第3章 ガルマニアの再興
第1話 冒険者の街へ
アルディア大陸・中東部に位置する〝商業都市ランベルトス〟の郊外にて。
「よしッ! こっちは準備完了だ!」
銀髪の若い青年が、安物の剣を腰に差しながら言う。買ったばかりの剣に、冒険者用の厚手の服。その上に、黒いマントを
彼の名はエルス。世界を駆ける〝冒険者〟としての実力は、まだまだ半人前と
「へへッ、やっぱ剣が
「うんっ、大丈夫」
アリサと呼ばれた茶髪の少女が返事をする。
彼女は長いポニーテールが邪魔にならないよう、髪を白いマントの間に挟み込んだ。さらに、重量感のある厚革製のリュックサックを、軽々と背負い上げる。小柄な体格のアリサであるが、こう見えて彼女の身体能力は高い。
「ご主人様、ミーも準備完了なのだー!」
アリサに続き、ミーファという名の少女が、元気よく拳を突き上げる。
ミーファは〝ドワーフ族〟ゆえに幼い容姿をしているが、実年齢はアリサよりも二つも上だ。彼女は長い金髪をツインテールに
*
ランベルトスを
それはこれから迎えるであろう、
「それじゃ行くぜ! あッ、途中で力尽きちまッたらすまねェ」
エルスは右手の
「マフレイト――ッ!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、エルスら三人をドーム状の風の結界が包み込む。結界は地面から
「ぐおッ……! やっぱ、まだ〝
「無理しないでね? エルス」
急激な
「大丈夫だ……! ファスティアで、ちょっと休憩できるしなッ」
「団長さん、元気かなぁ。もう手紙は届いたと思うけど」
二人は、かつて滞在していた〝冒険者の街〟への想いを
「団長に〝あの日記〟のこととか、早く知らせてやンなきゃなッ……!」
「ふっふー! 楽しみなのだ!」
「そっか。ミーファちゃんは、ファスティアは初めてなんだっけ」
ミーファとは冒険の中で出会い、現在の仲間に加わった。
出会った当初は勘違いから、望まぬ戦闘にも発展したが――。後にミーファはエルスたちの頼もしい仲間となってくれた。その際、彼女は自身を打ち負かしたエルスを〝ご主人様〟と呼びはじめ、そのまま
「そうなのだ! それに、アリサの〝お
「きっと喜ぶんじゃないかなぁ。なんたって、ミーファちゃんは〝王女さま〟だし」
アリサの祖父はミーファと同じドワーフ族であり、アリサ自身もドワーフの血を引いている。それゆえに、彼女は小柄な体格ながらも、並外れた怪力を秘めている。そして、ミーファはドワーフの王国における〝第三王女〟の立場にある人物だ。
*
少女らが会話に花を咲かせるなか、エルスは必死に
やがて周囲の光景は青々とした耕作地から、赤茶けた荒地へと移り変わってゆく。
「おし、そろそろファスティアだなッ……! でも……、
そう言ってエルスは移動速度を落とし、結界を完全に停止させる。直後、
「やっぱ
「うん。仕方ないよ。もうすぐだし、歩いていこ?」
「ふぅ……。まだまだ修行が必要だな、こりゃ……」
一息ついて立ち上がり、エルスがマントの
エルスが前方へと視線を
「相変わらずデケェなぁ、あの酒場。アリサの荷物のこともあるし、街の裏側から入って、団長とナナシの所にだけ寄ッてくか」
ファスティアには〝酒場〟を中心に複数の街路が伸びており、その一本はエルスたちの目的地である〝ファスティア自警団〟の本部にも繋がっている。
「いつもすごいもんねぇ、人混みとか。そうしよっか」
「承知したのだー!」
「よし! そンじゃ、改めて出発だッ!」
恩人と友人の住む街を指さしながら、エルスが
「おおっと!? 魔物かッ!」
エルスは即座に戦闘態勢に入り、腰に
前方に現れた
魔物は剣を振り上げながら、猛犬のような
「
「ふふー! 正義の賞金稼ぎは、魔物退治にも手を抜かないのだー!」
ミーファが右手を一振りすると、その手に巨大な斧が出現する。エルスらの腕には、武器を収納可能な
「魔物退治は、冒険者の仕事だしなッ! アリサ、じっとしててくれ。もしも
「わかった! 二人とも、がんばってね」
「ああッ、すぐに片づけるさッ! 戦闘開始――ィ!」
エルスは剣を構え、正面のコボルドへ向かって
「コイツらなら、剣だけで充分だッ! まずは一体ッ!」
迎撃の構えをとったコボルドだったが、その
倒れた魔物からは黒い霧――〝
「こっちは任せるのだー! どーん!」
ミーファは巨大な斧を
「そりゃー! 正義の
「わぁ。あっという間にボッコボコ。ミーファちゃん、すごいなぁ」
能天気に言いながら、アリサは小さく手を叩く。しかし、こうしていながらも、彼女は周囲への警戒を
魔物を成敗し、得意げにポーズを決めるミーファ。すると彼女の近くの地面がいきなり
「わわっ! 不意打ちは
ミーファは
「エンギル――っ!」
魔物の攻撃の寸前――。アリサの光魔法・エンギルが発動し、複数の光の輪が〝刃〟となって、巨大ミミズを斬り刻んだ。
太い胴体を輪切りにされ、ミミズの身体が次々と地面へ落下する。
「ふふー! いただくのだー!」
ミーファはミミズの一片を
「うえぇ……。
「当たり前だろ……。おまえ、何やってンだ?」
コボルドたちを片づけ終え、ミーファの
「うー。久しぶりに食べたくなったのだ。ドワーフ風・鉱山ミミズのステーキ!」
「あっ、美味しいよねぇ。あれ」
エルスの背後で
「うぇッ、マジか……。ッていうかアリサ、おまえも食ったことあったのか?」
「えっ? エルスも『美味しい』って言ってたよ? おじいちゃんの料理」
アリサの祖父はドワーフ族だ。当然ながら、ドワーフ伝統の料理にも精通している。エルスは
「まさか、あのハンバーグとかッて……」
「うん。せっかくミーファちゃんもいるし、ウチに帰ったら作ってもらお?」
「おー! 楽しみなのだー! ご主人様、早く向かうのだー!」
ミーファは嬉しそうに大きく
「わッ、わかったッて……。それじゃ、まずは
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