェな、ジイちゃん! こんなに作ったのか!?」
「幸い、買出しを済ませたばかりじゃったし、アリサも手伝ってくれたからの」
テーブルの上には定番の〝勇者サンド〟とスープのほか、ラシード特製のハンバーグも並んでいる。さらには〝宿場町ツリアン〟名物の、カラアゲも用意されていた。
「いま、ツリアンが話題なんだって。かわいいメイドさんに会える町――って」
「まさか、あの店員の服が〝ミーファ様のお召し物〟を
ラシードは額の汗を拭きながら、なぜか
「ふふー! このメイド服は、正義の証なのだー!」
「あの姉さんと町長さんか……。みんな頑張ってンだなぁ」
席に着いたエルスは、テーブルの上の品々を
そこでエルスは、一つ食器が余分に用意されていることに気がついた。
「ん? ほかに誰か
「ええ、そうよ。正確には〝もう来ている〟だけれど」
不意に耳元で
「リリィナ……。あんたもいたのかよ……」
「あら、わざわざ来てあげたのよ? エルス。私に
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