第3章 ガルマニアの再興
第1話 冒険者の街へ
「よしッ! 準備完了だ!」
銀髪の若い青年が、安物の剣を腰に差しながら言う。買ったばかりの剣に、冒険者用の厚手の服。そして、黒いマントを
彼の名は、エルス。世界を駆け巡る『冒険者』としての実力は、まだまだ半人前。
――だが、この街・ランベルトスに迫る危機を打ち払ったとして、街の指導者から『特命ギルド』なる組織を与えられるに至った。
「へへッ、やっぱ剣が
「うんっ、大丈夫」
アリサと呼ばれた、茶髪の少女が返事をする。彼女は長いポニーテールが邪魔にならないよう、白いマントの間に挟みこむ。さらに、重量感のある厚革製のリュックサックを軽々と背負い上げた。小柄な体格のアリサだが、こう見えて身体能力は高い。
「ご主人様、ミーも準備完了なのだー!」
元気よく拳を突き上げるミーファ。ドワーフ族という種族ゆえに幼い少女に見えるが、実年齢はアリサよりも二つ上だ。
彼女は長い金髪をツインテールに
ランベルトスの危機から数日後――事後の雑務も落ち着き、三人はエルスらの故郷へ向かうべく、真っ直ぐに伸びる街道へ集まっていた。
――それはこれから迎えるであろう、激戦に
「それじゃ行くぜ! あッ、途中で力尽きちまッたらすまねェ」
エルスは呼吸を整え――取り出した
「マフレイト――ッ!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、三人をドーム状の風の結界が包み込んだ!
結界は地面から
「ぐおッ……! やっぱ、まだ
「無理しないでね? エルス」
急激な
「大丈夫だ……! ファスティアで、ちょっと休憩できるしなッ」
「団長さん、元気かなぁ。手紙は届いたと思うけど」
二人は、かつて滞在していた『冒険者の街』へ想いを
「団長なら間違いねェだろうさッ……! あの日記のこととか、早く知らせてやンなきゃなッ」
「ふっふー! 楽しみなのだ!」
「そっか。ミーファちゃんは、ファスティアは初めてなんだっけ」
ミーファとは冒険の中で出会い、現在の仲間に加わった。出会った当初は勘違いから戦闘にもなったが、今では頼もしい仲間の一人だ。
――その戦闘の際、彼女を打ち負かしたエルスのことを「ご主人様」と呼び、今日に至る。
「そうなのだ! それに、アリサのお
「きっと喜ぶんじゃないかなぁ。なんたって、お姫様だし」
アリサの祖父はドワーフ族であり、アリサ自身もドワーフの血を引いている。それゆえに、小柄な体格ながらも並外れた怪力を秘めている。
そして、ミーファの方はドワーフの王国における第三王女なのだ。
少女らが会話に花を咲かせるなか、エルスは必死に
やがて周囲の光景は青々とした果実畑から、赤茶けた荒地へと変化した――。
「おし、そろそろファスティアだなッ……! でも、
そう言って速度を落とし、結界を停止させる。
「……すまねェ、やっぱ
「うん。仕方ないよ。もうすぐだし、歩いていこっ」
「ふぅ……。まだまだ修行が必要だな、こりゃ……」
一息ついたエルスは立ち上がり、マントについた
前方の――反り上がった地平線の先には、石造りの壁と巨大なテント状の屋根が
「相変わらずデケェなぁ、あの酒場。その荷物もあるし、団長とナナシの所だけ寄ッてくか」
「いつもすごいもんねぇ。人混みとか。そうしよっか」
「承知したのだー!」
「よし、決まりだッ!――行くぜッ!」
恩人と友人の住む目的地へ指さし、エルスは意気揚々と一歩踏み出す。
――すると、柱状に伸びた砂岩の
「おおっと! 魔物かッ!」
エルスは即座に戦闘態勢に入り、剣を抜く!
前方に現れた
魔物は剣を振り上げ、犬と同様の
「コボルドだねぇ。ちょっと懐かしいかも」
「ふふー! 正義の賞金稼ぎは、魔物退治にも手を抜かないのだー!」
ミーファが右手を一振りすると、その手に巨大な斧が出現した!
エルスらの腕には、武器を収納可能な
「魔物退治は冒険者の仕事だしなッ!――アリサ、じっとしててくれ。
「わかった! 二人とも、がんばってね?」
「ああッ、すぐに片づけるさッ!――戦闘開始ィ!」
エルスは剣を構え、正面のコボルドへ向かって
「アオオオッ――ン!」
「無駄だッ!――まずは一体ッ!」
迎撃の構えをとったコボルドの隙を縫うように剣を突き出し、魔物の身体を
倒れた魔物からは黒い霧――
「こっちは任せるのだー! どーん!」
ミーファは巨大な斧を
「そりゃー! 正義の
「わぁ、あっという間にぼっこぼこ。ミーファちゃんすごいなぁ」
能天気に言いながら、小さく手を叩くアリサ。だが、彼女も周囲への警戒を
――魔物を成敗し、得意げにポーズを決めるミーファ。彼女の近くの地面が弾け、巨大なミミズ型の魔物が出現した!
「わわっ! 不意打ちは卑怯なのだー!」
ミーファは慌てて武器を構える!――だが、不気味に開いたミミズの口からは強酸性の粘液が溢れ、今にも発射されようとしていた!
「――エンギルっ!」
攻撃の寸前!――アリサの光魔法・エンギルが発動し、複数の光の輪が刃となって巨大ミミズを斬り刻んだ!
――胴を輪切りにされ、ミミズの身体は次々と地面へ落下する。
「ふふー! いただくのだ!」
ミーファはミミズの一片を掴み取り、
しかし、間もなく
「うえぇ……。
「当たり前だろ……。おまえ、何やってンだ?」
魔物を片づけ終え、こちらへ駆け寄ったエルス。彼は腰を
「うー。久しぶりに食べたくなったのだ! 鉱山ミミズのステーキ!」
「あっ、美味しいよねぇ。あれ」
「うぇッ、ミミズを食うのか?――ッていうかアリサ、おまえも食ったことあったのか……?」
「えっ? エルスも美味しいって言ってたよ? おじいちゃんの料理」
アリサの祖父はドワーフ族だ。当然ながら、ドワーフ伝統の料理にも精通している。エルスは無意味ながらも、慌てて自身の口元へ手を
「んげッ!?――まさか、あのハンバーグとかッて……」
「うん。ミーファちゃんもいるし、ウチに帰ったら作ってもらお?」
「おー! 楽しみなのだー!――ご主人様、早く向かうのだー!」
ミーファは嬉しそうに飛び跳ね、エルスの肩へ
事実、筋力不足のエルスは、アリサが軽々と背負っている荷物を持ち上げることすら出来なかったのだ。
「わッ、わかったッて……。まずは
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