最終話 いざ、新たなる冒険へ!

 アルティリア北方の高山地帯。

 勇者ロイマンの一行パーティは、雪に覆われた山道を進んでいた。

 ――その時、太陽ソルまたたくような光を放ち、上空に少女の映像が浮かび上がった!

 「オッ? なんだ?」

 ゲルセイルは手でひさしを作り、空を見上げる。太陽ソルまでの距離が近いせいか、より映像は鮮明だ。

 「――ミルセリア大神殿よりせんたくです」

 銀髪の幼い少女が語った内容は、ランベルトスのギルド制度が全世界へ適用されるというものらしい。少なくとも、今の彼らには価値の無い情報だ。

 「フン。ペテン師め」

 「ふふっ」

 ロイマンは一笑に付し、雪山を進む。彼のすぐあとに、ハツネも続いた。

 「チェ、ランベルトスか。な名前を聞いチマッタゼ」

 「いいなー、あたしも銀髪がよかったかも!――あっ、待ってよゲルっちー!」

 興味なさげに歩き始めたゲルセイルを、アイエルがあわてて追いかける。

 彼らの最後尾で、ラァテルだけが空を見つめていた。

 「銀髪か……」

 そうつぶやいたラァテルの脳裏に、一人の男の姿が浮かぶ。

 「――エルス。貴様のらくいんは、俺がもらう」

 あかい瞳に殺意を宿し、ラァテルは静かに歩を進めた――。



 「ふぅむ、やはりザグドは戻りませんか。どのみち、あれの弟はとうに逃げ出していましたがね」

 「転送装置テレポーターも壊れちゃったみたいねん。むしろ好都合かしらん?」

 「ええ。もはやランベルトスは用済みです。支援者パトロンなど、幾らでも居ますからね」

 ボルモンクさんせいは神経質そうに廊下を歩きながら、成果を手帳に書き込んでいる。彼らの右手側には窓が並び、太陽ソルの光と共に少女の幻影が時おりのぞく。

 「――銀髪。そう、昔見た時と同じ……」

 ゼニファーは足を止め、窓の外をる。かつて魔法学校の学生だった頃、あの人物が『勇者ロイマン』の誕生を告げていた。

 「じゃ、やっぱりエルスって――」

 「――何をしているのです? ゼニファー! 急ぎなさい!」

 「ごめんなさい、博士センセ。すぐに行くわん」

 あるじからのしっを受け、ゼニファーは小走りで彼の元へ向かう。

 「……まだ黙っておいたほうが、イイかもねん……?」

 けがれた白衣を追いながら、ゼニファーは小さくつぶやいた――。



 「銀髪かぁ。誰かさんを思い出すわね……」

 魔法王国リーゼルタ・王立魔法学校。

 校舎の窓から外を眺め、ジニアはためいきをつく。

 空に浮かんだ少女の幻影は、なにやら小難しい内容を説明しているようだ。

 「ランベルトス? エルスたちが行くって言ってたっけ。はぁぁ……。元気かなぁ、ニセルさん……」

 理解できる単語を拾い上げ、ジニアは再び大きく息を吐く――

 「――ジニアー! お昼だよん? 買出しに行こーぜー!」

 「うふふふ。ジーちゃん、いそご? ほら、いそいで?」

 「ちょっ! 二人とも、いつから居たの!?」

 頭の中で妄想が広がりかけた矢先、ジニアは学友たちの声で現実に戻される。

 「――って言うか! ジーちゃんはめなさいよねっ!」

 「ええー、かわいいのに。ねぇ? うふふふふ……」

 「なんで、いつも壁に向かって話してんのよっ! ほらっ、行くわよ!」

 ジニアはズレた眼鏡を正し、二人の少女と共に購買部へ向かう。せんたくが珍しいのか、屋外の浮遊岩の上では、早くも生徒たちが弁当を広げていた――。



 「よーッし! みんなッ、お疲れさん!――乾杯だッ!」

 仲間たちと宴席を囲み、エルスが飲み物をかかげる。ニセルのグラス以外には、新鮮なランベルベリージュースがなみなみと注がれていた。

 「あーッ、ェ! 依頼を終えたあとの一杯は最高だぜッ!」

 酒場にて合流した四人は報酬を山分けし、早めの祝杯を挙げることにした。

 「ふっ、それが冒険者のだいさ。良いもんだろう?」

 「うんっ! それにしても、すごい金貨の山だったねぇ」

 「ふっふー! 黄金の力は聖なる力! つまり、正義の証なのだー!」

 ミーファは皿に盛られたカラアゲにフォークを突き刺し、次々と口へ運ぶ。エルスも手を伸ばし、一口かじる。

 「おッ? これって、ツリアンで食ったヤツじゃ?」

 「へぇ……、気づいたかい? やるもんだ……」

 厨房から現れた店主マスターが、新たな料理をテーブルに置く。同じくツリアンの名物である、卵ソースのかかったサラダのようだ。


 「実は今、ツリアンのシェフに料理を教わっていてな……」

 「こんばんは! 皆さんっ!」

 続いて姿を見せたメイド姿の女性が、丁寧にお辞儀をする。彼女はツリアンの宿で出会ったロマニーだった。

 「あッ、あン時の姉さん!――ッていうか、その服ってミーファの……」

 「おー! まさに正義のメイド服なのだー!」

 「はい! あまりにも可愛らしくて、頑張って作ってみました!」

 ロマニーは嬉しそうに、その場でくるりと回ってみせる。

 「すごい、みんな器用だねぇ」

 「ああ。よく似合っている」

 「皆さんのおかげですっ! ありがとうございました!」

 可愛らしくポーズを決め、ロマニーは再び厨房へと戻っていった。早い時間にもかかわらず、心なしか店内も賑やかだ。

 「ウチのかみさんもメイド服が欲しいとよ……。なんでも、街道沿いの林がれいになぎ倒されて、近道が出来たんだと……」

 「街道沿いのッて……。まさか……」

 「あっ。あの時の、正義の道!」

 「見よ! ミーたちの正義は、見事に継承されたのだー!」

 エルスたちが林を抜けてランベルトスへ向かう際、魔物と共に木々を粉砕していた。結果的に、それが新たな開拓道となったようだ。

 「アンタらの仕業かい? 俺からも礼を言うぜ……。おかげさんで、ウチにもいメニューが増えたしな……」

 店主マスターはニヤリと口元を上げて一礼し、カウンター裏へ戻っていった。


 「そっか。ツリアンにも、お客さんが増えるといいなぁ」

 「だなぁ。とりあえず、戦争の心配は無さそうだしなッ!」

 「そういえば、『商人ギルドの陰謀』とは何だったのだー?」

 ミーファは疑問を口にする。彼女の料理をつかむ手は止まらない。

 「あー……。それな、念のためいたんだけどよ……」

 エルスは一度ためいきをつき、「お手上げ」のジェスチャをする。

 「――あの悪趣味な人形を大量に作って、世界中に売りさばくんだってさ……」

 より精巧リアルで美しい少女の人形を造り、世界各地の富豪や要人らへ売りさばく。

 その後、人形の魅力によって骨抜きにされた彼らから重要な情報を抜き取り、ランベルトスが介入することで内側から支配するというものだった――。


 『これぞ、ワシの「少女細工による征服計画」なのぢゃ!』

 『なんだそりゃ……。怪しい土産みやげもんみてェだな……』

 『その通り! 各国の「VIPびっぷ」へ向けた土産と称して、盛大に送り込むのぢゃー!』


 「――なるほどな。下手に兵力を持つよりも、恐ろしいかもしれんな」

 「そッ……そうなのか? 馬鹿らしくて、上手くいくとは思えねェけど……」

 「ふっ。まぁな」

 ニセルは含みを持たせるように言い、静かにグラスをらす。彼の左腕は元通りに修復されていたが、いわく「まだ中身は空っぽ」とのことだ。


 「そういえば、次の目的地は決まったか?」

 「ああ、それなんだけどさ」

 エルスは食器を置き、仲間たちの顔を見回す。

 「――ガルマニアに、行ってみてェなッて」

 「おー! ミーは賛成なのだ! 強烈な悪の気配を感じるのだー!」

 「ガルマニア? あの、魔王に滅ぼされたっていう国?」

 「そうだ。今は近隣のトロントリアに、帝国の残党騎士たちが集まっている」

 「じゃあ、魔王を?」

 一同の視線を受け、エルスは満面の笑みを返す。

 「ああッ! 倒しに行くぜッ!」

 「そうか。それが、お前さんの目的だったな」

 ニセルは目を閉じ、エルスに向き直る。

 「――だが、ガルマニアは謎が多い。魔王が生み出した壁と結界によって、近づくことも出来んそうだ」

 「上手く説明できねェけど、まだ魔王……」

 エルスは言いかけた言葉を、慌てて修正する。

 「――じゃねェや……、まだ魔王は倒せねェ。だから、魔王の手がかりだけでも見つけたいなッて」


 数十年前。

 魔王によって滅ぼされ、今なお封印されているとされるガルマニア帝国。

 魔王のこんせきを求め、エルスはを目指す決意を語る。


 「わかった、それでいこう。ただ、かなり危険だ。油断は禁物だぞ?」

 「うんっ! しっかり準備しないとだね」

 「ふふー! 新たなる地に、正義を刻むのだー!」

 「ああッ!――ありがとな、皆ッ!」

 エルスは立ち上がり、気合いを入れるべく拳を突き上げる!

 「――よしッ、次の冒険はガルマニアに決定だッ!」


 ――新たなる目的地を定め、エルスたちの冒険は続く!

 彼らの冒険は、はじまったばかりなのだ――!

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